在留外国人を地域で診る(沢田貴志)
寄稿
2019.03.18
【寄稿】
在留外国人を地域で診る
沢田 貴志(神奈川県勤労者医療生活協同組合港町診療所 所長)
少子高齢化の日本で働く若い世代の外国人人口は増加を続けており,この4月から特定技能という新たな名称の外国人労働者の受け入れが開始される。
私が働く横浜市の港町診療所では,地域の相談機関などの要請に応える形で1990年代から外国人患者の受け入れに積極的に取り組んできた。また,自治体の医療通訳制度の構築や多言語での結核・感染症対策などにも協力を行ってきた。近年,観光客などの訪日外国人への対応が政策的に取り組まれるようになってきたが,日本で働き,経済を支えている在留外国人に健康格差が生じないような施策が急務である1)。そこで本稿では,地域の医療機関において出会う機会のより多い在留外国人への医療について述べる。
医療通訳制度化は世界の潮流,日本国内の状況は?
医師による外国語での対応や医療通訳を介した診療を行っている私たちの診療所には,日本語が不自由な外国人が多数来院しており,外来患者の約2割が外国人である。問診で診断がつく病気でありながら,6か所の医療機関を経てきた患者さんもいれば,適切な医療を行っていた前医に対して誤解に基づく不満や不信を抱いてしまっていた人もいた。通訳不在により医師・患者の双方に不利益が生じているのは残念なことである。医療通訳の支援の重要性は病気が重くなるほど高くなり,2013年にエイズ診療拠点病院を対象にした調査では,外国人患者の診療で最も困難を感じる点は言葉の障壁であった2)。
OECD(経済協力開発機構)諸国の多くでは,移民の増加に対応し公的なサービスで通訳を利用できるようにしている。米国では連邦政府の補助金を受給している医療機関は医療通訳制度を整えることが義務化されており,通訳の利用に患者負担はない。
日本ではこうした公共目的の医療通訳派遣はあまり普及していないが,神奈川県では自治体とNPO,病院の連携で2002年に医療通訳派遣制度が導入されている3)。訓練された医療通訳の利用には一定の経費がかかるが,ひとたび通訳が利用できるようになると診療が円滑になる。制度に加わる病院は60以上にのぼり,2017年度の派遣実績は7000件を超えた。同様の制度は愛知・三重など他県に広がっている。また,東京・大阪では結核対策に特化した通訳派遣制度が自治体とNPOの連携で実施されて
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