MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2019.01.14
Medical Library 書評・新刊案内
Sagar Dugani,Jeffrey E. Alfonsi,Anne M. R. Agur,Arthur F. Dalley 編
前田 恵理子 監訳
《評者》大友 邦(国際医療福祉大学長)
医学学習の3つの鍵を統合する
基礎医学そして臨床医学の急速な進歩にお尻をたたかれる形で,医学教育も進化しつつある。いわゆる領域別・臓器別統合講義と診療参加型臨床実習の導入がその代表格である。さすがに専門課程の1~2年目に解剖学・組織学・病理学・生化学・生理学・薬理学などの基礎医学を,3年目以降に領域・臓器ごとの疾患について学ぶという古典的なカリキュラムで良しとする考えは過去のものになっている。しかしながら,教える側の教員も,教わる側の学生も,このような時代の変化に対応した教材探しに苦労しているのが現状でもある。
このような問題認識に基づき「解剖」「医用画像」「身体診察」という医学の学習の鍵となる3項目を統合する教材として企画されたのが本書『Clinical Anatomy Cases』(邦題:『解剖×画像所見×身体診察マスターブック』)である。
本書は総論「臨床での統合的アプローチ」と6つの領域〔胸部,腹部,骨盤部,背部(脊椎・脊髄),上肢と下肢,頭頸部〕ごとの各論から構成されている。各論では,臓器ごとの解剖と診察手順の概要に引き続き,代表的疾患が提示され,読者が症例ごとに診察・診断のプロセスをシミュレーションしながら,それぞれの疾患の徴候,身体所見,検査所見,定義,原因,鑑別診断を効率的に学ぶことができるように工夫されている。わかりやすいシェーマとともに典型的な画像が豊富に掲載されていることも本書の大きな特徴となっている。
これまでの医学教育のギャップを埋める画期的な企画である本書は,医学生,研修医だけではなく,医学教育にかかわる教員にとって得難い教材になると確信している。また「読みやすい」「わかりやすい」臨床医学の入門書として,看護師,臨床検査技師,診療放射線技師,リハビリテーションスタッフなど医療にかかわる全ての方々にも強く推薦する。
本書を企画したトロント大Anne M. R. Agur先生と執筆者の方々,そして翻訳を担当した東大・前田恵理子先生と同大放射線医学教室の若手の皆さんに心からの敬意と謝意を表する。
B5・頁408 定価:本体5,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03627-6


聖路加国際病院内科チーフレジデント 編
《評者》津川 友介(米カリフォルニア大ロサンゼルス校内科アシスタントプロフェッサー)
一人前の臨床医になるための「ファストパス」
時代とともに変わることと変わらないことがある。医学部の授業は今でも知識偏重型で,暗記中心である。一方で,米国の他学部では,教科書を持ち込んでその場で調べながらテストを受ける「オープンノート」型の試験が増えている。今の時代,自分の知識だけを頼りに問題解決することはまれであり,調べながら解決する能力を評価するほうが実践的だからである。医療に関しても同じで,多くの医師は,わからないことがあればあやふやな記憶をもとに治療方針を決めるよりも,インターネットで調べてから判断しているだろう。昔は外来の途中にパソコンで調べものをしていたら上級医に怒られていたが,今は患者さんと一緒にその場で調べながら最適解を見つける時代である(私の同僚の米国のプライマリケア医の多くはそうしている)。医学に関する最低限の知識はもちろん必要であるが,高度な知識に関してはポケットの中のスマートフォンに「アウトソース」しても良い時代になりつつある。
しかしそうはいかないこともある。医師をしていたら,患者さんが急変したり,救急外来でその場で意思決定を下さないといけないこともある。そのようなときにはパソコンに向かう時間も,教科書を開く余裕もない。自分の覚えている知識を頼りに判断を下す必要がある。『内科レジデントの鉄則』はそのような知識を教えてくれる一冊である。
医学部のときはなかなか習わないのだが,医師となって最も重要なスキルセットの一つは,このような時間的猶予がない状況で正しい判断を下すことができるかどうかであると私は考えている。医学部は臓器別に教育を受けることの影響もあるのか,当直をするに当たって,もしくは救急外来をするに当たっての最低限の知識を教えてくれることは珍しい。医師になって初めの1年間で最も重要な知識であるにもかかわらずである。
私は初期研修医のときにこの本で学び,内科チーフレジデントのときにはコアカンファレンスを通じて次の世代を教育した世代である。私が聖路加国際病院で研修したのは10年以上前のことであり,一緒に研修をした森信好先生が本書の編集をしているのは感慨深いものがある(それだけ私たちが年を取ったということか……)。私が研修医として聖路加国際病院で働き始めたころ,2年目の研修医たちがコアカンファレンスの資料を分厚いファイルにまとめていて,何かとあるとそれを参考にしていたのを思い出す。その知識を聖路加国際病院の中にとどめておくのではなく,このような形で広く日本中の医学教育に役立ててもらうというのは素晴らしいことだと思う。『内科レジデントの鉄則』は聖路加国際病院で研修しなくても,コアカンファレンスで教えられている内容を経験できる優れた本である。聖路加国際病院の歴代のチーフレジデントの「教え」が詰まった本に,森先生,池田行彦先生,孫楽先生,羽田佑先生によって最新のエビデンスのエッセンスが加えられたこの一冊は,一人前の臨床医になるための「ファストパス」であると言っても過言ではないだろう。
B5・頁344 定価:本体3,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03461-6


青野 敏博,苛原 稔 編
《評者》木村 正(阪大大学院教授・産科学婦人科学)
“青野・苛原スクール”全身全霊の指導の集大成!
『産婦人科ベッドサイドマニュアル』は改訂を重ね,すでに第7版刊行にまで至っている。確かに白衣のポケットに入り,産婦人科全領域をカバーする本はなかなかないので,その人気のほどがわかる。
手にとって通読してみると,35年前の講義室が目の前に突然よみがえってきた。阪大の学生時代,当時講師であられた青野敏博先生の講義を拝聴した。パワーポイントも打ち出したレジュメもない時代,口述と板書のみで講義は進んでいた。青野先生のされた,卵巣の2-cell theory(顆粒膜細胞と黄体細胞が協調してFSH,LHに反応し,排卵前後でエストロゲン,プロゲステロン産生を調節する)の見事な解説は,今もって私にはできない。その青野先生が徳島大に移られ多くの先生方を育成され学長となられた。そして後任であられる苛原稔先生には日本産科婦人科学会の倫理委員会委員長として,また日本生殖医学会理事長として,ご指導をいただいた。苛原先生の温かみのある,しかし毅然(きぜん)とした方針は常に日本の産婦人科医療を照らす道しるべとなった。このお二人が編集されたベッドサイドマニュアルは,簡潔かつ整理整頓され,エビデンスの基本データが必要に応じて配置され,執筆された先生方の臨床現場における「知」が集積された,即戦力の冊子である。外来で,病棟で,迷ったときに確認するためにうってつけで,いつも白衣のポケットに忍ばせておくのにちょうど良い。
世の中はガイドラインばやりである。しかし,ガイドラインは教科書ではなく,ま...
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