医学界新聞

2018.11.12



Medical Library 書評・新刊案内


京都ERポケットブック

洛和会音羽病院 救命救急センター・京都ER 編
宮前 伸啓 責任編集
荒 隆紀 執筆

《評者》舩越 拓(東京ベイ・浦安市川医療センター救急外来部門長)

優れた指導医が側にいるかのような心強いパートナー

 ERを受診する患者は多様である。また,同時に多くの患者を診療しなければならない。インターネット環境が整備された病院が珍しくない現在において,スマートフォンさえ持っていればある程度の調べ物もできる。そうした中で,わざわざポケットに忍ばせておく意味のある書籍とはどのようなものだろうか。

 一つは迅速性である。慌ただしいERにおいて落ち着いて調べ物をする時間は確保しにくい。インターネット上の情報は質が保証されず,必要な情報にアクセスしにくい。有名な二次資料のサイトも,どちらかというと治療に重きが置かれており,かつ患者到着までの5分で読むには過剰である。もう一つは網羅性である。特定の診療科に偏らない患者に対応するために広い分野をカバーしなければならない。内科のみ,外傷のみ,マイナーのみではERの患者をカバーするには足りないのである。

 迅速性を優先すれば内容は希薄になりがちであるし,広い分野を徹底的に網羅しようとすれば容量が多くなる。そうすると常に持ち歩きながら調べ物をするという迅速性は失われる。その二つを両立するのはなかなか難しいのである。

 その二点を良いバランスで実現させたのが本書である。

 『京都ERポケットブック』は洛和会音羽病院で後進教育のために院内で受け継がれてきた内容をコンパクトに書籍化したものである。症候別にまとめられた項目では最初の見開きで最低限の知識を得られる工夫がなされており,患者を呼び入れる前,もしくは救急車が到着する前の3分で読み切れる。一方でカバーする領域は広く,救急外来で遭遇する一般的な症候別のアプローチにとどまらず,問診技法,画像読影,心電図や超音波,抗菌薬やグラム染色,コミュニケーション技法にわたる。

 そうした充実した内容がコンパクトに持ち運べるサイズでまとまっており非常に見やすい。また,根拠となる文献も明示されており,時間が空いたときのさらなる自己学習の入り口にもなってくれる。

 救急外来研修を初めて経験する医学生や初期研修医にとって,優れた指導医が常に側にいてくれるような心強いパートナーになってくれるであろう。

 屈指の人気研修病院の看板に偽りなく充実した内容である。

A6・頁416 定価:本体3,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03454-8


病歴と診察で診断する感染症
System1とSystem2

志水 太郎,忽那 賢志 編

《評者》岸田 直樹(感染症コンサルタント)

研修医必読! 感染症への苦手意識が短時間で吹っ飛ぶ!

 「病歴と診察で診断する」と聞くと「そんな必要があるのか?」と思うのは無理もない。なぜならば,今の時代,さまざまな検査が発達しており,病歴・身体所見などなくてもうまくいくと感じることが意外に多いかもしれないからだ。確かに検査は病歴・身体所見よりもクリアカットに見えやすい。が,検査の解釈に感度・特異度の理解は必須であり,検査にも限界はあることは肝に銘じなければならない。

 しかし,それでも病歴・身体所見よりも「わかりやすい」と感じてしまうのも仕方がないほど,今日,優れた検査は多い。CRPも悪者のようにいろいろ言われるが,評者も「研修医の下手なプレゼンテーションを聞いているくらいであれば,CRPのほうが何倍も役に立つな」と若干の皮肉を交えて指導を行っているくらいである。……半分以上,真にそう思っている。

 ところが,感染症の診療に限って言えば,病歴・身体所見の存在が他の領域よりも極めて大きいことを無視するわけにはいかない。そこには感染症ならではの特徴が存在するからだ。その一つが,「抗微生物薬開始判断時点で微生物学的な病名が付いていない」ことが多いという事実だ。感染症が疑われ,可能性の一つとして感染臓器を絞れたとしても,感染臓器由来の検体などから微生物が判明するまでには数日はかかる。つまり,初診時には原因微生物を含めた確定診断(感受性なども)は極めて難しいという特徴がある。診断が確定しない中で,どこまで「疾患疑い」として治療を開始すべきか? そもそも本当に感染症なのか? という判断を臨床現場では求められることになる。また,最もよくある感染症である風邪や胃腸炎などのウイルス性疾患の多くは,病歴と身体所見での判断が求められる。病歴と身体所見でほぼ当たりを付けられていることがこれほど重要な領域は感染症以外にはないであろう。

 感染症の書籍がたくさん出版される中,本書が持つ意味は大きい。「知っている人は知っているよね」と短期間で言えるようにしてくれる書籍は意外にない。本書は,感染症への苦手意識が短時間で吹っ飛ぶ,医学生・研修医にぜひ手に取っていただきたい教科書である。

B5・頁236 定価:本体4,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03538-5


臨床に活かす病理診断学
消化管・肝胆膵編 第3版

福嶋 敬宜,二村 聡 執筆

《評者》小澤 俊文(総合犬山中央病院消化器内科部長)

本書で学んだ病理診断を臨床に活かすべし

 著者の一人である二村聡医師とは某研究会や編集会議を通じ10年以上のお付き合いをさせていただいている。確信に満ちたその声色と表現,そして「言葉・用語」に対する妥協のない姿勢を見聞きするにつけ,親しくなるまでは年長者と思い込んでいた(失礼!)くらいだ。

 氏の講演から学ぶ多くの知識はもちろんだが,美麗な写真には毎度ながら感嘆すること枚挙にいとまがなかった。特に美麗なマクロ写真からは見る者に迫る主張が感じられる。ピントを合わせてガシャの写真とは一線を画すことを理解するのに,目的意識を持った人間ならそれほど時間は要さないはずだ。

 この度,氏の共著となる『臨床に活かす病理診断学――消化管・肝胆膵編 第3版』の書評を担う機会を得た。最初に気付くのは,専門書にありがちなとっつき難い文体とは一味違ったスタイルが親しみやすく,内容がすんなりと頭に入ってくることである。限られたページ数の中,美麗なマクロおよびミクロ写真,そしてシェーマがこれでもかと収載されており著者らの本書にかける熱意が伝わってくる。生検場所や採取のポイントとピットフォール,切除標本の扱い方,用語の説明など,この一冊で十分な内容だ。文章は過不足なく記載されており,本文が冗長にならないよう追加説明は小さな赤字の脚注として左右に配置されている。

 また「Coffee Break」や「耳より」「ここがHOT」などの頭を休ませるコーナー(コラム)が全体にちりばめられており,読者を飽きさせない構成も評価したい。“脳の休憩”と表現はしてみたが,多くが実臨床に役立つ内容であり臨床医への熱いメッセージや応援でもあるのだ。

 さらに注目したいのは表紙と裏表紙の見返しを利用し,抗体や組織化学染色を表に,用語を一覧にして,読者がすぐに確認できる点である。まさに臨床医の日常的疑問と利便性に対応しており,限界まで本のスペースを活用した著者と医学書院の創本姿勢に称賛を送りたい。

 書籍の末尾まで読了した読者はさしずめ病理教室で勉強し終えた錯覚に陥る感覚だろう。自らが撮像した内視鏡画像やX線画像,それから採取した組織検体から「何を観ているのか」が理解できたときの喜びを,本書を通じてぜひとも感じていただきたい。しかし,“日常的な”臨床画像と病理所見を対比することなしにはあくまで“わかったつもり”にすぎない。そこに王道はなく情熱とシツコさを持って病理医に対峙してこそ読者の診断力向上はもちろん,ひいては患者への福音となるはずだ。病理医が勤務する施設で診療する諸兄にはぜひそうしてほしい。残念ながらそのような環境にない学習意欲の強い医師にとって,本書は鶴首した教科書であり江湖に薦めたい。本書タイトルのごとく病理学的知識を「臨床にかす」ことが消化器疾患を扱うわれわれの日常であり責務なのだ。

 最後に恨み節を一つ。もっと若い時分に本書に出会えていれば,小生も短期留学などを含め積極的に病理診断学を吸収できたのではないかと後悔している。病理診断学に興味のない者は消化器診療に携わるべきではないと愚考するが,いささか乱暴であろうか?

B5・頁280 定価:本体8,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03553-8


今日の耳鼻咽喉科・頭頸部外科治療指針
第4版

森山 寛 監修
大森 孝一,藤枝 重治,小島 博己,猪原 秀典 編

《評者》山中 昇(藤沢御所見病院院長/和歌山医大名誉教授)

忙しい臨床医が診療の場ですぐに参照できる座右の書

 このたび『今日の耳鼻咽喉科・頭頸部外科治療指針 第4版』が刊行された。本書は初版が26年前(1992年)に刊行され,その後も第2版,第3版と各時代の耳鼻咽喉科・頭頸部外科領域の治療学の粋を網羅するバイブル的テキストの役割を果たしてきている。

 第3版から第4版に至る10年間は耳鼻咽喉科・頭頸部外科領域の疾患概念の整理が進み,エビデンスに基づいた医療(EBM)が急速に普及し定着してきた。その結果,多くの診断基準や診療ガイドラインが提唱されている。さらに2018年に新専門医制度が開始され,耳鼻咽喉科専攻医のための研修カリキュラムも発表された。このような10年を反映した第4版の特徴は,①最新最良の診療“事典”であること,②研修カリキュラムを遂行する上で必要十分な知識を習得することができること,③付録として巻末に研修カリキュラムの内容,診断基準,診療ガイドライン,身体障害者診断書・意見書の書き方などを掲載し,実地臨床において不可欠な情報を提供していること,以上3点にまとめられると考える。

 診療“事典”であるために必要な条件は何であろうか。本編で収載された322項目は,評者が全項目を渉猟して取り上げられなかった項目を見いだすことは不可能であり,耳鼻咽喉科・頭頸部外科領域で考え得るほぼ全ての疾患を網羅しており,十分に“事典”と言える。これらの項目を選択し,それぞれに対して本邦におけるエキスパートを執筆者として選任された日本耳鼻咽喉科学会理事長・森山寛慈恵医大名誉教授をはじめとする5人の編者のご苦労は並大抵ではなかったであろう。各疾患の解説は研修医だけでなく,専門医・実地臨床医に対しても十分に有益で満足するものである。「治療方針」の項では,診療ガイドラインに基づいて解説されている疾患も多く,実地臨床ですぐに使えるように具体的な治療内容が記載されており非常に役立つ。さらに「患者説明のポイント」ではエキスパートがその疾患をどのようにとらえ,患者へどのように伝えるのかが書かれており,いくつかの疾患におけるポイントを比較して読んでみると大変興味深く一読をお勧めする。第9章の「機能を代償する医療機器」では,近年著しい進歩を遂げている補聴器,人工内耳,人工中耳,CPAP(経鼻的持続陽圧加圧装置)などについての仕組み,適応,手術法,管理法などがわかりやすく解説されている。さらに第10章では「リハビリテーション」が独立して取り上げられ,日常臨床において知識が希薄になりやすい,難聴,めまい,耳鳴,言語障害,構音障害,嚥下障害などに対するリハビリテーションが過不足なく解説されており,大変有用である。

 本書は大変コンパクトであり,その内容は全ての疾患が統一された形式で書かれ,カラー写真や図表もふんだんに挿入されているため,大変わかりやすく仕上がっている。忙しい臨床医が診療の場ですぐに参照できる座右の書として一冊置かれることを強くお勧めする。

A5・頁736 定価:本体16,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03452-4


《ジェネラリストBOOKS》
よくみる子どもの皮膚疾患
診療のポイント&保護者へのアドバイス

佐々木 りか子 編

《評者》吉田 和恵(国立成育医療研究センター皮膚科診療部長)

小児の皮膚を診療する全ての医師にオススメしたい

 「子どもは小さな大人ではない」と言われるが,皮膚疾患に関しても同様である。大人でよくみる皮膚疾患と子どもでよくみる皮膚疾患は大きく異なる。本書は,子どもの皮膚を数多く診療されてきたベテラン女性皮膚科医3人で書かれた実践的な小児皮膚科診療を学べる書である。著者らの幅広い臨床経験から導き出された診療のポイントとコツ,そして保護者が一番気になる親目線のアドバイスがたっぷり織り込まれている。機械を使わなくても目で見える皮膚疾患を学ぶには,やはり,典型的な臨床写真を「見て理解する」のが一番だが,本書では,豊富な224枚にも及ぶ臨床写真が,よくみる子どもの皮膚疾患への理解を深めてくれる。

 小児科(内科)外来,皮膚科外来を訪れる子どもと言っても幅が広い。新生児から思春期まで,その中でもよくみる皮膚疾患は異なるし,成長によっても変化していく。すぐに治療が必要な疾患もあれば,待つと自然に良くなる疾患もある。的確な診断と,適切なタイミングでの治療の介入が重要である。

 例えば,生まれつきのあざ(血管腫,母斑,血管奇形)については,「治療したほうが良いのか? それとも自然に消えるのか? いつまで待って,いつから治療したほうが良いのか?」など質問されることも多いと思う。本書には,専門医に紹介する適切なタイミング,治療の実際,保険適用なども含めて,実際の診療に役立つ詳細が記載されている。

 また,湿疹,とびひなど,ありふれた皮膚疾患でも,教科書に書かれている治療薬を処方しただけでは良くならないことも多い。子どもたちの日常生活をよく理解して,生活上の細かなアドバイスを行い,実践してもらい,保護者と患児本人の治療へのモチベーションを上げることがとても大事である。子どもの皮膚に症状の出る感染症も多いが,感染症に関しては,登校・登園の目安なども書かれている。本書には,患児とその家族が納得できるアドバイスが書かれているので,日常診療の保護者への説明の際に役立つであろう。

 本書はわかりやすい文章なので,研修医,医学生などにも読みやすいと思うが,中堅以降の小児科医,皮膚科医が読んでも,すぐに診療に活かせるヒントが数多くちりばめられている。子どもの皮膚を診療する全ての方にオススメしたい一冊である。

A5・頁256 定価:本体4,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03620-7

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