医学界新聞

寄稿

2019.01.28



【FAQ】

患者や医療者のFAQ(Frequently Asked Questions;頻繁に尋ねられる質問)に,その領域のエキスパートが答えます。

今回のテーマ
処置時の鎮静・鎮痛に押さえたい3つのスキル

【今回の回答者】小出 智一(東京ベイ・浦安市川医療センター救急集中治療科)


 今や,手術室やICUだけでなく,外来の処置室や血管造影室,内視鏡室などさまざまな場面において,各種の鎮静薬や鎮痛薬が使用されています。しかし,医師の指示のままに投薬し,処置終了後には「覚醒しているから帰宅して大丈夫!」とルーティンの判断に陥っていないでしょうか?

 処置時の鎮静・鎮痛(procedural sedation and analgesia;PSA)は患者の苦痛を和らげる一方で,わずかな見逃しが致命的な事態を招くこともあり得ます。そこで今回は,医師と共にPSAにかかわる看護師が覚えておきたい3つのスキルを一緒に学びましょう。


■FAQ1

肩関節脱臼を主訴に救急外来を受診した患者に対し,脱臼整復を行うことになりました。処置時に痛みや苦痛を伴うことが予想されるため,PSAの実施が検討されています。PSAを行う前の準備段階で押さえるべきポイントは何でしょうか?

 まずは処置前にAMPLEを用いて体系的に情報収集をします。AMPLEとは処置時にすべき病歴聴取で,Allergy(アレルギー),Medications(薬剤歴),Past history/Pregnancy(既往歴/妊娠の有無),Last meal(最終飲食時間),Event(最近のイベント)の頭文字です。特にアレルギー歴や最終飲食時間は,使用薬剤選択や処置開始時間に大きく影響する内容です。介助を行う看護師が,処置中に生じる可能性のある副作用をアセスメントする上で有用です。

 PSAはチームで行うことが何より重要です。目標鎮静深度を共有し,患者にとって安全安楽で適切な鎮静深度を維持しましょう。鎮静深度には,浅鎮静・中等度鎮静・深鎮静・全身麻酔があります。PSAでよく起こるのが予定より深い鎮静深度となり,呼吸管理などが必要となるケースです。そのため事前にAMPLEによる情報と処置内容をアセスメントして準備を進める必要があるのです。

 準備では,PSAを行う上で欠かせない準備物品を確認するための語呂合わせ「SOAPIER」を紹介します。これはSuction(吸引器具),Oxygen(酸素投与器具),Airway stuff(気道確保器具),Pharmacy stuff(薬剤),IV-line(静脈ライン),Equipment(モニター機器),Rescue(急変時用の物品)の頭文字をとったものです(表1)。

表1 鎮静の前に準備すべき物品の語呂合わせ「SOAPIER」1)

 「必要になったら取りに行けばいい」ではなく,しっかりプランを考え急変時に行動ができるように準備しておきましょう。舌根沈下や呼吸抑制が原因となって低酸素血症から心肺停止に陥る可能性は常にあります。油断したときに限って,最悪の事態が起こるものです。万全の準備で臨みましょう。

Answer…身につけたい1つ目のスキルは,系統立った情報収集と十分な準備です。AMPLEで情報収集をしてチームで処置の内容と方針を共有しましょう。その上で,目標の鎮静深度に合わせ,SOAPIERに基づきモニターや気道確保器具の準備を行います。副作用が出たり鎮静深度が想定よりも深くなったりしたときにどう対応するかを事前にチームで話し合い,準備しておくと安全です。

■FAQ2

いよいよPSAが始まりました。鎮静専任の医師をサポートする看護師が,患者のモニタリングを行う上で注意すべき点はありますか?

 対象症例によって鎮静深度や薬剤の使い分けがなされますが,どのような状況であっても継時的なモニタリングが欠かせません。よく用いられる機器はSpO2モニター,心電図モニター,自動血圧計があります。他に呼気終末二酸化炭素ガス(EtCO2)モニターがあれば換気の評価が簡易にできるので有用です。処置中の医師は処置内容に集中するため,介助する看護師が全体を見渡し,異常を発見したら真っ先に報告するという心構えが必要です。そのため,PSAに使用する薬剤で,どのような副作用が生じるかを前提知識として把握しておきましょう。薬剤の影響がバイタルサインや生体反応としてどこにどのように現れるかを知っておくことが重要です。

 ただし,単にモニターをつけて数字や流れる波形を目で追っているだけでは不十分です。異常にすぐ気付けるように,アラーム設定をあらかじめ変えておくのがポイントです。アラームの設定も,例えばSpO2が90%になってから鳴るのでは手遅れになってしまいます。そこで,99%を維持していた患者であれば,私は95%でアラームが鳴るように設定します。

 その他モニター機器のアラームもデフォルト設定ではなく,患者の正常値±20%でアラームが反応するようにします。そして,何よりも頼りにしたいモニターは自分自身の目です。処置中の患者の反応や表情と,モニターの数値が合致しているかを常に考えます。例えば,患者が動かなくても頻脈になっていたら,鎮痛が不十分な可能性があるのですぐに医師に報告します。

 患者・医師・処置範囲・モニターを,一括して視界にとらえられるポジションをとるよう私は心掛けています。こうすると,異常の早期発見や報告を行いやすくなるからです。PSAの管理だけでなく処置の介助も行いやすくなるよう,アラーム設定と合わせて物品の配置を事前に整えるようにしましょう。

Answer…2つ目のスキルは観察能力です。モニターの数値や波形を注意して見るのはもちろん,自分の目を使って異常を早期発見し,致命的な事態となる前にチームで連携し対処していきます。モニターやアラームはあくまで自分の補佐として機能していることを意識してモニタリングしましょう。

■FAQ3

無事に処置が終了しました。帰宅の判断はどうすればよいのでしょう。処置終了後の管理や観察は,どのような点に注意すればよいでしょうか?

 処置が終わればすぐ撤収! とはいきません。「家に帰るまでが遠足」に倣うと,「患者が帰宅するまでがPSA」と言えます。使用した薬剤の投与量や半減期にも左右されますが,薬剤に応じて何分後までモニタリングするかをあらかじめチームで確認し共有しておきましょう。

 処置後の経過観察はPSAの管理において最も重要な場面です。患者に薬剤の効果が残り,処置の刺激が弱いままの状態にもかかわらず,医療者が離れてしまっては観察が手薄となるからです。モニタリングの継続は必須として,どのような状況になれば「患者は帰宅できる」と判断してよいのでしょうか? 

 帰宅基準の評価尺度として今回は,modified PADSSをご紹介します(表2)。10点満点で評価し,9点以上なら帰宅可能と判断できますので,ぜひ活用してください。

表2 帰宅基準の評価尺度「modified PADSS」(総計10点,9点以上で帰宅可,文献2より作成)

 ところで,「拮抗薬を使えばすぐに起きて帰れるのでは」と疑問に思いませんか? 確かに一時的な覚醒は得られるかもしれません。しかし,拮抗薬のほうが早く効いて早く切れるとなると,院内で会計中や病院からの帰宅途中に拮抗薬の効果が切れて,思わぬ場所で再鎮静がかかってしまうことも起こり得ます。拮抗薬の使用の有無にかかわらず,私はPSA後の方にお伝えしていることがあります。それは「今日は家事や移動はしないで,ゆっくり休んでください」ということです。包丁を用いコンロで火を使う料理中,あるいは自転車や自動車の運転中に薬剤の効果が出てしまう可能性もあるからです。これは患者本人はもちろんのこと,周囲の人も危険にさらしてしまいます。そのリスクを具体的にお話しし,体を休めていただくようにお願いしています。

Answer…3つ目のスキルはPSA後の管理と評価です。「処置の終わり=鎮静の終わり」ではありません。処置後も油断せずにモニタリングし,PSA前とほぼ同等の覚醒を得られたことを確認しましょう。患者の生活はPSA後も続きますので,その後の生活をイメージした具体的なアドバイスができると患者さんも安心できます。

■もう一言

 現在のところ本邦では,PSAの系統立った学習コースが充実しているとはまだまだ言えない状況です。PSAにかかわる看護師の多くが,経験則や医師の指示に従い実施しているのが実情ではないでしょうか。だからこそ今一度,自分たちの行っている処置の妥当性を考え,改善していく必要があります。

 いつでもどこでも誰でも安全なPSAを行えるよう,PSA(処置時の鎮痛鎮静)研究会が発足しています。看護委員会もあり看護師対象の研修も実施しています。当研究会のFacebookページもありますので,関心のある方はお気軽にお問い合わせください。

参考文献
1)乗井達守,他.処置時の鎮静・鎮痛ガイド.医学書院;2016.
2)Anesth Analg. 1999[PMID:10071996]


こいで・ともかず
上武大看護学部卒。2008年杏林大病院高度救命救急センター,12年より現職。ICU・HCUを経て,現在は救急外来業務と緊急カテーテル治療,緊急内視鏡に携わる。15年より同センター併設の地域医療振興協会シミュレーションセンターでシミュレーション教育も担当する。

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