医学界新聞

2018.08.27



Medical Library 書評・新刊案内


看護を教える人のための
経験型実習教育ワークブック

安酸 史子,北川 明 編

《評者》池西 靜江(Office Kyo-Shien代表)

不確実な実習現場での経験と教える人の支援が,学生を看護師に育てる

 臨地実習の「経験」が,学生を看護師に育てます。しかし,医療事故や患者の権利擁護に注目の集まる社会情勢の変遷により,看護師免許取得前の学生が現場で体験できることは,以前より少なくなってきました。そのため,「経験」をどう効果的に教えるかを考えなくてはいけません。

 また,実習教育の難しさは複数の意味での不確実性にあると思います。患者には,日々の病態や心理の変化,治療の効果や副反応の出現などの不確実性があります。学生には,知識・技術の未熟さに加えて,揺れ動く心理の不確実性があります。そして,両者の相互作用で成り立つ看護実践は,さらに不確実性を増します。しかし,不確実で正解が見えない経験を積んでこそ,教員・指導者の助言を得て経験を振り返り,学生は看護師になっていくことができるのです。

 ここで求められるのが,教える者の力量です。一人ひとり違う学生の経験を把握し,経験を「教材」として切り取り,何をどう教えるかをその場で考え,学生にかかわります。教える者にとって,正解が1つではない不確実さが実習教育を難しくします。

 このたび出版された本書は,教える者に大切な,しかし成書の少ないこうした現場ベースドの考え方とかかわりの道筋を示してくれています。まず,学生の直接的経験を把握し,明確にすることからスタートし,次に学習可能な内容とかかわりの方向を考え,最後に経験の意味付けを援助する,というものです。

 確かに自分自身の指導を振り返ってみますと,その道筋を意識せずにたどっていたように思います。それを明示してくれたことで,新しく教える立場になった者はずいぶん助けられると思います。

 本書はワークブックですので,その道筋を紙面上で自ら経験的にたどることができます。しかも,「あるある!」とうなずける具体的な事例がたくさん掲載されていますので,よいトレーニングになります。中でも,学生の強みを明確にするトレーニングは有効だと思います。

 個の伸長をめざす教育活動において,課題だけでなく,強みを見いだすことは重要です。ワークに取り組む中で,課題中心に学生を見る自己の傾向性に気付くこともあります。「記録が書けなくても,叱られることを覚悟で毎日実習に来る」という本書で紹介されている例も,まさしくその学生の大きな強みです。それを認めて,次のプロセスに進むと,学生の表情は変わってきます。その上で,学生の直接的経験を「教材」にして,何をどう教えるかを考えるトレーニングを積めば,効果的なかかわりができるようになると思います。

 本書は,そのようなパターンを踏襲して10事例について考えた後,次の18の研修事例は,その場面で何をどう教えるかについて,解答例のない課題に自分で取り組むという構成です。現場実践における解答は1つではないので,悩みながらその一つひとつに誠実に取り組む姿勢こそ,自らの教育力を磨くことになります。

 実習教育は難しいと思っている看護教員・臨地実習指導者の方はぜひ,ワークに取り組んでいただけるとよいと思います。

B5・頁192 定価:本体2,700円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03591-0


手順が見える! 次の動きがわかる!
消化器外科の手術看護

大野 義一朗 著

《評者》安達 洋祐(久留米大教授・医学教育研究センター長)

外科医の熱い思いが添えられた看護師のための手術書

 腹腔鏡手術が普及して約20年。開腹手術の時代の緊張感や一体感がなくなったなぁと寂しさを感じていたら,『手順が見える! 次の動きがわかる! 消化器外科の手術看護』という本が出た。手術室看護師のための手術書であり,市中病院で日常的に行っている一般外科の解説書である。

 中身を見ると,虫垂切除や胆囊摘出から肝臓切除や膵頭十二指腸切除まで10種類の手術が,概要・基本・手順の三本立てで記載されている。ちまたの類書にない魅力は,①外科医の思い,②看護師の視線,③編集者の熱意が詰まっていることであろう。

 著者は日本外科学会指導医のベテラン外科医であり,「手術の流れを理解してもらうこと」を重視している。「手順」の文章とイラストは隅々まで配慮が行き届いており,随所で術者の意図や操作の意味を示し,「テンポを大事に」「執刀医も苦戦」「看護師の役割が大きい」など,外科医の思いを添えている。

 執筆協力者として手術室スタッフ16人の名前が挙がっており,手術室看護師の熱い視線を感じる。使用器械,体位,麻酔,手術時間,手術適応の他,「おさえておきたい解剖の知識」「術後の観察Point」「Q&A」などを通して,手術室や外科病棟の看護師が知りたいことを見事に網羅している。

 イラストはカラーで美しく,全体像の中に局所を拡大して描いており,術野の展開や操作の内容をイメージしやすい。余分なものを削ぎ落とし重要なものを強調し,術者が見ているものを上手に表現している。手術は写真を掲載しただけでは理解しにくく,イラストの作成に編集者の工夫が感じられる。

 至るところに手術中のポイントが示されているのも,本書の特徴である。腹腔鏡手術では今どこを見ているか理解できること,胃切除ではリンパ節郭清と血管の処理,結腸切除では切る血管・残す血管と無影灯の操作,肝臓切除では血流遮断の時間的制約と出血への対応など,「キモとヤマ場」がよくわかる。...

この記事はログインすると全文を読むことができます。
医学書院IDをお持ちでない方は医学書院IDを取得(無料)ください。

開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook