医学界新聞

2019.02.18



Medical Library 書評・新刊案内


脳の機能解剖と画像診断 第2版

Heinrich Lanfermann,Peter Raab,Hans-Joachim Kretschmann,
Wolfgang Weinrich 原著
真柳 佳昭,渡辺 英寿 訳

《評者》森 墾(東大大学院准教授・放射線診断学)

脳の機能解剖と立体的な位置関係が統合的にわかる

 脳解剖の理解は神経連絡に尽きる。つまり神経機能解剖の理解が目的である。では,神経核がどこにあって,それをつなぐ神経線維がどう走行しているか,マクロ解剖の知識があればそれで十分であろうか。残念ながら画像検査には不十分である。脳に限らず,生体などの立体構造を機械的に切った場合の断層像を理解するのは意外と難しい。想像していた解剖学的な位置関係と,画像上の断層像での実際の描出との齟齬にビックリすることもしばしばである。これは,なまじ機能解剖を知っているせいで,親しみのある解剖学的構造は大きく,近くあるように感じてしまっているせいかもしれない。

 この機能解剖と立体的な位置関係との統合の架け橋として本書はとても有用である。われわれが本当に知りたいのは機能解剖であるが,そのためには実際の位置関係をミリ単位で追った断層像での理解が非常に役に立つのである。単なる図譜やアトラスだけの類書と異なり,そこに意味を与える機能解剖の詳細な解説を含むのが本書の大きな魅力といえる。

 もちろん本書にも改善点はある。例えば,学術用語は学派によって使い方に多少の差異がある。Reid平面(Reid基準線)の基準点は「眼窩下縁と外耳孔中点(p.6)」であると記載されているが,通常は「外耳孔上縁」を使用する1)。Wikipediaにも「外耳孔中点」と誤記されているが,言葉は時代によって変化するので,字義の幅は許容すべきなのかもしれない。ただし,翻訳本ゆえの記述であろうが,CT検査で上眼窩後頭下線が「主流になっており(p.6)」という記述は看過できない。確かに水晶体への被曝を低減させるために上眼窩後頭下線をCT基準面として採用している日本の施設もあるが,決して主流ではない。多くは眼窩外耳孔線(OML, orbitomeatal line:眼窩中点-外耳孔中点)を模した外眼角耳孔線(CML, canthomeatal line:外眼角-外耳孔中点)で撮像している。したがって,CT解剖アトラスとしてこの書籍を参照する場合は仰角にかなりの差があることを考慮しなければならない(臨床で使用する横断面と書籍の図譜とが一致しない)。

 一方,MRI検査に関しては前交連-後交連線(両交連面:AC-PC line)を基準面に採用しており評価できる(脳幹についてはMeynert軸に垂直な断面)。脳の図譜として頭蓋骨ではなく脳実質の解剖学的構造を基準とするのは極めて妥当だからである。ただし,その根拠として「(無作為抽出試験にて)外眼角耳孔面と両交連線との角度は2度以下とされている(p.6)」からMRIとCTでの横断面がほぼ一致するかのように記述しているのは正確ではない2)。細かいことをいうとTalairach両交連面の基準点は前交連上縁-後交連下縁,Schaltenbrand両交連面は両交連の中点が定義であるが,どちらであれMRIで採用されている両交連面とCTでの外眼角耳孔線に大きな角度差があるため各施設で困っているのが現状である2)

 CT基準面の採用に改善点はあるものの,われわれの知りたい神経機能解剖と画像上での描出との架け橋となる貴重な書籍であることに変わりはない。日常臨床で困った際に,折に触れて立ち返るために常にそばに置いておくべきであろう。

参考文献
1)World federation of neurology. Problem commission of neuroradiology. Brit J Radiol. 1962;35(415):501-3.
2)Weiss KL, et al. Clinical brain MR imaging prescriptions in Talairach space:technologist- and computer-driven methods. AJNR Am J Neuroradiol. 2003;24(5):922-9.

A4・頁552 定価:本体20,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03551-4


症例で学ぶ脳卒中のリハ戦略[Web動画付]

吉尾 雅春 編

《評者》森岡 周(畿央大大学院教授・理学療法学)

臨床で脳画像をどう見るべきかを提案してくれる良書

 脳卒中は脳の病気である。しかし,旧体系の理学・作業療法は脳を知らずとも,脳を意識せずともできていた。誤解を恐れず述べると,運動器疾患であろうが脳損傷であろうが,そのほとんどが関節を動かし,筋力を増強させ,基本動作を練習する。障害像が異なったとしても,実施内容にさほど違いを見いだせない。この問題の背景には,脳の知識が不十分であること,知識を持っていたとしても,それが臨床に役立てられていないことが挙げられる。本書はそれらの問題を払拭してくれる。

 本書は吉尾雅春先生(千里リハビリテーション病院副院長)を旗手とする同病院スタッフが行った脳卒中患者に対するリハビリテーションの結晶である。前半は脳の機能解剖と脳画像の解説に割かれている。通常,機能解剖に関しては,それに詳しい教育研究者が著わすことが多いが,本書は臨床に従事している理学・作業療法士がこれを書いている。そして,機能局在にとどまらず,神経経路からシステムとして脳をとらえる必要性を説いている。脳は直接損傷されていない領域も機能不全を起こすことが当たり前であり,その経路・線維も視野に入れて病態をとらえ介入すべきであるという,著者らの強い意識を感じ取ることができる。そして,この程度の機能解剖は臨床で知っていて当然と言わんとばかりの著者らの気概を感じる。同時に教育機関に対する「ここまでは最低でも教えなさい」という強いメッセージを感じる。

 後半を構成するのが症例報告である。11人の患者が登場するが,その構成としては,「脳画像から『障害像』を考えてみよう」と実際の画像情報からスタートするところに特徴がある。これはバイアスなく画像から病態を想像するトレーニングになるし,機能解剖をきちんと理解できているかがここで試される。そして現象の記述,病態の解釈,プロブレム・リストへと進む。このプロブレム・リストを見た際,私は「やっとこの時代が来たか」と肯定的にうなずいてしまった。これまでの症例報告では,現象を読みとくためにきちんと検査が遂行されていても,結局は個人の病態が見えない「関節可動域制限」や「筋力低下」などが列挙されることが多かった。しかし本書は,例えば「右上縦束損傷→左半側空間無視」などと,画像と現象を「対」にしてとらえている。つまり,画像がアクセサリー情報ではない。その後には臨床像と画像情報に整合性があるかないかがきちんと解釈されている。そして病態をとらえやすいように,QRコードを用いて動画が提供されるといった工夫がされている。

 リハビリテーション領域において脳科学を推し進めてきた私にとって,本書はそれをしてきてよかったと思わせる産物である。あえて注文するならば,早速改訂に向けて,それぞれの症例報告が査読に耐えられる内容へと進化するために,何がスペキュレーティブで何がそうでないのかを議論を重ね,次へと準備していただきたい。なぜなら,リハビリテーションの発展は症例報告にかかっているのだから。いずれにしても,リハビリテーション関連職種の皆さまに手に取っていただきたい良書として自信を持って薦めることができる。

B5・頁224 定価:本体4,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03683-2


患者と家族にもっと届く緩和ケア
ひととおりのことをやっても苦痛が緩和しない時に開く本

森田 達也 著

《評者》新城 拓也(しんじょう医院院長)

過去に亡くなった患者と身につけた知恵を,今を生きる患者に伝える

緩和ケアの原体験

 気が付けば医師になって20年,私は自分の専門分野を持つ幸運を得ました。過去に何度も自分のキャリアの節目となる機会がありました。その機会はいつも診療を受け持った患者がつくってくれた天の配剤ばかりでした。

 私が緩和ケアの魅力に取りつかれるきっかけとなった一人の患者のことを今でも明瞭に思い出すことができます。その患者は,肺がんの骨転移で相当な痛みで苦しんでいました。上司に相談しながらその患者の治療を受け持っていた私ですが,痛みの治療がうまくできず,「痛いと言ったときにソセゴン®を注射する」という今では考えられないような幼稚な治療を繰り返していました。

 緩和ケアに関する一冊のテキストを購入し,その中に書いてある治療を見よう見まねで,その患者のために実践しました。初めて,モルヒネを大型のシリンジポンプで持続皮下注射し,数時間もしないうちに痛みがほとんどなくなる体験をしました。患者と私は大いに喜びました。わずかな時間とちょっとした治療でこれほどの威力があるのかと,緩和ケアの面白さに引き込まれていきました。

自分にできることが,患者の苦痛を緩和することにつながる実感を持てる

 緩和ケアの魅力に引き込まれ,実践を続ける中で,うまくいかない体験もするようになってきます。緩和できない苦痛があるという現実を知るのです。そのとき必要なのは,治療の可能性を探ることと,「今すぐ何か工夫できること」を次々に考えつく知恵なのです。『ひととおりのことをやっても苦痛が緩和しない時に開く本』には,そのような著者の経験と周りの医療者,かかわった患者,家族の経験と知恵が集積されています。著者の考える,一人ひとりの患者に対する細かな配慮を惜しむことなく読者に教えてくれます。

 とはいえ,看護師や薬剤師は治療薬を直接処方することはできません。しかし,医師が処方した薬をどのように使うのか,また薬以外で何をするかは,工夫することができるのです。痛みのある患者に医療用麻薬のレスキュー(速放製剤)をどのようなタイミングで使うか,せん妄患者に排泄ケアをすることで落ち着きを取り戻すことはできないか,呼吸困難の患者に室温や空調を工夫することで症状を軽くすることはできないのかと多くの試みができるのです。さらには,患者との対話で,「ちょっと試してみて,だめなら元に戻せる」と声を掛け,患者の心理的な抵抗を軽減することも身につけるべき知恵として本書には満載されています。緩和ケアにかかわる医療者誰もが,病院であっても在宅であっても,「自分にもできることがある。自分のできることが,患者の苦痛を緩和することにつながっている」確かな実感を持つことができるのです。

 著者が,すでに亡くなっている過去の患者と身につけた多くの知恵は,本書とあなたを通じて,時間を超えて今を生きている患者に伝えられ,救われていくことでしょう。どうかあなたもその伝承者の一人となってください。

A5・頁272 定価:本体2,400円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03615-3


消化器内科診療レジデントマニュアル

工藤 正俊 編

《評者》菅野 健太郎(自治医大名誉教授・消化器内科学)

優れた消化器内科医育成システムの一端が凝縮されたマニュアル

 『消化器内科診療レジデントマニュアル』の書評を,編集の工藤正俊教授から直々にご依頼されたのであるが,正直に申し上げると若いレジデント向けの本書を,すでに現役を退いた評者が評価するのが必ずしも妥当ではないのではないかという思いが交錯し,一瞬逡巡した。評者自身が内科研修を受けたのは半世紀近く前で,当時の教育は上級医の経験に基づく指導に依存していた部分が多かったように記憶している。消化器内科の診断法としては,内視鏡,X線画像検査は導入されていたが,CTやMRIはなく,超音波断層画像もまだ実用的レベルに到達していなかった時代である。薬物治療についても,消化性潰瘍や,肝炎ウイルス治療などにおける病因に基づく画期的な進歩は最近の出来事である。診断や治療の進歩を整理し,合理的な医療を推進するEvidence-based medicine(EBM)の考え方が提唱され,それに基づいたガイドラインがわが国に導入され始めたのも,約20年前からに過ぎない。日本消化器病学会は,単なる知識だけでなく,医療者の相互協力,患者とのコミュニケーションスキル,プロフェッショナリズムなどの医療者に求められる基本的技能(Competency)の習熟を盛り込んだ新しい研修カリキュラムも作成している。

 このような基本的な研修システムが整備された時代にあっても,急激な医学の進歩に対応していくためには,最新の情報が盛り込まれている本書のようなマニュアルは大変便利である。その一例として肝がんの薬物治療を見ると,工藤教授ご自身が臨床試験を担当され,優れた有効性が示された薬剤だけでなく,今後有望とされる免疫チェックポイント阻害薬についても論じられていることには驚かされた。これは,ジュニアレジデントだけではなくシニアレジデントにとっても参考となるように企画されたのかもしれない。ただ,シニアレジデントは外来診療を担当するので,そこで遭遇する機会の多い機能性消化管疾患に関する記述を充実していただければと思うのは欲張りすぎであろうか。例えば,機能性ディスペプシア(FD)では,警告症状の有無の確認,H. pylori除菌治療というアルゴリズムとされているが,FDに対する保険適用を持たないH2受容体拮抗薬やプロトンポンプ阻害薬で不応の場合に除菌治療を行うという記載は改定が必要と思われる。また便秘の治療薬も,胆汁酸吸収阻害薬など新たな薬剤が上市されているので,これらも次版での追記をお願いしたい。

 工藤教授が主宰されている近畿大消化器内科学教室は,臨床のみならず,毎年100編近くの原著論文を発表し続けている学術的な実力も併せ持つわが国有数...

この記事はログインすると全文を読むことができます。
医学書院IDをお持ちでない方は医学書院IDを取得(無料)ください。

開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook