医学界新聞

2018.10.01



第52回日本作業療法学会開催


 第52回日本作業療法学会(学会長=広島大大学院・宮口英樹氏)が9月7~9日,「根拠に基づいた作業療法の展開」をテーマに,名古屋国際会議場(名古屋市)にて開催された。シンポジウム「疾患別作業療法ガイドラインの紹介と臨床への応用」(司会=長崎大大学院・東登志夫氏)では,日本作業療法士協会疾患別ガイドライン作成班の作業療法士4人が登壇。疾患別ガイドラインの紹介とともに,根拠に基づいた作業療法の実践に向けた展望が語られた。


宮口英樹学会長
 日本作業療法士協会では作業療法の実践基盤として「作業療法の定義」や「作業療法士業務指針」を定めている。これらを具体化するために「作業療法ガイドライン」(第5版,2012年)や「作業療法ガイドライン実践指針」(第2版,2013年)が作成された。その一方で,内容の重複や位置付けの曖昧さなどの課題が指摘されているという。

 そこで同協会は,従来の「作業療法ガイドライン」と「作業療法ガイドライン実践指針」を発展的に統合し,作業療法の基本的枠組みを整理した「作業療法ガイドライン」(2018年度版)作成に当たっている。また,2014年にはすでに疾患別ガイドライン班を組織し,作業療法実践の具体的説明や科学的根拠を記述する「疾患別ガイドライン」作成に着手している。脳性麻痺,脳血管障害,認知症についてはガイドライン0版が公開されており,統合失調症や自閉症スペクトラム症などについても作成が進んでいる。

疾患別ガイドラインで現状のエビデンスを整理

 シンポジウムでは最初に,疾患別ガイドライン作成班長の仙石泰仁氏(札幌医大)が登壇し,ガイドライン作成過程の全体像を説明した。疾患ごとに組織された作成班は2年ほどかけて,クリニカル・クエスチョンの作成,関連論文の抽出,推奨レベルの決定に取り組んだ。推奨レベルは,エビデンスレベルの他,エビデンスの数や結論のばらつき,臨床的有用性,臨床上の適用性(作業療法士の能力,地域性,保険制度),リスクやコストを考慮して決定されたという。

 仙石氏は脳性麻痺ガイドラインの概要を引き続き紹介した上で,脳性麻痺に対する作業療法は多く実践されているものの,成果をまとめた論文が少ないことを課題に挙げた。氏は「ガイドラインは作業療法の良しあしを決めるものではなく,現状で研究が不足している点を明らかにするもの」と述べ,今後の研究活動の参考にしてほしいと呼び掛けた。

 稲富宏之氏(京大大学院)は,現在作成中の統合失調症ガイドラインの中間報告を行った。年度内の取りまとめを目標に,13のクリニカル・クエスチョンに絞って,文献の精査や推奨レベルの検討が進められている。統合失調症に対する作業療法介入としては,身体活動を伴う介入や認知行動療法的介入などが推奨される見込み。一方で,氏は「創作・表現活動を用いた介入など臨床の感覚として効果があるものでも,今後の学術的な追究が必要であるとわかった」と述べた。

 続いて竹原敦氏(湘南医療大)が認知症ガイドラインについて紹介した。作成に当たっては,米国作業療法協会(AOTA)が2010年に公表した「認知症の人を対象とした作業療法ガイドライン(Occupational Therapy Practice Guidelines for Adults With Alzheimer's Disease and Related Disorders)」に準拠し,作業と健康に焦点を当てたクリニカル・クエスチョンを6つ,わが国の現状を踏まえた予防の視点から新たに1つを追加し,合計7つを設定。個別性を重視した実践や多様な活動を複合的に使用した実践などが推奨されている。氏は,AOTAが2017年に認知症関連の新たなガイドラインを出版したことに触れ,日本でも早急な更新が必要との見解を示した。

 最後に脳血管障害ガイドラインについて述べたのは蓬莱谷耕士氏(北摂総合病院)。脳血管障害は作業療法の身体障害領域において最も経験する機会の多い疾患である。作業療法はADLの改善など遂行能力改善に対して特に大きな役割を担っているが,脳卒中合同ガイドライン委員会による「脳卒中治療ガイドライン」では根拠のある高い評価を得られていない。急性期,回復期,生活期など治療の機能分化が進み,他職種との連携が求められる中,ガイドラインで作業療法の根拠を明示することをめざしたという。クリニカル・クエスチョンは,評価,心身機能,活動と参加を軸に系統立てて設定されている。課題として氏は,作業療法士の専門領域であるADLやIADLなどの生活行為に関する質の高い論文が少ないことを挙げ,今後のエビデンスの蓄積に期待を寄せた。

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