NANDA-Iの国際戦略(上鶴重美)
インタビュー
2018.07.23
【interview】
NANDA-Iの国際戦略
組織基盤・研究拠点を整備し,世界にひらかれた学術団体へ
上鶴 重美氏(看護ラボラトリー代表/NANDAインターナショナル理事長)に聞く
看護診断用語の標準化と体系化に取り組む国際的な学術団体「NANDAインターナショナル(NANDA-I)」は,現在,世界27か国の会員が参加し国際化が進む。かつて北米を中心に開発された看護診断は20以上の言語に翻訳され,世界各国において看護の臨床,教育,研究に用いられている。
そのNANDA-Iで今リーダーシップを発揮するのが,2016年5月にアジア人として初めて理事長に就任した上鶴重美氏だ。NANDA-Iの組織基盤の安定化をはじめ,大学と連携した研究機関の創設,看護診断のエビデンス強化に向けた委員会活動の刷新など,NANDA-Iの国際化に対応した改革を次々に推し進める。理事長就任から2年。これまでの成果と今後の展望を聞いた。
看護の高度化・専門化とともに進む国際化
――看護診断開発にかかわる国際的な学術団体であるNANDA-Iの,世界での位置付けをお話しください。
上鶴 1982年に北米看護診断協会として設立されたNANDAは,近年国際化が急速に進んでいます。初期の看護診断は北米の看護師中心に開発されてきましたが,北米以外の看護師の入会増加を受け,2002年にNANDA-Iに改称して国際組織となりました(表)。会員数は現在212人。内訳は北米が40%,中南米30%,欧州25%,アジアが5%,アフリカはナイジェリアの方が1人と,北米以外が実に6割を占めます。NANDA-I看護診断は20以上の言語に訳され,全ての大陸で教育,臨床,研究に活用されています。
表 NANDA-Iの沿革 |
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――各国への普及はどのような経緯で進んだのでしょう。
上鶴 NANDAはもともと,海外展開に特に積極的だったわけではありませんでした。私が入会した1993年当時,米国・カナダ以外の会員は“国際会員”の枠で,カンファレンスの発表日も別に設けられていたほどです。
――それでも,近年急速に国際化が進んだのは,どのような背景があると考えますか。
上鶴 各国の看護教育が高等教育として行われるようになり,看護の高度化・専門化が進展していることです。特に,発展途上国だった国々が経済成長を遂げ,看護教育にも力を注ぎ始めている点が顕著です。
例えば,東欧やアジア諸国では看護教育の大学化と同時に看護診断の根が広がっていますし,教員の昇進審査が厳しい中南米では,看護診断の研究を業績にしようと積極的に取り組む方が増えています。看護の専門性をいかに追い求めるか。その姿勢が,看護診断への注目と理解に結び付く傾向が強いと感じます。
――海外展開にどちらかというと消極的だったNANDAがこれだけ世界に広がったのは,潜在的なニーズがあり,看護の普遍的な問題に対応する手立てとして活用されたからでしょうか。
上鶴 そうですね。やはり大きな転換点は,90年代から社会全体にIT化の波が押し寄せたことです。医療情報の電子化が進む時代の流れを背景に,「看護の言語化」 と「看護用語の標準化」が脚光を浴びました。医療現場にはコンピュータが次々と導入され,情報処理のために標準化された言語を収載する必要が生じたためです。日本でも,看護の専門性や独自性を追求する方向性が重なり,看護診断の可能性に期待と注目が集まったのだと言えます。
診断のエビデンス強化が課題に
――現在,『NANDA-I看護診断 定義と分類』の原書は11版を重ね,244の看護診断を提供しています。定期的に行われる改訂作業はどのようなプロセスで進められていますか。
上鶴 これまでは,10人ほどの会員で構成される診断開発委員会で審査し,最終的にNANDA-I会員による投票で採択していました。しかし,そのプロセスには課題があるのではないかと,理事会の議題に上るようになりました。
――どのような課題でしょうか。
上鶴 診断開発委員会の委員は立候補制で,定員に満たなければ信任されるため,必ずしも適任とは言えない方も就任していました。新規の看護診断の採否は会員の決議事項にもかかわらず,一部の会員しか採決に参加しない,あるいは自分の専門領域以外の看護診断について判断していた点なども課題でした。長年続けられた方法には限界が生じていたため,新しいステップの構築に取り組んできました。
――改善をどう進めていますか。
上鶴 まず,今年から診断開発委員会の委員は担当理事が指名する形に変更しました。これによって,看護診断の構造や概念を十分に理解している委員による審査が可能になります。また,専門領域の看護診断については,その領域に詳しい会員や専門家からなるタスクフォースを委員会とは別に設置し,審査の精度を上げます。さらに,パブリックコメントにより,会員以外の利用者にも広く意見を求めることも検討しています。
――新規採択や改訂が必要な項目...
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