医学界新聞

2018.11.26



第77回日本公衆衛生学会開催


 第77回日本公衆衛生学会総会が10月24~26日,安村誠司学会長(福島県立医大)のもと「ゆりかごから看取りまでの公衆衛生――災害対応から考える健康支援」をテーマに開催された(会場=郡山市・ビッグパレットふくしま)。本紙では,シンポジウム「フィンランドのネウボラから学ぶ母子保健活動の評価とわが国における母子保健システムの検討」(座長=あいち小児保健医療総合センター・山崎嘉久氏,大阪市西区保健福祉センター・永石真知子氏)の模様を報告する。


 健やか親子21(第2次計画)では,「すべての子どもが健やかに育つ社会」をめざして,「切れ目ない妊産婦・乳幼児への保健対策」が基盤課題の1つとして掲げられている。そのモデルになったとされるのが,妊娠期から子育て期に至るまでの切れ目のない支援を重視する,フィンランド・ネウボラの保健師活動だ。同国では,1944年の法律制定によってネウボラサービスの提供が地方自治体に義務付けられた。2000年代以降は関連法の整備や国による勧告が発出され,サービスの質向上が図られている。

 本シンポジウムには,フィンランド国立健康福祉研究所においてネウボラのガイドライン策定に携わるトゥオヴィ・ハクリネン氏が招聘された。同研究所では自治体を支援すると同時に,サービスの実施状況をモニターし監督局に報告する役割を担っている。ハクリネン氏は,2016~17年に行った全国調査の概要を説明した。調査の結果,ほぼ全ての自治体で勧告に沿ったサービスが提供される一方,一部の項目に不十分な点があったと考察。母子保健活動の定期的なモニタリングとフィードバックの重要性を強調した。

母子保健システムにおける担当保健師制と家族支援強化を

 日本においては,「子育て世代包括支援センター」がネウボラ同様の役割を期待されており,現在は「日本版ネウボラ」を標榜する自治体も増えている。

 フィンランドと日本のネウボラの違いを分析したのは,両国での国際共同研究を2007年より推進してきた横山美江氏(阪市大大学院)だ。日本版ネウボラの多くは複数の保健事業等をつなげることを“切れ目のない支援”と称しているのに対して,フィンランドでは妊娠中から同じ担当保健師が父親を含む家族全員を継続的に支援することが必須となっている。後者のほうが家族との信頼関係構築や問題の早期発見・支援が容易であり,その結果としてフィンランドでは深刻な児童虐待は極めて少ないと指摘した。

 では,ネウボラのエッセンスとなる「担当保健師制」と「家族支援」の強化を,日本の母子保健システムの中でどうやって構築するのか。横山氏は,妊娠届出時の担当保健師の紹介と母子健康手帳の活用が鍵になると考察。現在実施している大阪市港区との協働事業をその事例として紹介しつつ,全国的なシステム化の必要性を説いた。

 子育て世代包括支援センター(法律上は母子健康包括支援センター)は改正母子保健法により位置付けられており,17年度から市町村への設置が努力義務化された。18年4月時点で約4割の市町村で設置されており,20年度末までの全国展開をめざしている。しかしながら,従来の母子保健事業との相違がわからずに戸惑う声も,自治体の関係者から聞かれる。

 佐藤拓代氏(府立病院機構大阪母子医療センター)は子育て世代包括支援センターの法的根拠と機能,現在までの状況を概説した上で,従来の母子保健事業に加味すべき視点を提言した。「利用者目線」を念頭に置きながら,スクリーニング後の支援に当たる従来のハイリスクアプローチを,どんな親子も支援するポピュレーションアプローチに転換しつつ,母子への支援を家族への支援に移行する形で,母子保健事業との連携・協働を図ることが肝要であると考察した。

シンポジウムの模様

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