チーム医療と患者教育に活用したい『心不全手帳』(眞茅みゆき)
寄稿
2019.01.21
【視点】
チーム医療と患者教育に活用したい『心不全手帳』
眞茅 みゆき(日本心不全学会『心不全手帳』作成委員会/北里大学看護学部教授)
心不全の進展や増悪を予防する上で患者のセルフケアは重要であり,心不全医療ではセルフケアを促進するための患者,家族への教育や医療者による効果的な支援が不可欠である。
昨今,各医療機関では,多職種チームによる心不全治療・管理が浸透し,治療アドヒアランスやセルフモニタリング能力の向上をめざし,患者教育や退院後の継続的支援を強化している。しかしながら,心不全患者や家族にとって,心不全の病態や治療を理解することや自己管理を継続することの難しさが指摘されており,効果的な支援方法の確立が求められている。
そこで,日本心不全学会では,患者教育やセルフケア支援のための有用なツールとして,正しい知識の提供と患者のセルフモニタリング情報の蓄積の役割を持つ,心不全手帳を発行している。2012年の初版の発行に続き,2018年に「急性・慢性心不全診療ガイドライン」が発表されたことに併せて第2版を発行した(図,http://www.asas.or.jp/jhfs/topics/shinhuzentecho.html)。
図 心不全手帳第2版の主な内容(クリックで拡大) |
①教育用,②医療スタッフ連携,③記録用の各ページがある。①は心不全の治療や日々の生活に関する患者向けのガイド,②は心不全患者を支援する医療スタッフが地域連携に活用できるよう「地域包括ケア」などを紹介する。③には患者自身が日々の体調の変化や服薬,運動を記録し,医療スタッフも確認できる。 |
初版では,教育用資材の機能を有した「連携手帳」と日々の体重,血圧,症状等を記録するセルフモニタリングの機能を有した「記録手帳」の2冊に分冊していたが,第2版では1冊にまとめ利便性を高めた。手帳の前半に「治療のガイド」として,心不全という病気や治療,日常生活で守ってほしい内容を収載し,後半の記録部分には,日々の体重,血圧,脈拍数が記録できるとともに,心不全増悪の徴候を見逃さないためのチェック項目だけでなく服薬チェックなどを盛り込んだ。
第2版の特徴の一つとして「アドバンス・ケア・プランニング(Advance care planning;ACP)」についての説明を加えたことが挙げられる。これは,「急性・慢性心不全診療ガイドライン」に新しく「緩和ケア」の章が設けられ,心不全治療の一つとしての緩和ケアの重要性が示されていることを受け,心不全手帳でACPに触れることで,より多くの患者にACPの概念を知ってもらう機会を提供することを意図している。また,地域連携の観点から,急性期の治療を実施した医療機関と退院後の患者を診療するかかりつけ医や訪問看護ステーションとの情報共有を目的とした「医療スタッフ連携ノート」を追加したことも特徴の一つである。
この心不全手帳が患者教育のための教育資材としてはもちろんのこと,心不全患者と医療者とのコミュニケーションツールとしても用いられ,心不全の疾病管理の効果的な実施と質の向上に寄与することを期待している。
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