看護職は自律ある働き方改革を(石田昌宏,熊谷雅美)
対談・座談会
2018.10.22
【対談】看護職は自律ある働き方改革を | |
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政府主導の「働き方改革関連法」(以下,関連法)が2018年6月29日に成立した。時間外労働の上限規制などを柱とし,過労死の根絶や多様な働き方の実現をめざす制度改革が加速する。交代制勤務のある看護職の働き方にもかかわる,勤務間インターバル確保の努力義務化が盛り込まれた。看護界は働き方に対する意識変革と勤務環境の改善をどう進めるのか。
関連法の成立に向け参議院厚生労働委員会筆頭理事として委員会運営を担った看護師の石田昌宏氏と,看護管理者を経て,現在は日本看護協会の常任理事として看護労働に関する政策立案に当たる熊谷雅美氏の二人が,看護職の働き方の現状と課題を踏まえ,看護職が働く未来への道筋を議論した。
熊谷 働き方改革関連法は,看護界にも大きなインパクトをもたらす法律と受け止めています。
石田 関連法の基本理念は大きく2点。「生産性向上」と「一億総活躍」の実現です。日本は,生産年齢人口の減少が顕著となり,国民一人ひとりの生産性を上げる構造への切り替えが急務となっています。同時に,働く世代である生産年齢人口の定義(15歳以上65歳未満)も見直し,65歳を過ぎてもその人なりの働き方が評価される一億総活躍社会へ向かわなければなりません。
今こそ,これまでの働き方を根本から変えていく。そのために「改革」の言葉を用いているのです。
熊谷 生産年齢人口の定義の変更は,看護界も喫緊のテーマです。現在就業中の看護職166万人の平均年齢は43.1歳(2016年時点)で今後も上昇が予想され,現役で働く60代は既に9%に上ります。
少子高齢化の影響で医療・介護ニーズの増大が予想される一方,ケアの担い手不足が見込まれ,看護職の多様な活躍と業務の効率化が必要です。
石田 働き方改革で用いられる生産性向上の言葉は,看護にはなじまないかもしれません。でも,看護の原点に立ち返れば,ベッドサイドでより質の高い看護を提供することではないでしょうか。看護界もどう質向上を図るか,そこに目を向けるべきとのメッセージが関連法にあると私は考えています。
熊谷 法律ができた今,看護職の働き方も既存の形からの転換が必要です。一人ひとりが活躍できる勤務環境の実現と看護提供体制の両立をどう図るか。私たち職能の課題が社会の機運とも重なり合う今こそ,改革実行のチャンスととらえています。
新たな時代に即応した働き方を確保すべき時
熊谷 2016年に,厚労省「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」(座長=東大大学院・渋谷健司氏/以下,ビジョン検討会)の構成員に選ばれた私は,「後に続く後輩たちに適切な働き方を残さなければ」との使命感を持って臨みました。
2017年4月公表の報告書では,「医療従事者の誰もが将来の展望を持ち,新たな時代に即応した働き方を確保するための指針」となるよう取りまとめられたのです。看護職にとって新たな時代が来たんだ。そう実感しました。
石田 将来にわたり誰もが働き続けられる制度を残すのは,まさに私たちの使命です。
熊谷 そして今年,関連法が成立し,働き方改革に一層真剣に向き合わなければならないとの思いを強くしています。そこで真っ先に考えたのが,ビジョン検討会報告書でも言及された勤務間インターバルの制度化です。航空業界やトラック・バスなどの運輸業界では,夜勤の扱いや勤務後の休息が明確に定められているにもかかわらず,同様に安全が求められる医師や看護師にはその規定がありません。
2008年に2人の20代看護師が過労死認定を受ける悲しい出来事がありました。うち1例は,睡眠時間が連日4~5時間と極めて少なく,勤務間の休息が十分に取れないままの不規則な勤務が過労死の原因になったと認定されたのです。当協会の調査で,過労死危険レベルである月60時間超の時間外勤務をする看護職は推計2万人に上ると明らかになり,2013年には夜勤・交代制勤務の負担軽減と改善目標を示した「看護職の夜勤・交代制勤務に関するガイドライン」の公表に至りました。
月72時間超の夜勤で心身に影響,明らかに
石田 私は全国各地の病院を訪ねて,休憩室が本当にゆったりできる構造なのか,仮眠時間の確保に対する認識が本当に十分か,ということも伺っています。
熊谷 適切なケア提供のためにしっかり休むには,現場から一旦切り離され,連続して休息の取れる環境が必要です。一方,私が看護管理者時代に直面した課題には,夜勤のできない看護職の増加があります。多様な働き方が浸透し,産休や育児時短の制度を利用しながら正職員として働き続けられるようになったものの,夜勤のできない職員の割合が増えたのです。
石田 看護職のキャリアやワーク・ライフ・バランスの広がりは前進だけど。
熊谷 そうなんです。全国の病院勤務者の約2割が夜勤をしておらず,夜勤者確保は困難な状況です。その負担を別の看護職が肩代わりせざるを得ない状況が出ています。
夜勤は月8回以内を目安とする1965年の人事院判定があり,当協会も診療報酬改定のたびに入院基本料の算定要件は「病棟看護職員の月平均夜勤時間数72時間以下」を堅持すべきと訴えています。ところが,3交代勤務者の約3割が月9回以上,2交代勤務者の約5割が月5回以上の夜勤をしている実態があるのです(日看協「看護職員実態調査」,2017年)。夜勤の担い手不足の中,回数の上限基準がないままでは過労死の悲劇が繰り返されると危惧しています。
そこで,当協会と労働科学の研究機関との2017年度の合同研究から,月72時間を超えて夜勤をする/しないを比較したところ,72時間超では心身への疲労の影響があると明らかになりました。総夜勤時間数72時間超の歯止めと夜勤明けの勤務間インターバル確保の重要性を訴えるため,①3交代勤務の夜勤は月8回以内,②勤務間インターバル11時間以上の確保に関する提言...
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