医学界新聞

対談・座談会

2019.04.22



【鼎談】

心からアクティブになるアクティブラーニング

溝上 慎一氏(桐蔭学園理事長/トランジションセンター所長/桐蔭横浜大学特任教授)
西薗 貞子氏(梅花女子大学看護保健学部准教授)
保田 江美氏(国際医療福祉大学成田看護学部講師)


 教育の現場において「アクティブラーニング」は広く浸透した言葉となり,主体的な学びをめざすべく,教員はさまざまな工夫を凝らしてきました。看護教育でも,授業にTBL(Team Based Learning)やジグソー法などのグループ学習の手法を取り入れた実践例が多数報告されています。皆さんも,自身の教育実践に生かしているのではないでしょうか。

 一方でそれらの取り組みは,学生の主体的な学びの達成や,臨床で活躍する看護師の育成に本当につながっているか不安になることはありませんか? アクティブラーニングの第一人者であり実証研究に取り組む教育学者の溝上氏と,大学教員として看護教育に携わる西薗氏,保田氏と共に,「心からアクティブになるアクティブラーニング」を再考していきましょう。


あなたにとって「アクティブ」とは何ですか?

溝上 本日のテーマは「心からアクティブになるアクティブラーニング」です。最初は「アクティブ」の意味を押さえましょう。まず,西薗先生の考えを教えてください。

西薗 学生が主体的な状態がアクティブだと思います。

溝上 そのときの「主体的」はどういう意味ですか。

西薗 学生が学習に対してまず興味・関心を持つこと。興味・関心によって自ら学び,深めたいことを見つけてさらに学ぶことです。そのためには授業に興味を持たせ,好循環を引き出すかかわり・仕掛け作りが教員に求められるのではないでしょうか。

溝上 「興味を持たせる」と言うのは簡単ですが,実現はとても難しくありませんか? 学生が興味・関心を前提に履修する選択授業とは違い,興味・関心に依存せず履修が求められる必修授業では,並大抵のかかわりでは学生は興味を持ちません。

保田 おっしゃる通りです。だから教育実践は難しくて。私の授業でも,学生に興味を持ってもらうためにさまざまな工夫をし課題を提示しても,学生にとっては「ただの提出しなければいけない課題」の認識にとどまっていると感じることがあります。

溝上 教員としては最低限学んでほしい知識や技能がある。分野に限らずそうですが,特に看護教育の場合は国家試験があります。教員から見れば看護職に就くために大切な授業で,興味を持って取り組んでほしい。でも,学生にとっては必ずしも興味のある学習ばかりではありません。このテーマの肝になる部分です。

西薗 ですから教員は,学生が興味・関心を持つように最大限努力する必要があるのです。

溝上 教員の仕掛けが奏功し学習に興味を持ったら万々歳ですが,そうもいかないことが多々ありますよね。学生は授業に興味を持つ段階にはない。でも必要性は理解している。「興味はないけど,必要だから」と課題に取り組む人はアクティブにはなり得ないのでしょうか。保田先生,教えてください。

保田 ただただ課題をこなしているだけの状態はアクティブではないと私は考えます。バラバラの知識や経験をつなげ学んでいく姿勢が「アクティブ」と言えるのではないでしょうか。

溝上 つまり,課題を課題としかとらえず,既有知識との関連付けがなされなければ,アクティブはあり得ないのですね。なるほど。西薗先生はどうお考えですか。

西薗 学生がアクティブになる可能性は秘めているのではないでしょうか。興味がなくても課題に熱心に取り組めば,知識の欠落や発想の貧困さに気付きます。それをバネにして,考えるために必要な言葉を学ぼうとする姿勢やモチベーションは「アクティブ」と認められると思います。

保田 その姿勢はアクティブですね。

溝上 私も同意見です。そもそもアクティブ(能動的)や主体的は,いずれも「対象への向かい方」を表します。語義を確認しましょう。主体的とは,他者に強制されることなく,自らの意思と判断で行動することです。

西薗 「この授業は面白い」と感じられれば,自学につながりますものね。

溝上 興味や関心は対象に向かう意思を強める因子です。ですが,興味がなくても他因子が代替し得ます。例えば,「授業は嫌だけど,看護師になるためには必要だ」と認識すれば,自ら授業に向き合うでしょう。「看護師になる」といった時間軸のある目標が学習への動機付けになります。理由にかかわらず,対象である学習に対して自らの意思と判断で向かっていくとき,それは学びに対して主体的,あるいはアクティブな状態だと言っていいのではないでしょうか。

「心からアクティブになる」学びとは

溝上 私たちがめざすべきは,学生が授業や課題に対して主体優勢となる状態です。今までの講義一辺倒,教員から知識が伝達されるだけの授業では学生主体は達成されません。アウトプットの機会を作り,学生がそれぞれの意思と判断に基づき授業へ向き合うことで初めて,主体的に学んでいると言えるのです。それがアクティブラーニング。パッシブ(受動的)な授業を脱却し,学習へ向き合う場を設けた授業形態です。

 アクティブとアクティブラーニングの意味が定まりました。では,テーマの「心からアクティブになるアクティブラーニング」とは何でしょうか。言い換えてみましょう。西薗先生,ここまでの議論を踏まえた考えを聞かせてください。

西薗 課題や単元の内容を自ら意味付けし,理解を膨らませて考える学習でしょうか。

溝上 「意味付ける」や「考える」が主体的であるのですね。確かに主体的ではありますが,今の西薗先生の言い換えでは「心から」が入っていませんでした。

 「心からアクティブになる」は,学生が興味関心を持って「この授業は面白い!」と学習に向き合うイメージになりますよね。でも,そうはならない現実もあることを議論してきました。これを踏まえると?

西薗 学生が興味・関心――面白いと感じる前向きな興味だけでなく,学問への違和感でもいいと思うんです――それを持って向き合う。これが「心からアクティブ」だと思います。

溝上 向き合う,ね。では保田先生。西薗先生とは違った視点からアクティブをとらえていましたね。

保田 私はやはり,知識や経験をつなげていく学びだと思います。

溝上 そう,つなげることですよね。アクティブラーニングで学生に期待できることは2つあります。1つは西薗先生がおっしゃった,課題に対して「主体的に向き合う」姿勢。もう1つは保田先生が言及した知識や経験をつなげ,自分なりの理解を深める「深い学び」です。暗記されただけの単発の知識では浅い学びです。それをつなぎ合わせることで,自分の考えが構築されていきます。ですから,学生が自ら課題と向き合い,自分の中に課題を作り,深めていく学びが「心からアクティブなアクティブラーニング」と考えます。

枠を踏まえつつ,枠を超える

溝上

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