余命に関するコミュニケーションをどう行うか(前編)(大須賀覚)
寄稿
2018.10.08
【寄稿】
余命に関するコミュニケーションをどう行うか(前編)
余命宣告はなぜ不正確になるのか
大須賀 覚(米国エモリー大学ウィンシップ癌研究所)
近年,癌患者数の増加に伴い,一般の方の癌治療への関心が飛躍的に高まっています。インターネットや書籍にも,癌を扱った話題が多くあります。しかし,一般向けの情報と現実の診療実態とにはさまざまな乖離があり,それにより多くの問題が引き起こされています。その一つが余命への理解の不一致から起こる,余命宣告に関するトラブルです。“命の限り”という重い宣告に当たり,どのように患者・家族とコミュニケーションをとるべきか,研修医の皆さんは不安を抱えているのではないでしょうか。
米エモリー大にて癌の基礎研究を行いながら,臨床経験を生かして市民への情報提供に努める大須賀氏に,前後編2回にわたり,余命の基本知識およびコミュニケーションの手法を解説していただきます。(本紙編集室)
余命宣告とは難治性の癌などを抱えた患者さんに対して,推定される生命予後を告知する行為のことです。テレビドラマでこのシーンがよく登場することなどから,癌治療において必ず行われるものと一般の方には勘違いされていますが,実際にはそうではありません。
これから解説するように,さまざまな誤解を引き起こす行為ですので,そのことを知っていてあえて行わない医師もいます。一方で,治療の見通しの厳しさを理解してもらうために必ず行う医師もいます。また,「6か月」などの一つの具体的な数字を伝える医師もいれば,「4~8か月」などとかなり幅を持たせて伝える医師もいます。医師側でもその対応には一定の決まりはなく,さまざまな現状があります。
余命はあくまで推定値
では,余命宣告する医師はどのようにして余命を推定するのでしょうか? 特定のルールがあるわけではないので,余命を推定する方法はさまざまです。一般的には,同じ疾患群に対してこれから行うのと同じ治療を数百人に行った論文のデータや自施設の治療データをもとに,生存曲線の中央値(50%の方が亡くなる時期)を目安に伝えるのが一つの方法です。他には,医師自身の臨床経験から患者の状態を判断し,推定する人もいます。
では,このように行われる余命推定は正確なのでしょうか? 実際に余命推定の正確性を検討した論文は数多くあります。42の論文を検討したシステマティックレビューによると,その正確性は23~78%と幅があり,70%を超える正確性はほとんど見られず,余命推定は不正確であると示されています1)。
これは医師の技量不足・知識不足によるものではありません。そもそも癌患者の余命には複雑な要素が関係するため,特定の数字で代表して表せるようなものではないからです。経験豊富な医師であれば余命推定の不正確性は知っていますので,告知する医師は「あくまで推定値」だということを,患者・家族にきちんと伝えています。
余命推定はなぜ不正確なのか
余命推定はなぜ不正確になるかの理由を知るためには,まず癌患者予後のデータ分布を知ることが必要です。ここに一つ例を出して解説します。
図はメラノーマという皮膚癌の患者を新規治療群とプラセボ群で比較した試験の生存曲線です2)。...
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