医学界新聞

2018.07.30



Medical Library 書評・新刊案内


よくわかる血液内科

萩原 將太郎 著

《評者》志水 太郎(獨協医大病院総合診療科診療部長/総合診療教育センター長)

「優しく」学べる血液内科

 本書は私自身,拝読してファンになっただけでなく,後期研修医,また若手スタッフの先生にもとてもお薦めの血液内科の本です。

 なぜファンになったかですが,まず第一に,「症例が豊富」であることです。各章のトップが症例で始まっていることから,症例ベースが好きな若手医師の関心を引き出してくださいます。

 第二に良いなと思うのは,本書の持つ優しさ,というか「読者フレンドリー」であること。萩原將太郎先生がまるで横に付いてくださっているかのように,優しい語り口の導きで,ケースごとの血液内科の専門家の考え方をなぞることができるのも特徴です。そしてその優しさの故,これまで見たことがないくらい明快,かつクリアカットに,時にシグナルレベルまでの各現象を説明してくださっていること。各症例には診断のポイント,治療のポイント,と明文化がされていて,血液内科を学ぶモチベーションを後押ししてくれると思います。

 優しさと言えばその他に,各章が長すぎないことも特徴です。本書は各血球の異常,血栓症,感染症,輸血,危険な病気……と網羅的な章の展開でありながら,280ページほどで章立てが30以上もあり,血液内科を専攻しない若手医師にも,時間のあるときに気になるところでさっと読むという読み方もできます(通読がお薦めです)。血液内科というと難しそう,と身構えてしまう気持ちは多くの方に(自分も含め)あると思いますが,そのような不安をこの本は優しく拭い,広く血液内科への門戸を広げてくれる,そんな雰囲気もこの本から感じることができます。

 第三に,「萩原先生のロールモデルとしての情熱が伝わってくる」ということ。先述の優しく語り掛けてくれる上級医の口調とともに,勉強になる臨床的考え方に満ちた「コラム」や「クリニカルパール」も素晴らしいと感じます。

 第四に本書で気に入っているのは,末梢血スメアの豊富さです。現在まで多くの研修医の先生方と接する中,彼らに末梢血のスメアを見る習慣があまりないという印象を持ちますが,もったいないと感じます。これは自分の恩師のティアニー先生(米カリフォルニア大サンフランシスコ校教授)もおっしゃっていたことで,日米に共通した話題かもしれません。グラム染色と同様に末梢血スメアも情報に満ち,また医学の奥深さ,生命の神秘さを教えてくれます。現場でビタミンB12欠乏症を疑って好中球核過分葉を見つけたとき,溶血性貧血を疑って破砕赤血球を見つけたとき,マラリアを疑って輪状体を見つけたときの興奮と言ったら! 本書の第10章ではそのような要望に応えてくれるように,豊富な代表的末梢血スメアの異常所見の写真があり,コメントも非常に勉強になります。

 まだまだこの本の魅力はたくさんありますが,まさにタイトル通りの「“よくわかる”,そして“優しい”血液内科」をぜひ書店などでお手になり,血液内科の魅力にはまってみませんか。素晴らしい勉強の機会を与えてくださった萩原先生に心より感謝申し上げます。

A5・頁284 定価:本体3,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03207-0


帰してはいけない小児外来患者2
子どもの症状別 診断へのアプローチ

東京都立小児総合医療センター 編
本田 雅敬,三浦 大,長谷川 行洋,幡谷 浩史,萩原 佑亮 編集代表

《評者》高橋 孝雄(慶大教授・小児科学)

帰してはいけない患者への気付きを高めるコツが満載

 われわれが外来診療や救急診療で診る患者の中には,ごくありふれた症状が主訴で一見軽症のようにも思われるが,実は緊急度が高く,家に帰してはいけないケースが存在する。帰してはいけないケースを帰しそうになったが思いとどまった経験や,見逃してしまった苦い経験の一つや二つは思い起こされるのではないかと思う。

 小児科医なら誰しも,発熱の患者で髄膜炎を見逃すな,腹痛の患者で虫垂炎や腸重積を見逃すな,というように,症状ごとにいくつかの見逃してはいけない疾患に注意して診療に臨むべきことを指導医から何度となく教えられてきたことだろう。しかし,どうすれば緊急度の高い疾患を見逃さなくなるか,ということまでは教わっていないのではないか。本書は,外来診療で家に帰してはいけない子どもを見逃さないようにするための“心構え”を教えてくれる。

 本書は2つの章によって構成される。第1章では,患者・保護者の訴えや話を聴く心構えと,帰してはいけない患者を見逃さないようにするための,診療の一般原則が解説されている。第2章では,小児の一般外来診療,救急診療でよく見られる17の症状別に診断へのアプローチが説明され,帰してはいけない症状や徴候(red flag),注意すべき症状や徴候(yellow flag)が明確に示されている。総論の後にはいくつかの症例が呈示され,臨床推論の過程が具体的に述べられており,診療の一般原則が個々の症例においてどのように実践されているかがわかる。取り上げられている29症例の中には読者が経験したことのない疾患があるかもしれないが,症例呈示と解説を読むと,たとえ未経験の疾患であってもその臨床像を把握することができるだろう。

 本書の優れているところは,帰してはいけない子どもを見逃さないために臨床検査や画像検査に走るのではなく,問診,バイタルサイン・生理学的徴候・外観の評価,身体診察,経時的変化の観察を丁寧に行うことが重要だという基本姿勢が貫かれている点である。帰してはいけない子どもを的確に見つけることは,裏を返せば,帰宅させてよい子どもを帰す判断ができるということにつながる。症状別の総論では,安易に帰してはいけないポイント(red flag, yellow flag)とともに,帰してよい子どもを見極めるポイントについても説明されている。加えて,保護者への説明の要点についても解説されており非常に実践的である。若手の小児科医が一人で外来診療や当直を任されるようになったとき,いま自分が診ている患者を帰宅させてよいと判断するためのヒントを,本書は教えてくれる。総論には,患者の全身状態を評価するために参照すべき,バイタルサインや血圧の年齢別基準値や,Glasgow Coma Scale, Japan Coma Scaleなどが掲載されており,臨床現場での使用にも堪え得る。

 このように,本書には帰してはいけない患者への気付きを高めるための要点が満載されている。学生や研修医,小児科専攻医にとっては,症候別の診断へのアプローチや臨床推論を学ぶ小児科診断学の指南書ともなるだろう。読者の皆さまには,自らの診療経験や診療姿勢を振り返りつつ,診療の質をさらに向上させ,診断の精度を高めることにおいて本書を活用していただきたいと思う。

A5・頁272 定価:本体3,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03592-7


臨床薬理学 第4版

一般社団法人 日本臨床薬理学会 編
小林 真一,長谷川 純一,藤村 昭夫,渡邉 裕司 責任編集

《評者》大内 尉義(虎の門病院院長)

臨床研究でも重要な臨床薬理学のスタンダードブック

 日本臨床薬理学会の重鎮であられる,小林真一,長谷川純一,藤村昭夫,渡邉裕司の4教授責任編集『臨床薬理学 第4版』が上梓された。臨床薬理学というと,「ADME」()という言葉がすぐ思い浮かぶように,薬物の体内動態に関する学問というイメージが強い。もちろん,薬物動態は臨床薬理学の重要な一分野であるが,冒頭の「刊行によせて」において,渡邉教授が「臨床薬理学は,薬物とヒトとのあらゆる側面に関与する科学」であると述べているように,本書では,薬物の薬理作用とその機序といった基礎的な分野から,薬物動態,薬力学,実臨床における薬物の使い方,処方箋の書き方,そして新薬の開発プロセス,薬事行政に至るまで,臨床医,薬剤師,その他の医療スタッフが理解しておくべき臨床薬理学の多岐にわたる内容が丁寧に記述されている。二色刷りで読みやすく,本書はまさに日本臨床薬理学会が総力を挙げて作られた臨床薬理学のスタンダードブックと言える。

 言うまでもなく,薬物療法は医療の基本である。医学生が学ぶ標準カリキュラムである医学教育モデル・コア・カリキュラムにおいては,「生体と薬物」の項に,主に薬物動態,薬力学に関する履修内容が記載されており,また「加齢と老化」の項に,薬物動態の加齢変化,ポリファーマシーの記載がされているが,臨床薬理学の体系的な学習という点ではまだまだ不十分と思われる。厚労省による「臨床研修の到達目標」においては薬物療法に関する独立した項目はない。このような状況下で,医療の基本である薬物療法を,医学生,医師(特に研修医),薬学生,薬剤師の方々が深く学ぶために,本書は大いに役立つであろう。さらに,看護学生,看護師など,全ての職種の医療スタッフが薬物療法の基本を学ぶのに有用であることは申すまでもない。

 折しも,2018年4月に施行された臨床研究法およびその施行規則では,特定臨床研究の審査を担当する認定臨床研究審査委員会に「毒性学,薬力学,薬物動態学等の専門的な知識を有する臨床薬理学の専門家」を配置しなければならないこととなった。臨床薬理学は,臨床研究を進める上で,ますます重要な位置を占めることになるわけであり,この時代の流れからも,本書の発刊は極めて時宜を得たものになった。

 臨床薬理学の全ての内容を盛り込んだ本書であるが故に,日常の持ち運びにはやや難がある。今後,本書のエッセンスをまとめた簡便なハンドブックがあれば,と思うのは評者だけであろうか。

:吸収(absorption;A),分布(distribution;D),代謝(metabolism;M),排泄(excretion;E)の頭文字をとったもので,薬物の体内動態を理解する上での基本的な概念である。

B5・頁460 定価:本体8,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02873-8


薬剤師レジデントマニュアル 第2版

橋田 亨,西岡 弘晶 編

《評者》半谷 眞七子(名城大薬学部准教授・病院薬学研究室)

質の高い薬物療法を提供する薬剤師のバイブル

 薬剤師が暗中模索で患者への適切な薬物療法を提供する時代は終わり,今や薬剤師の誰もが一定のレベルのサービスを行うことが求められている。本書は,入職1~2年目の新人薬剤師や,新しい病棟や在宅医療を担当する薬剤師,またこれから実務実習を行う薬学生にとっても,適切な薬物療法を提供するためのポイントをつかむことができる必携の一冊となっている。

 本書は2部構成になっており,前半は調剤,医薬品情報(DI),フィジカルアセスメント,薬剤管理指導の要点について,後半は喘息,糖尿病,高血圧など主要54疾患について,患者の状態把握,標準的処方例,薬学的ケア,処方提案のポイントなど留意すべき事項がまとめられている。特に,各疾患の項目では,治療ガイドライン・標準治療がアルゴリズムなどでわかりやすく図表化され,臨床検査値の基準値一覧やバイタルサインなどのフィジカルアセスメントについても掲載されているので,患者の病態や臨床経過の把握とそれに伴う薬物療法モニタリングの評価に欠かせない内容となっている。

 臨床の現場では,「カリウムが高い患者の輸液は?」「合併症がある患者の血圧の目標値は?」「せん妄を引き起こしやすい薬剤は?」「この患者にこの薬は必要?」と日々変動する患者の症状に合わせた適切な薬剤選択が求められる。医薬品集やインタビューフォームなどを検索する前に,本書の場合は索引から簡単に必要な情報にたどりつくことができ,現場での素早い対応が可能となる。

 わが国では超高齢社会を迎え,薬剤師も高齢者の薬物療法には特に注意を払わなくてはならない。本書の第6章「高齢者に対する薬物療法の注意点」の中では,高齢者における薬物動態の変動やポリファーマシーへの対策,処方整理のアプローチ方法が取り上げられており,高齢患者への対応に非常に参考になると思われる。併せて,巻末には「腎機能低下時に特に注意が必要な薬剤とその投与量」として腎機能低下時のクレアチニンクリアランスに合わせた用法用量が薬剤ごとに掲載されており,明日から現場で活用できる実践的な内容となっている。

 本書『薬剤師レジデントマニュアル 第2版』は,質の高い薬物療法を提供する薬剤師のバイブルとなるであろう。

B6変型・頁426 定価:本体3,400円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03263-6


《標準理学療法学・作業療法学・言語聴覚障害学 別巻》
義肢装具学

佐伯 覚 編

《評者》半田 一登(日本理学療法士協会会長)

理学療法士の現状に適した臨床業務の友となる書

 理学療法士の業務は,法的には基本的動作能力の回復が中心となっています。その基本的動作の中でも,二足歩行こそが理学療法士が担うべき役割です。人間は二足歩行を獲得したことで前足が「手」として機能を果たすようになり,道具を使うことが可能になったのです。この「二足歩行」こそが生活の基盤を構成し,その成否によって生活の質は決定付けられます。

 私事になって恐縮ですが,1970年(今から約50年前)に九州労災病院へ臨床実習に行ったとき,義肢装具に関するペーパーテストがあり,何と15点(100点満点)という恐るべき結果でした。その後の実習期間は,歩行用装具,大腿義足,下腿義足,義手について学ぶため,毎日のように義肢課(当時は義肢装具士の身分法はなし)を訪ね,採型や製作過程を見学させてもらいました。それらのおかげで実習終了時は義肢装具には並々ならぬ自信を持てるようになりました。

 そして,71年にはその九州労災病院に就職したのですが,初めてのブレイスカンファレンスで当時リハビリテーション科部長であった原武郎先生に言われた言葉は今でもしっかりと覚えています。それは「義肢や装具を考えるときに長さの1 mm,角度の1度にこだわりなさい。もしかするとその1 mm,1度のせいで歩行困難になるかもしれないぞ」というものでした。その言葉は私に決定的な影響を与えました。

 ところが最近では,理学療法士が歩行用装具について何もわかっていないという指摘を処々方々でされるようになりました。若い理学療法士たちの言い分は「医師が処方をし,義肢装具士が製作したものにけちはつけられない」というものです。医療専門職としての知識や責任,そしてチーム医療を考えると頭を抱えてしまいます。その背景として,学校教育および総合臨床実習などが十分に機能していないことが考えられます。

 本書では,編集方針として「学生が臨床的かつ科学的思考プロセスを理解し義肢装具への興味を深めること」「実習も本書のみである程度対応できる」ことなどが挙げられており,理学療法士の現状に適した方針になっています。その上で読み進めると,冒頭で「義肢装具療法の流れ」として支給制度などにも説明が及んでいることはいかにも臨床的と言え,素晴らしいことです。続いて,「歩行のバイオメカニクス」となり,歩行そのものの理解を深めるという手順となっています。正常歩行および異常歩行をまずはしっかりと理解させることは非常に重要なことであり,臨床業務にあって本書は大切な友となるでしょう。そして,義肢装具の具体論になりますが,義肢や装具の関連情報などまでが多彩に盛り込まれ,非常に有益な作りを感じました。また,最後にシラバスまで付けたことは面白い試みです。

 最後になりましたが,本書の出現によって,理学療法士養成課程で学生の理解度と関心が高まり,義肢装具の長さ1 mm,1度にこだわる理学療法士が増えることを期待します。

B5・頁256 定価:本体4,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03441-8


触診解剖アトラス 第3版

Serge Tixa 著
奈良 勲 監訳
川口 浩太郎,金子 文成,藤村 昌彦,佐藤 春彦 訳

《評者》福井 勉(文京学院大教授・理学療法学)

3次元が意識できる体表解剖書

 本書はSerge Tixa氏の著書『触診解剖アトラス 第3版』の日本語訳本である。頸部,体幹・仙骨,肩,上腕,肘関節,前腕,手関節・手,股関節部,大腿部,膝関節周囲,下腿部,足関節および足部という12章で構成されている。

 本邦にも触診解剖あるいは体表解剖の類書は複数あるが,本書は550ページを超える大著である。骨学と筋学を中心に構成されているが,神経および血管についても記載されている。触診方法の特徴としては,関節を特定のポジションに保持して神経の触診を容易にする工夫や,「性差」について述べられている箇所もある。学習書として第1章から順次読み進めることももちろん良いが,必要な情報が網羅されているため,索引を用いて辞書的に活用することも可能である。また随所に記述されている「クリニカルヒント」は,運動器疾患患者を検査・評価する際に遭遇するさまざまな場面を想定して大変詳細に述べられている。

 このような専門書が改訂を重ねていることは,すなわち定評があることを示していると考えられるが,全体を概観すると,そのことをうかがわせる点がさまざまにある。

 その一例が写真被写体のモデルの身体である。骨学と筋学での描写が非常にわかりやすい体表面を有していることに加え,触診部位をわかりやすく見せる写真を豊富に用いている。触診解剖の専門書としてこの種の写真は読者の理解を深める重要な鍵であると言える。掲載写真の何十倍ものショットから厳選されたのであろうことが推定される。またモデルの身体の背景面,身体の凹凸を際立たせるための照明の素晴らしさも秀でている。さらに,触診部位に応じた被検者と検者のポジショニング(肢位)を選んでいることも読み進めるうちにわかってくる。2次元の紙面であるにもかかわらず,3次元を意識して撮影されている点も本書の魅力の一つである。

 触診解剖の技術的洗練度は運動器疾患だけではなく,中枢神経疾患や呼吸器疾患などにも重要なことであり,その方法論を詳細に習得することが求められる。これは,疼痛部位のメカニカルストレスを類推する手段としても有効である。米国版の原書のネット上評価も高く,近年盛んになっている超音波装置による身体の構造把握にも有益である。

 本書は,学生が触診解剖書として活用するために十分な内容であるだけでなく,ベテランセラピストが検査・評価方法を再学習する手段にも十分堪え得る深い内容を有している。手元に置いておきたい好著である。

B5・頁568 定価:本体8,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03247-6


《理学療法NAVI》
この30題で呼吸理学療法に強くなる

高橋 仁美 著

《評者》塩谷 隆信(秋田大名誉教授)

熱血漢・アイデアマンの著者による,楽しく学べる呼吸リハビリテーションの入門書

 私と高橋仁美先生の出会いは秋田大医学部保健学科(当時秋田大医療技術短期大学部)に着任した20年前の1997年にさかのぼる。当時,日本では,呼吸リハビリテーションは始まったばかりでその認知度は低く,手探りでリハビリテーション・プログラム作成に共に取り組んだことが思い出される。仁美先生は,熱血漢であり,アイデアマンでもある。また,仁美先生の強烈な個性は万人がよく知るところであり,お酒が入るとその人格が180度の変身を遂げるのも彼が皆から慕われるゆえんである。

 2005年に発表した「座ってできるCOPD体操」は彼のオリジナルである。自分の子どもさんをモデルにして,簡単なステップ体操を考案したという。運動療法の普及が期待されていたが,冬期間は雪で外出がままならない秋田県ではその実施は困難であった。椅子に座ったままかつDVDを見ながら簡単に楽しく行えるCOPD体操は,仁美先生の究極のアイデアであり,秋田県のみならず全国における呼吸リハビリテーションの実践,普及に大いに貢献した。その後,このCOPD体操は英語論文として掲載され,同氏の医学博士論文の一部にもなった。現在,こうしたCOPD体操や呼吸筋トレーニングを取り入れた低強度運動療法を中心とした在宅呼吸リハビリテーション・プログラムは全国展開しているのではないかと自負している。このような呼吸リハビリテーションの普及活動が評価され,同氏は秋田県医師会からの推薦を受けて第41回医療功労賞(県)を受賞している。

 本書は,仁美先生の30年を超える理学療法士としての実臨床における豊富な経験をもとに作成された単著である。呼吸の基礎知識,呼吸アセスメント,呼吸ケアの3章から構成され,前半はエキスパート理学療法士(著者)が新人(ビギナー)理学療法士との会話形式として,実に飽きさせずに深く理解できる内容で示されている。第1章の呼吸の基礎知識では,ともすれば難解になりがちな呼吸器系の解剖や生理学をわかりやすく解説している。第2章の呼吸アセスメントでは,呼吸の理学療法評価に関して,単なる経験からだけではなく呼吸生理学の視点から丁寧に説明している。第3章の呼吸ケアでは,酸素療法,人工呼吸において日常の実臨床で遭遇する問題点に関して具体的に解説している。さらに,近年注目されている筋肉から分泌されるマイオカインと身体活動性の関連など,呼吸リハビリテーションに関係した最新の話題を多く取り上げていることも本書の特徴である。

 本書は,エキスパートとビギナー理学療法士との会話という読みやすいスタイルで記述されてはいるが,通常は数式を駆使して記述される呼吸生理学あるいは人体解剖学書に勝るとも劣らない呼吸理学療法の内容になっていて,かつ「なるほど,そうだったのか」とふに落ちるところまで楽しく学ぶことができる。本書が,これから呼吸リハビリテーションあるいは呼吸理学療法に取り組もうと考えている若手理学療法士のみならず中堅あるいはベテラン理学療法士にも愛される呼吸リハビリテーションの入門書になってくれることを心から祈念するものである。

A5・頁252 定価:本体3,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03261-2


ハルペリン
病態から考える電解質異常

門川 俊明 訳

《評者》柴垣 有吾(聖マリアンナ医大教授・腎臓・高血圧内科学)

基礎医学がいかに臨床医学の理解に重要か教えてくれる

 慶大医学教育統轄センター教授の門川俊明先生より待望の翻訳書が出版され,その書評を書かせていただく光栄にあずかることができたことを嬉しく思っています。

 私も相当な電解質オタクを自任していますが,そのキッカケは後期研修医時代の抄読会で輪読した本書の原書第2版でした。本書の特徴はHalperinが同僚であるKamel(第2版当時はGoldstein)の助けを得て執筆したものであり,ほぼ単著のようなものでした。得てして,分担執筆の教科書はいわゆる参考書的な無味乾燥な内容になりがちですが,単著では筆者の考えが顕著に表れるものです。本書もHalperinの考える水・電解質,酸塩基平衡の世界観が広がっていて,とても魅力的でした。単著の場合,書かれていること全てを信じて良いのか判断が付きにくいのですが,病態生理学的な仕組みを臨床の症例を出しながら説明していくスタイルが頭の中での理解を深めるのにとても効果的と感じたものです。また,生化学や生理学などの基礎医学がいかに臨床医学の理解に重要であるかも,本書が教えてくれます。私も電解質の本などを執筆していますが,その根底にあるのが,このHalperin本と言っても過言ではありません。

 若手にもぜひ薦めたい本書なのですが,欠点は翻訳がないということでした。一方で,本書の翻訳はHalperinの世界観を深く理解し,かつ中立的な思考も可能な人でないと困難であり,私自身はチャレンジしようとは夢にも思っていませんでした。そのような本書を何と単独で翻訳してしまった門川先生に深く敬意を表したいと思います。正直,門川先生以外にはできない仕事だったとも感じます。門川先生は腎生理の深い知識と理解があり,さらに難解になりがちな説明を極めて魅力的かつわかりやすく後進に伝えることのできる稀有な天才です。

 本書は恐らく通読は苦痛を伴うと思います。最初から読み始めるという無謀なことはやめ,ぜひ,臨床症例に出会ったら,その病態の部分を読むということで読み進めることを勧めます。そこで興味が出たら,生理の基礎の部分に進みましょう。一回では理解できないことも多々あると思いますが,繰り返し読み,かつ臨床の経験値が高まっていく中で,本書があなたの理解を助けることになるはずです。

B5・頁528 定価:本体7,800円+税 MEDSi
http://www.medsi.co.jp