医学界新聞

2019.01.07



Medical Library 書評・新刊案内


ゾリンジャー外科手術アトラス 第2版

E. Christopher Ellison,Robert M. Zollinger, Jr. 原著
安達 洋祐 訳

《評者》森 正樹(九大大学院教授・消化器外科学)

手術の本質を知ることができる外科医のバイブル

 「真を写す」と書いて「写真」というが,こと手術書においては写真による手術書はむしろわかりにくいことが多い。一方イラストによる手術書は,余分な情報をそぎ落とし本当に読者に伝えたいことが線画として表現され,実にわかりやすいが,過剰にデフォルメされたイラストでは正確性に欠ける。『ゾリンジャー外科手術アトラス』は,「右ページの美しく忠実な線画と左ページの詳しい解説」を特徴とする,まさに理想の手術書であり,世界中の外科医のバイブルともいえる書籍である。このたび,その原書第10版が安達洋祐氏の手により訳され,日本語版としてわれわれの手元に届くこととなった。

 本書は前版の原書第9版(日本語版初版)からカラー化され,さらに今回の第10版(日本語版第2版)はコンピューター・グラフィックスによる高解像度カラーで描かれており,もはや芸術的作品ともいえる出来映えである。さらにこの日本語版の素晴らしいところは,日本の医学を知り尽くした安達氏により,日本の実情に合わせた「訳注」が300か所以上も追記されている点である。これはもはや訳書という範疇を超え,日本の外科医のために新たに書き下ろされた最新版といっても過言ではない。

 最近では腹腔鏡手術やロボット手術が日常診療として行われていることはご存じの通りである。本書は1937年の原書初版から改訂を重ね現在に至るが,今でも本書がバイブルとして読まれている理由の一つは,時代に合わせて腹腔鏡手術などのイラストや解説を改訂ごとに追加していることであろう。

 しかし本書に対して私がもっと強く感銘を受けたことは,新しい術式のみならず,かつては日常的に行われていた歴史的な手術をも本書が重要視している点である。本書の序には「日常診療の性質上,教科書に掲載されていないような状況に一般外科医が遭遇することはまれではなく,(中略)そのようなときは(中略)『古い手術』に助けられることになるでしょう」と書かれている。つまり外科手術の本質を知っておくこと,もっと簡単にいえば昔の外科医はどのようにやっていたかを知っておくことは,手術中に危機的状況に陥った時の解決策を知っておくことを意味し,そのためにも本書はまさにバイブルといえるであろう。

 また安達氏が訳者の序にも書かれている通り,本書の根底に流れるもう一つの重要な考え方として,安全性を最優先した丁寧な手術をめざしている点も記しておきたい。「丁寧に/やさしく」という言葉は原書の114か所に,「注意して」は374か所に使われているそうである。そのように考えれば,本書は若き外科医にとっては手術手技を学ぶのみならず,手術に対する姿勢をも学ぶことができる必携の手引き書であり,また中堅以上の外科医にとっても外科医としての幅を広げる知識の泉として,ぜひ一読いただきたい名書といえる。このような手術書をわれわれの手元に届けてくれた安達氏に心から敬意を表したい。

A4・頁576 定価:本体15,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03228-5


ペースメーカー・ICD・CRT実践ハンドブック

Kenneth A. Ellenbogen,Karoly Kaszala 編
髙野 照夫,加藤 貴雄 監訳
伊原 正 訳

《評者》岩瀬 三紀(トヨタ記念病院病院長)

入門,復習,Step upに最適な循環器病デバイスの実践書

 循環器病学における薬物療法は,心不全時に活性化する交感神経系とレニン-アンギオテンシン-アルドステロン系の薬剤が大規模臨床試験によりその効果が認められ,心不全患者の予後は著しくカイゼンしました。しかし,薬物療法だけでは限界があり,薬物不応の心不全患者も多数おられます。近年,植込み型デバイスによる治療の進歩が著しく,その普及や心疾患患者の予後のカイゼンがますます期待できます。具体的には,徐脈に対するペースメーカー,致死性不整脈に惹起される心臓突然死予防に対する植込み型除細動器(ICD),治療抵抗性心不全に対する心臓再同期療法(CRT)が代表的なデバイスです。これらの植込み型デバイスによる治療は,多くの患者さんの生命予後のみならず,生活の質Quality of Life向上への貢献は絶大です。

 不整脈と植込み型デバイスに関する実践的かつ詳細な参考書は,それぞれ個別に専門書を用意する必要があります。両領域を一つの書籍で得ようとすると,内容が広く浅くなりがちです。コメディカルや看護師も理解しやすく表現されている入門書は雑誌の特集も含め多く存在します。しかし,そのような入門書では専門的な用語が省かれ,根底にある基礎理論の理解のためには力不足の感は否めません。

 本書『ペースメーカー・ICD・CRT実践ハンドブック』は,CDR認定制度に必要なIBHRE試験対策推薦書であり,不整脈・植込み型デバイスの知識について,重要な心血管疾患から植込み型デバイスの基礎と原理・機能の章へと展開され,次に実践的な植込み型術の手技の話へと進み,最終的にフォローアップの章から実践的なトラブルシュートの章へと読者の向学心が燃え盛ることが期待されます。内容は専門用語を汎用しており,理解し難い内容になりそうですが,表や図や写真をふんだんに配置し理解しやすくなっており,植込み型デバイスにかかわる循環器医師・臨床工学技士・看護師の入門書としても,ある程度手技に慣れてきた者の復習書,そしてStep upのための最適なハンドブックと自信を持って推薦します。

 訳者の伊原正先生は,世界的に屈指の厳格さで有名なVatner教授の下,米ハーバード大にてpostdoctoral fellowとして,原書の著者の一人であるDr. Bruce Stamblerと研究されました。実は私も,Vatner教授の下で厳しくも楽しみながら研究に切磋琢磨した2年半のボストン留学生活の経験があります。この縁もあり,伊原先生には懇意にしていただき,先生の心臓生理学のハイレベルな知識と温厚な人柄にはいつも感服しております。先生は,教育者としても優れ,コメディカル向けの英語教本『Because We Care:English for Healthcare Professionals』(センゲージラーニング,2011年)を発刊されています。このように教育に卓越した研究者が訳した本書は,植込み型デバイスに関連の深い心臓生理学の神髄を伝える心のこもった日本語訳であり,われわれに提供いただいたことに深謝します。

B5・頁544 定価:本体13,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03599-6

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