医学界新聞

寄稿

2019.02.04



【FAQ】

患者や医療者のFAQ(Frequently Asked Questions;頻繁に尋ねられる質問)に,その領域のエキスパートが答えます。

今回のテーマ
「非小児科医」のための小児感染症の診かた

【今回の回答者】上山 伸也(倉敷中央病院感染症科/感染制御室医長)


 子どもの感染症を診るのは小児科医だけでなく,救急医や総合診療医,家庭医もその機会は多いと思います。しかし日頃から小児を診慣れていないと,小児の感染症診療で戸惑うことも多いのではないでしょうか。今回は「非小児科医」のための小児感染症の診かたを概説します。


■FAQ1

小児感染症で注意するべき年齢は何歳くらいまでですか? 成人と同じように診療できるようになるのは,何歳頃からでしょう?

 子どもは大人のミニチュアではないとよく言われますが,普段,小児を診ない人にとって,小児の診察は確かに難しいと思います。感染症を診療する上でのポイントは,①新生児(生後28日以内),②29~90日,③3~36か月,④3歳(36か月)以上の4つのグループに分けて感染症のリスクを考えることです。小児科医でなくとも「新生児はできれば診察したくないけれど,小学生ならなんとか」と思う方は多いと思います。年齢が小児感染症診療で重要な要素だと皆さん気付いているのです。ここでは「3歳」が境界線になる理由を考えましょう。

 小児でも,感染臓器はどこか,原因微生物は何か,と詰めていく過程は成人と全く同じです。「特別な患者背景」が小児に4つあるだけです。

◆First exposure(病原微生物へ初めての暴露)

 小児では,病原微生物への暴露が少なく抗体がないことが多いため,初回のウイルス感染症で症状が強く出やすくなります。

◆Sick contact(病原微生物への暴露機会が多い)

 小児はsick contactの機会が大人よりも圧倒的に多いです。ウイルス感染症に罹患しやすい年齢の子どもが保育園や幼稚園で集団生活するわけですから,ウイルス感染症にかかりやすい条件がそろっています。

 逆にsick contactが最も少ないのが新生児です。生まれたばかりの新生児は,外に出ることもなく,お宮参りや1か月健診まで,外出しないのが一般的です。そのため新生児の発熱では,sick contactがない故に,細菌感染症の可能性が相対的に高くなります。

◆Small passages(気道が狭い)

 小児は,成人と比較して気管,耳管,喉頭などが狭いため,浮腫や分泌物で容易に閉塞します。小児で細気管支炎の重症化や中耳炎が多いのはこのためです。3歳を過ぎると細気管支炎と中耳炎の罹患率が低下するため,解剖学的に3歳がキーとなります。

◆Immature immunologic defenses(免疫が未熟)

 小児では,心や体と同様に免疫も発達段階です。補体活性,好中球の遊走能,細胞性免疫,液性免疫などほぼ全ての免疫力が成人より低いとされます。小児はかなりの免疫不全と考えてしまいそうですが,そこまで心配する必要はありません。確かに,小児の免疫力は成人に比べて低くはありますが,全微生物に易感染性を示すわけではありません。免疫発達の特徴を押さえれば,おのずと敵が見えてきます。

 新生児~乳児期(1歳未満)はウイルス感染症が重症化しやすいと言われます。マクロファージやNK細胞を刺激して免疫の活性化や抗ウイルス作用を持つタンパク質を作る作用があるインターフェロンの産生が未熟なためです。実際に新生児期には敗血症と間違えるようなエンテロウイルス感染症(neonatal sepsis―like syndrome)や,ヘルペス脳炎を来すことがあります。

 液性免疫について見ると,生まれたての新生児は,母からの移行抗体で守られていますが,胎盤から移行する抗体はIgGだけです。そのため正期産で生まれた新生児では,IgG値は母体とほぼ同じレベルです。移行抗体は徐々に低下し,生後3~4か月時に最も低くなります。その後徐々に増加し,1歳で成人の60%に達します1)

 ただ,インフルエンザ菌や肺炎球菌の防御に最重要と言われるIgGのサブクラスIgG 2は増加が遅く,1歳で成人の20%,5歳でようやく50%程度です。1歳までは総IgGが低く,特にIgG 2の増加が遅れることが,インフルエンザ菌や肺炎球菌に罹患しやすい理由の1つになっています。

 また,莢膜多糖体抗原へのIgGの反応も悪く,反応できるのは2~3歳を過ぎてからとされます。そのため莢膜を持つ細菌(インフルエンザ菌や肺炎球菌など)に易感染性を示すのです。

 加えてIgAも増加が遅く,成人の60%に達するのは6~8歳頃とされています。IgA値が低いために,6歳頃までの乳幼児は気道感染や消化管の感染症に頻回に罹患してしまうわけです。

 以上のような免疫の発達を見ていけば,学童(6歳)以上になれば,成人とほぼ同様の対応が可能となります。病歴と身体所見で診断を付けることがある程度できます。

Answer…小児で注意が必要なのは免疫学的,解剖学的には3歳頃まで。遅くとも学童期(6~12歳)以降は成人とほぼ同様の対応でよい。

■FAQ2

小児では感染巣がわからないことが多々あります。どのような感染症を念頭に置いて診療するべきでしょうか?

 通常,成人のウイルス感染症では「フォーカスがわからない」ことはまれですが,小児では比較的よく経験します。このような病態を「fever without source(FWS)」と言います。このFWSは「全身状態に問題がなく特異的な身体所見もない乳幼児の発熱例」のことです。ほとんどが自然軽快するウイルス性疾患ですが,重症感染症の初期あるいは前駆状態と考えられているoccult bacteremia(OB)や尿路感染症などの可能性があり,これらをいかに診断(あるいは除外し)治療するかがこの疾患概念の根本的な考え方となっています。

 熱源がわからない場合には,頻度の高いウイルス感染症,OB,尿路感染症,中耳炎の4つを考えます。もちろん骨髄炎や関節炎,呼吸器症状の乏しい肺炎なども乳幼児では症状が顕在化せずフォーカス不明の発熱として認識されやすいですが,疾患頻度を踏まえて,まずは上記4つを考慮しましょう。

 最初の入り口は,ウイルス性か細菌性かの鑑別です。多くの医師はCRPや白血球で鑑別すると思いますが,もっと非侵襲的で有用な方法があります。それはワクチン接種歴(小児用肺炎球菌ワクチン,ヒブワクチン)とsick contactの有無の確認です。ワクチン接種が各2回以上あれば,肺炎球菌とインフルエンザ菌感染症の可能性をかなり下げられます。Sick contactがあれば,周囲の流行疾患に合致した潜伏期間で発症するウイルス感染症を積極的に疑うことができます。

 その上で細菌感染症の可能性が残る場合,中耳炎を検討します。中耳炎の診断には鼓膜所見が重要です。中耳炎は高率で自然に改善するため,①2歳未満,②症状の強い中耳炎(39℃以上の発熱,耳痛が48時間以上持続する,全身状態が不良),③両側中耳炎,④耳漏を伴う,のいずれかに該当すれば,高用量アモキシシリン80~90 mg/kg/日,1日2回の処方を検討します2)

 鼓膜所見に異常がなければ,次いで尿路感染症を検討します。尿路感染症の既往があれば全年齢で検討するべきです。既往がなければ,基本的には男児では1歳以下,女児では2歳以下でバッグ尿検査を行います。特に,女児で2日以上発熱が持続している場合や,1歳以下,他に熱源が不明の場合には尿路感染症を積極的に疑うべきです。月齢3か月以上の児では「dipstickテストで白血球または亜硝酸塩が陰性」かつ「顕微鏡所見で白血球≦5/HPF」であれば尿路感染症を感度99%で否定できます3)。陽性所見があればカテーテル尿を採取し,尿グラム染色を行った上で尿路感染症の有無を判断しましょう。

 尿所見に異常がなく,ワクチン接種歴も問題なく,全身状態も悪くなければ,経過観察です。ワクチン接種歴が各2回以上なければ,OBの可能性を考慮して,血液培養を提出しましょう。

Answer…FWSの乳幼児で念頭に置くべき細菌感染症はOB,尿路感染,中耳炎。ワクチン接種歴は細菌感染症のrule outに,sick contactはウイルス感染症のrule inに使える。

■FAQ3

小児で血液培養を提出すべきタイミングがわかりません。また,提出する際は小児でも2セットとるべきでしょうか?

 血液培養を提出すべきタイミングは菌血症を疑ったときですが,ではいつ菌血症を疑うかを具体的に示すのは難しいです。そのため私は「CRPを見たいと思ったときは血液培養提出のタイミング」と強調しています。

 FWSの患児の細菌感染症に対するCRPの感度と特異度は,カットオフ値を4.4 mg/dLにするとそれぞれ63%,81%4),7 mg/dLにすると79%,91%5)です。思っているほど有用な検査では決してありません。CRPをある程度参考にしてもよいとは思いますが,その際には必ず血液培養も一緒に1セット提出しておくべきです。

 幸い小児では血液中の菌の濃度が高いと考えられており,1セットでも十分だと記載されている教科書もあります。ただし採血量が多いほど感度は当然高くなるので,可能な限り2セット提出することを私は勧めています。常に2セット提出が難しい方は,「CRP 7 mg/dL以上ならば2セット目を提出する」方法も許容されるかもしれません。

Answer…CRPを見たいと思ったら,同時に血液培養も提出する。2セット提出が望ましいが,CRPが高ければ2セット目を追加する方法も許容される。

■もう一言

 小児感染症のほとんどがウイルス感染症です。発達段階にある小児の解剖学的,免疫学的特徴を押さえ,注意すべき感染症を理解し,sick contactとワクチン接種歴を確認すれば,小児感染症を過度に恐れる必要はありません。ワクチンの普及により,血液培養で菌が検出されても,真の菌血症の割合よりもコンタミネーション率のほうが高くなっている現実があり,血液培養提出のタイミングはとても難しくなっています。それでも血液培養で救われる児がいまだたくさんいるのも事実です。全例で2セットの血液培養は難しいですが,せめて採血をしたときに血液培養を提出することで,多くの児を救えるように思います。

参考文献
1)Pediatrics. 1966[PMID:4956666]
2)Pediatrics. 2013[PMID:23439909]
3)J Pediatir. 2005[PMID:16227029]
4)Arch Pediatr Adolesc Med. 2002[PMID:12197798]
5)Pediatrics. 2001[PMID:11731648]


かみやま・しんや氏
1997年阪大基礎工学部卒。2004年金沢大医学部卒。倉敷中央病院で初期研修,小児科後期研修の後,国立成育医療センター感染症科(当時)初代フェローとなる。13年に倉敷中央病院で感染症科を立ち上げ,現職。著書に『小児感染症の診かた・考えかた』(医学書院)。

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