研修の質を保ち,いかに時間外労働を減らすか(長崎一哉)
寄稿
2018.10.08
【寄稿】
研修の質を保ち,いかに時間外労働を減らすか
チーフレジデント主体で実践する研修医の働き方改革
長崎 一哉(筑波大学附属病院水戸地域医療教育センター水戸協同病院 総合診療科
近年,研修医の過度な時間外労働は重大な社会問題と認識されており,医療機関に対し労働基準監督署が是正勧告を行うなどの報道が相次いでいます。一方で,病院や研修環境は多様であり,勤務時間の単純な制限やカンファレンス,レクチャーなどの削減は現場の不満や教育的な不安が起こり得ます。
そこで当院では,研修医に近い立場にある卒後5年目のチーフレジデントが中心となり,研修医の時間外労働の削減を実践してきました。本稿では,研修医の勤務環境の現状と課題を踏まえ,当院で実施した働き方改革の試みを紹介します。その上で,チーフレジデントの意義や今後期待される役割についてもお伝えしたいと思います。
組織の自主的な改善が不可欠に
2016年度に厚労省が勤務医の勤務実態について初の大規模全国調査を実施しました1)。結果としては,20代勤務医の週当たりの平均勤務時間は約55時間であり,過労死ラインである月80時間以上の時間外労働を行っていることが明確に示されました。しかし,これは現状の研修環境を考えれば当然の結果です。多くの研修医は朝早く勤務を開始し,業務時間後も残業を行い,また当直勤務や週末勤務もこなしています。
こうした現状の中,政府は2017年3月28日に「働き方改革実行計画」2)を発表しました。この計画では罰則付きの時間外労働上限規制が挙げられ,原則として月45時間,年360時間までと定められました。研修医の時間外労働を月45時間以内にすることが果たして正しいかどうか議論の余地はありますが,各組織が過度な時間外労働を自主的に制限することで研修医の健康を守る3)ことは,良好な研修環境を構築する上で不可欠です。当院においても例外ではなく,2017年度からチーフレジデントを中心に研修医の時間外労働を削減する取り組みを始めました。
チーフレジデントが勤務環境改善にかかわる意義は
水戸協同病院は2009年4月,筑波大学と提携した「水戸地域医療教育センター」を開設し,研修医教育を充実させることにより地域に貢献する試みを始めました。特徴は内科系病棟を,指導医・研修医で構成した総合診療科のチームにより診療科の枠を超えて管理するホスピタリスト方式のシステムを導入した点です。
当時この新しい病棟管理システムを円滑に運用するため,2012年4月からチーフレジデント制度を五十野博基医師が導入しました。現在は後期研修3年目の医師が半年の任期で毎年2人選出されます。業務内容は,管理,教育,メンター・カウンセリングなど,多岐にわたります(表)。特筆すべきは,臨床業務が基本的に免除されていることです。
表 水戸協同病院におけるチーフレジデントの業務内容 |
当院においては2017年度から研修医の働き方改革に本格的に取り組み始めています。当院の研修医に対する教育の質は高く,2016年度の日本医療教育プログラム推進機構(JAMEP)の基本的臨床能力評価試験で全国3位の成績を収めています。しかし,管理部門からのトップダウンでの働き方改革だけでは,現場レベルでの混乱や研修の質が低下し,不安や不満の声が上がることが予想されました。
そこで,チーフレジデントが中心となり,研修医の研修の質を保ちながら時間外労働をどのように減らすかについて考え始めました。内科スタッフや院長,医事課スタッフも参加して週1回行われるレジデントサポートミーティングと呼ばれる会議が話し合いの場の中心となりました。具体案を考えるに当たっては,研修の機会が大きく減少することや他の医師への負担増加が過度にならないことを考慮に入れました。検討を経て実施に至った3つのプランを紹介します。
働き方改革3つのプラン
1つ目のプランは,改革の目玉である「半当直制+ナイトシフト制」の導入です(図)。新体制では,2人の研修医の通常業務後は17時から22時までの勤務としました。22時から翌8時までの勤務は救急部の研修医1人が1週間連続で通常勤務するナイトシフト制を導入しました。
図 旧体制と2018年度導入の新体制「半当直制+ナイトシフト制」の違い (クリックで拡大) |
このシステム導入に当たっての問題点は,他の当直に従事する医師の業務量増加に関する懸念でした。そこで,救急患者は22時以降からほぼ半減することを,医局会や管理者会議でデータを用いて繰り返し説明し,病院全体の理解を得ました。また,救急部の研修医のナイトシフトは1か月間に1週間程度に制限し,残りの期間はカンファレンスなどに参加できるようにしました。
次にチーム制のメリットを生かすべく,2つのプランを立案しました。
プラン2ではチーム数を削減し,チーム当たりの人員を増やしました。週末回診はチームのうち1人が当番制で行う制度だったので,チームごとの人員を増やすことで週末当番の回数を月約4~5回から約2~3回に減少させました。
プラン3では,新規入院患者の受け入れ方法を変更しました。勤務時間終了前の緊急入院は内科病棟チームに残業を強いる一つの要因となっていました。そこで新しいプランでは,午後からの緊急入院は救急部の後期研修医が翌朝まで担当する方式に変更しました。懸念は救急部の負担増でしたが,救急部に在籍する後期研修医の数を増やすことで対応しました。
勤務負担改善に加え,教育的メリットも
どのプランについても特に大きな混乱なく運用されており,また研修医の満足度は概ね高いようです。新プラン導入により,勤務負担の改善だけでなく教育的なメリットもありました。以前,研修医の当直明けは午前までの時短勤務のため患者の経過把握が途切れることがありましたが,新しいシステムでは翌日は通常勤務としたため,途切れることなく患者の経過を把握できるようになりました。また,午後の緊急入院が入らなくなったことで,午後にチームでの振り返りや勉強会の機会が増加しました。当院は今後も働き方改革を続けていき,最良の研修環境を模索していきます。
病院や研修環境は多様であり,今回紹介したプランは他施設で同じようには適応できないこともあると思います。また,単純な勤務時間の制限やカンファレンス,レクチャーなどの削減は現場の不満・不安や教育的な面でのデメリットが大きいです。よって,研修の質を落とさず研修医の勤務環境を改善するためには,研修医が働く現場をよく知る必要があります。その中で自施設の診療現場に精通しており,管理業務や教育業務に専念するチーフレジデントが果たせる役割は大きく,その広がりは研修医の働き方改革を進める上で有効な対策になり得ます。全国的にチーフレジデント制度の意義が広まるような活動を今後も続けていきたいと考えています。
◆参考文献
1)厚労省.2016年度厚生労働科学特別研究.医師の勤務実態及び働き方の意向等に関する調査.2017.
2)首相官邸.働き方改革実現会議.働き方改革実行計画.2017.
3)Arch Intern Med. 2005 [PMID:16344417]
ながさき・かずや氏
2013年名市大医学部卒。名古屋記念病院で初期研修後,15年より水戸協同病院総合診療科に勤務。18年より同院チーフレジデント。働き方改革の実践内容を18年8月開催の第50回日本医学教育学会大会で発表した。18年に米ハーバード大医学部ICRT(Introduction to Clinical Research Training)プログラムを修了。病棟の総合内科医として,臨床研究,医学教育に取り組んでいる。
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