医学界新聞

取材記事

2018.12.10



【取材】

外来診療力を上げるビデオレビュー
Windows Methodでポジティブな研修の場に


 外来診療の研修方法として,診療を録画し指導医と共に振り返る「ビデオレビュー」が注目されている。ビデオレビューは患者とのコミュニケーションスキルなど外来診療に求められる実践的な力の向上に効果的だ。その一方で,自分の診療を見られることの恥ずかしさや「ダメ出しを受けるのでは」との不安から,抵抗感を持つ研修医は少なくない。

 本紙では,ビデオレビューの心理的ハードルを低くし,よりポジティブな振り返りにするために「Windows Method」1)という手法を取り入れている福島県立医大地域・家庭医療学講座の研修を取材した。


 「今回,皆さんに見ていただくのは,もっと何かできたのではないかという“不全感”が残ってしまった診療です」。

 家庭医療専攻医3年目の森薗健太郎氏(福島県立医大地域・家庭医療学講座)が,ノートパソコンのモニターを前に切り出した。森薗氏は患者背景やこれまでの診療の経緯を説明した後,診療ビデオを再生した。指導医や実習中の医学生を含めた5人は,約10分間の映像を熱心に見ながら,時折,手元の紙にメモを取っていく(写真)。

写真 Windows Methodを用いたビデオレビュー。診療ビデオを見ながら,気付いたことを各自ワークシートに記入する。視聴後,ワークシートの10項目に沿ってコメントする。

ビデオレビューで脱・自己流の外来診療へ

 外来診療の質向上は研修医の大きな関心事だろう。しかし,疾患に関する医学的知識の教育に比べると,患者とのコミュニケーションスキルや臨床判断能力に関する教育は体系化されていないのが現状だ。

 診察室という指導医不在の空間で,ともすれば自己流になりがちな外来診療。ビデオレビューは,診療を客観的に振り返り,指導医から実践的なフィードバックを受けられる研修方法として注目を集めている。2018年に始まった新専門医制度における総合診療専門医の研修プログラムでも,ビデオレビューなどを用いた外来診療の教育が重視されている。

 同大地域・家庭医療学講座の研修協力診療所である喜多方市地域・家庭医療センターでは週に1度,午後の診療の前の30分~1時間程度を使ってビデオレビュー研修を行っている。その週の特定の時間帯で,同意を得られた患者全員の診療を録画する。これは,カメラを意識せず普段に近い様子を撮影する工夫だ。患者は診察前に,看護師から撮影の目的と拒否しても不利益はないとの説明を受ける。説明と諾否の聴取を看護師に任せることで,患者が断りづらい雰囲気にならないよう配慮しているという。

Windows Methodを使えばダメ出しになりにくい

 2018年4月には,さらに効果的な研修にするためにWindows Methodを導入した。Windows Methodの特徴はビデオを見ながら各自が記入するワークシート()。診療を担当した医師(研修者)が記入する5項目と同僚・指導医が記入する5項目の合計10個の窓(Windows)があり,ビデオの視聴後,窓の番号順に一人ずつコメントする。

 Windows Methodで用いるワークシートの10項目(文献1を元に作成)

 「従来のビデオレビューでは,研修医へのダメ出しに終始してしまうことがありました」と話すのは,指導医の菅家智史氏(同講座講師)。一般的にビデオレビューの手法は体系化されておらず,指導医の裁量に任されている。特定の場面を取り上げて,「ここはもっと〇〇とすべきだ」「なぜ□□のような対応をしたのか」と指導医に指摘され続けると,研修医は萎縮し,ビデオレビューへの抵抗感を高めてしまう。

 一...

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