医学界新聞

寄稿

2019.03.25



【視点】

へき地保健師協会の発足

青木 さぎ里(自治医科大学看護学部講師/NPO法人へき地保健師協会理事長)


 「へき地」とは,広辞苑によれば「都会から遠い,へんぴな土地」とされ,都市部と比べた相対的な概念である。そのため「へき地」と聞いてどのような地域を思い浮かべるかは人それぞれ異なり,その人の経験によるところが大きいだろう。人口減少,社会基盤の衰退といった危機感から,暮らしにくいとのイメージを抱く方も多いのではないか。一方で,美しい自然や今も残る相互扶助の文化から豊かに生活できる場とイメージする方もいるだろう。

魅力あるへき地での保健師活動,そこには課題も

 実際にへき地で保健師活動を経験した私は,魅力的な面が多いと感じている。住民としてその地に暮らすことでコミュニティを内側から理解でき,文化に根差した活動が展開できるからだ。住民の反応をとらえやすく,活動の評価・改善がしやすい。専門職や住民との連携や協働が容易で,包括的ケアを実現してきた地域が多いことも私の自慢の一つだ。気になる方はぜひ,へき地保健師活動に飛び込んでもらいたい。

 しかし,良い面ばかりではない。中には活動に行き詰まる保健師がいることも事実である。2018年度の保健師活動領域調査(厚労省)から概算すると,常勤保健師数3人以下の市町村における保健師離職率(定年退職含む)は8.6%と,全国市町村の4.1%に比べて高い。

 背景にはさまざまな要因がある。へき地に配置される保健師は少人数のため孤立しがちであり,互いに相談しにくい環境もその一つと考えられる。地域を熟知する保健師が少ないことは,災害が発生したときの受援の支障にもなり得る。こうした背景からもへき地の保健師同士が日頃から活動内容を共有し,支え合えるようなつながりが市町村・都道府県域を超えて必要とされている。

 へき地保健師のバックグラウンドは多様で,看護師や保健師を経験した者の他,一般企業などで社会人を経験してから保健師を志した者もおり,それぞれのキャリアに応じた支援が求められる。困り事や悩み事を抱えたときによき相談相手に巡り会えることや,将来のキャリアについて迷ったときにへき地保健師活動の魅力を再確認できることが活動を継続する大きな支えとなる。

ゆるやかなネットワークから支援する

 そこで,へき地で働く保健師の活動を支え,へき地に暮らす方々の健康を実現したいと願い,2018年9月にへき地保健師経験者数人でNPO法人へき地保健師協会を発足した。現役のへき地保健師同士の支え合いはもとより,へき地に関心のある保健医療福祉関係者や一般の方々が,へき地保健師を「応援したい」「つながりたい」と思える楽しくゆるやかなネットワークの構築をめざしている。

 併せて,行政などと協力して,人材の確保と定着に向けた人材育成支援,就労促進,サポーター登録システムなどを展開する計画である。まだ昨秋スタートしたばかりで,思いを形にするための試行錯誤をしながらつくり上げている状況だ。多彩な知識や技術,アイデアを持つ方々から幅広く協力を得ていきたいと考えている。

 関心をお持ちの方は,当協会のウェブサイトを参照していただきたい。

 人口減少,都市部への人口集中が進む日本で,へき地保健師を取り巻く状況は,多くの地域にとって地続きの未来といえる。明るい気持ちで未来に進んでいけるよう,皆さまと共に歩んでいきたい。


あおき・さぎり氏
千葉大看護学部卒後,東京都の離島・青ヶ島に保健師として赴任。2007年自治医大看護学部助教,18年より現職。著書に『離島の保健師』(青土社)。

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