医学界新聞

寄稿

2018.12.17



【寄稿】

ゲノム医療を支える看護師の育成
「わたしの医療」実現のための土台を作る

小笹 由香(東京医科歯科大学医学部附属病院腫瘍センター看護師長)


 ゲノム医療とは,体の設計図といわれる個人のゲノム情報を網羅的に調べ,その結果をもとに,より効率良く効果的な診断・治療を実践する「わたしの医療」実現の土台と考えられる。昨今,さまざまな領域で急速に推進され,特にがん領域では厚労省の検討会によりがんゲノム医療中核拠点病院として国内11施設,がんゲノム医療連携病院として135施設(2018年10月時点)が認定された。本稿では,がんゲノム医療を例として述べていく。

ゲノム医療を支える体制整備は道半ば

 遺伝子パネル検査など,一度に複数の遺伝子変異を調べる検査はまだ開始間もない。がんゲノム医療中核拠点病院,連携病院では診療体制の構築,料金体系の整備,かかわるスタッフの配置など,さまざまな課題を検討する必要がある。

 また,検査結果で家族性(遺伝性)のがんと判明した場合は,遺伝医療を提供する部署(遺伝子診療科など)との連携が必須となるため,組織横断的な実践が求められる。遺伝子パネル検査結果について病理や各診療科の専門医などで検討して開示内容を決定するエキスパートパネルは,検査の対象が生命予後の時間的余裕のない患者であるため,結果の確実性,迅速性などが重要となる。

 こうした臨床医学研究の要素が強い診療が導入される場合,看護職の多くは情報の更新が追い付かず,いきなりゲノム医療に携わらざるを得ない。多少の混乱が生じることが容易に推測される。

セミナー開催を看護管理者に呼び掛ける

 そこで今回,AMEDゲノム創薬基盤推進研究事業によるゲノム情報研究の医療への実利用を促進する研究A-3班では,「ゲノム医療従事者の育成プログラム開発」(研究開発代表者:岡山大・豊岡伸一氏)の一環で,薬剤師,臨床検査技師,看護師といったメディカルスタッフの教育を検討している。特に看護師向けの教育プログラムは本学が分担して開発することとなった(分担責任者:東医歯大病院・池田貞勝氏)。本プログラムには看護職の立場から,慶大・武田祐子氏,聖路加国際大・青木美紀子氏,筆者がかかわっている(3人は日本遺伝看護学会の理事でもある)。

 これまでの遺伝医療に関する臨床や看護教育経験から,看護職に対してはケースを用いた教育を展開することとした。看護職の専門性である,その人の生活や背景など全体像をとらえ,診療効果を最大とするためのケアの展開に有効だと考えたからである。また,ケースを用いて学ぶ教育プログラムでは,経験してきたケースと照らし合わせて考えるので,たとえゲノム医療に関する用語や診療内容についての知識が十分ではなくても,学ぶハードルを下げられると推測される。

 がんゲノム医療中核拠点病院などの看護部では,現場レベルだけではなく管理者レベルの立場の看護職が「ゲノム医療に関する看護職の役割の理解が急務!」との認識を持つことが,がんにかかわる各種専門・認定看護師をはじめとした現場の看護職のセミナー参加へつながると考えた。看護管理者向けの内容を含め,自施設などでのセミナー開催を日本看護管理学会で呼び掛けた。実際に配属されている,または今後担当となる看護職に向けては,関連学会(日本遺伝看護学会,日本がん看護学会など)で,筆者らの活動を含めた看護職対象のさまざまなセミナーなどがあること,看護管理者にもそれ...

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