医学界新聞

2018.08.20



医療勤務環境改善に向けた次の一手は


 2014年の医療法改正で,医療機関の勤務環境改善に関する規定が施行された。これを受け各医療機関では,計画的に勤務環境改善に取り組む「医療勤務環境改善マネジメントシステム」が導入されている。働き方改革が社会的関心を集める中,医療機関は改善に向けた戦略をどう練ればよいか。7月21日に日本看護協会JNAホール(東京都渋谷区)で開催された医療勤務環境改善マネジメントシステム研究会(会長=大原記念労働科学研究所・酒井一博氏)の第2回シンポジウムでは,「より良い医療勤務環境を目指すための新戦略」をテーマに,各施設の好事例から勤務環境改善に向けた「次の一手」が議論された。

ICTの有効活用で組織的な改善を

 第Ⅱ部パネルディスカッション(コーディネーター=東京家政大・野原理子氏,パラマウントベッド株式会社・坂本郁夫氏)で最初に発表した有限責任監査法人トーマツの根本大介氏は,作業自動化のためのテクノロジー(Robotic Process Automation;RPA)導入により医療機関の事務業務を効率化した事例を報告した。医療機関には電子カルテをはじめ部門ごとのシステムが多数存在し,中規模病院で50種類ほど,大規模病院では70種類以上に上る。事務担当者が各システムからの情報を定型の文書に転記する膨大な作業が,RPA導入で24時間自動打ち込みが可能になったという。単純作業の軽減の他,入力ミス防止にも役立っているとの利用者の声を紹介した。

 病院管理者の立場から発表したのは等潤病院の伊藤雅史氏。2007年に理事長に就任した際,「マネジメント不在」の現場に危機感を抱いた氏は,経営基盤の強化には勤務環境改善が急務と考え,医療ICTの導入に積極的に投資してきた。セキュリティを強化しつつ利便性を追求したネットワークの構築,患者利用者情報の他施設間での共有などを次々に実施。「医療サービスを拡充することが,シームレスなケアと患者確保・定着を実現する」と述べ,ICTへの投資は「臨床の求心力,ブランドの強化にもつながる」との見解を示した。

 看護管理が専門の小池智子氏(慶大)は,勤務環境改善に「Nudge」の視点を取り入れることを提案した。Nudgeとは,人々に強制することなくより良い行動を促す行動経済学の理論に基づいたアプローチ。自発的に残業しなくなるよう,ノー残業手当の創設や年間有給休暇取得の早期計画,会議を立って行い時間短縮を図るなど,人間の行動と意思決定の特徴を分析した勤務環境改善のアイデアを披露した。

 日本各地で高齢者施設や療養病床を運営する湖山医療福祉グループ代表の湖山泰成氏は,介護現場の課題として,①不十分な教育制度,②医療側の介護に対する無関心の2点を指摘。「介護の世界には医療の光を当てなければならない」と語り,経験豊富な看護師が介護現場の管理者となって教育や組織作りに携わることに期待を示した。

 同研究会会長の酒井氏は,「医療勤務環境改善」「働き方改革」「過労死等防止対策」が2013年以降並行して進んでいると考察し,今後は3つを横断した取り組みの推進が重要になると強調した。さらに氏は,ICTの整備に着目し,患者情報共有システムの構築による「疲弊しないシステムづくり」や,女性医師の子育て後の職場復帰を促すeラーニングやシミュレーション教育の普及など,テクノロジーの活用による勤務環境改善を呼び掛けた。

総合討論の模様

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