医学界新聞

2018.07.09



Medical Library 書評・新刊案内


病歴と診察で診断する感染症
System1とSystem2

志水 太郎,忽那 賢志 編

《評 者》岡 秀昭(埼玉医大総合医療センター総合診療内科・感染症科診療科長/准教授)

内科医,総合診療医必読

総合診療,感染症内科の実力者が執筆
 レプトスピラ症,メリオイドーシスなど感染症医が喜びそうな診断名も散見されるが,本書は決して,感染症オタクのための本ではない。

 私は常日頃から,感染症の研修を開始するに当たり,まずは内科の研修をしっかり修了することを勧めている。というのも私自身がそうであったのであるが,単なる微生物や抗菌薬に詳しいだけでは,バイキンの先生であって,真の感染症内科医にはなれないのである。これは循環器でも,消化器でも同じではないかと思う。感染症科医なのか,それとも感染症内科医なのか。循環器科医なのか,それとも循環器内科医なのか。私は真の内科医に憧れる。

 本書は決して編者の忽那賢志先生のような感染症専門家ばかりで書かれているわけではない。編者の志水太郎先生は総合診療の若きリーダーであり,他の著者も総合診療医の実力者,真の内科医が多数名を連ねる。また感染症専門家である著者であっても,私の憧れる真の内科医により書かれている。

診断過程と疾患知識を同時に身につけることができる欲張りな本
 感染症は臓器非特異的に生じるため,診断には的確かつ詳細な病歴聴取と全身をくまなく診察する能力が求められる。診断が付けば,微生物を推定し,適切な抗菌薬を選択すればよい。つまり診断が大きなウエイトを占める。真の内科医であれば,病歴と診察で診断することにこだわりたい。

 本書は洗練された総合診療医と感染症内科医たちによるSystem1の判断やSystem2の思考による診断過程を学ぶことができ,合計36例の症例を検討追随することで,感染症の知識も身につけることができる欲張りな書籍である。

 憧れの内科医,総合診療医,感染症内科医をめざす全ての医師にお勧めしたい。

B5・頁236 定価:本体4,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03538-5


腹部血管画像解剖アトラス

衣袋 健司 著

《評 者》松井 修(金沢大名誉教授)

腹部血管にかかわる全ての医師座右の書

 私の畏友,三井記念病院放射線診断科部長・衣袋健司先生が,待望の腹部血管画像解剖の教科書をついに出版された。世界初ともいえる腹部の最新の画像解剖と肉眼解剖の対比から成る画期的な教科書といえる。

 先生は長く臨床の第一線で腹部を中心としてinterventional radiology(IVR)と画像診断に従事され,示唆に富む知見や新しい技術を報告されてきた。その独特の視点や理論的背景の確かさから,“知る人ぞ知る”気鋭の臨床放射線科医としてわれわれの間では高く評価されてきた。その背景に深い肉眼解剖学の研究があることを知り感銘を受けたことを思い出す。先生は,第一線臨床の傍ら,週末には母校・東医歯大の解剖学教室で実際に死体解剖を長年行い,臨床放射線科医の立場から,肉眼解剖に基づいた新しい画像解剖所見を見いだし発表してこられたのである。その重みは計り知れない。

 血管解剖は画像診断の基本として極めて重要であることは論をまたないが,多くの肉眼解剖書は主たる(太い)血管の解剖を記載するのみであり,また観察個体数にも限りがある。一方で,最新のCTや血管造影診断では造影剤を用いれば0.5~1 mm前後の脈管も同定が可能で,また多くの症例での解析が可能である。さらに種々の病的な状態では画像診断で初めて観察が可能であることも少なくない。こうした状況下で,その容易さも相まって,画像診断での血管解剖解析が主流となり,肉眼解剖での研究はほとんどなされなくなりつつある。しかしながらここには重大な盲点がある。画像診断では血管周辺の実質臓器は描出されるものの,間質組織や血管が走行する靭帯や間膜,これらに随伴するリンパ管や神経などは認知が容易ではない。血管とその周辺環境の理解から初めて明らかになる病理・病態は多い。またその理解の上で手技を行うことは,外科手術やIVRには必須である。グレイスケールのデジタル画像で得られた血管像とともにその周辺の肉眼解剖を想起することは臨床医にとって必須であろう。

 しかしながら,画像診断の進歩が逆にこうしたアナログの重要性の理解を低下させている危惧がある。本書はこうした点で極めて重要でかつ画期的な意義を有するといえる。加えて,画像診断では,従来の肉眼解剖や外科手術では認知や解析が困難であった微細な血管が種々の病態で明らかになることがある。これらの解析には,専門的な意図を持って改めて肉眼解剖を観察することで,肉眼解剖の立場で新しい知見が得られることになる。例えば,肝外動脈からの側副血行路の肉眼解剖は近年まで明確に記載されていなかったが,画像診断からの知見を基に改めて肉眼解剖で観察すれば,靭帯や肝被膜を介する肝動脈終末枝と肝外動脈の吻合の存在やルートを容易に明確にすることができる(本書中p.37~43)。本書にはこうした点でも極めて有用な知見が多く記載されている。

 腹部疾患にかかわる全ての医師,特に画像診断,IVRや外科手術にかかわる若い医師に座右の書として強く推薦するものである。

B5・頁160 定価:本体10,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03057-1


ロジックで進める リウマチ・膠原病診療

萩野 昇 著

《評 者》矢吹 拓(国立病院機構栃木医療センター内科医長)

リウマチ・膠原病診療に携わる全てのプライマリ・ケア医へ

レクチャーに定評あるDr.ハギー待望の単著
 膠原病診療に携わるプライマリ・ケア医の中で,萩野(荻野ではない)昇先生ことDr.ハギーをご存じない方はもぐりだろう。レクチャーのわかりやすさ,スマートさには定評があり,全国引っ張りだこである。そんなDr.ハギーが単著を出すとなれば読まない手はない。

 本書『ロジックで進める リウマチ・膠原病診療』は,ちまたでは既に「ロジリウ」なんて素敵な略称も付き,アイドルグループ顔負けの人気ぶりだという。今回本書を読了した第一声は「いやあ,面白かった!」だった。まさに読後感爽快! とはいえ,それだけでは書評にならないと怒られそうなので,もう少し具体的に。印象的だったのは以下の3点である。

 「リウマチ科医であると同時にやはり内科医!」
 「Pearl満載! その博識とうんちくに脱帽」
 「膠原病臨床の実践が丁寧に記載され,まるでDr.ハギーが隣にいるかのような臨場感」

 本書の中心はもちろんリウマチ・膠原病疾患なのだが,その端々に筆者が内科診療に真摯(しんし)に向き合っている様子が溢れ出ている。例えば,「血液培養2セットの採取なしにPMRと診断してはならない」(p.13)とか,リウマチ診療では「適切な降圧療法や脂質代謝異常の治療は,免疫抑制薬と同等か,場合によってはそれ以上に重要である」(p.81)など至言の数々がある。Clinical Pearlも満載で「皮膚を『読影』する」「結節性多発動脈炎は(中略)『リウマチ医の結核』」などきら星のごとくだった。また,Huggy's Memoと称された注釈や各領域の歴史的な変遷の語りもまたグッとくる。ヒューリスティックスやトラジェクトリーなど視覚に訴えSystem 1をわかりやすく解説したかと思えば,SPRFアプローチや思考過程を余すところなく丁寧に記載した構成でSystem 2を開示する。何ともぜいたくな一冊である。

 本書が多くのプライマリ・ケア医に届き,リウマチ・膠原病診療の底上げが成されることを願っている。そして,「ありがとう,Dr.ハギー(オギーじゃないよ)」。

B5・頁176 定価:本体3,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03130-1


専門医が教える
研修医のための診療基本手技

大村 和弘,川村 哲也,武田 聡 編

《評 者》青木 眞(感染症コンサルタント)

単なる知識や技術を超えた優しさや矜持に溢れた書

 編者のお一人である大村和弘先生とは,当時大村先生がご所属だった総合病院国保旭中央病院にカンファレンスなどで評者が定期的に伺っていたことでお会いして以来14年の付き合いとなる。初期研修の後,NPO法人JAPAN HEARTで吉岡秀人先生と出会い,アジアを中心とした国際医療協力に一時期身をていしたことは,明るく奔放なようでいて繊細な神経を持つ彼を知るものとして好ましく,ずっと好感を抱き続けてきた。プライマリ・ケア,総合診療といった世界から一見最も距離のある,巨大な機械力に取り囲まれた大学病院という環境に身を置きながら,臨床医として誰もが身につけておきたい「一定水準の診察,基本検査,救急を含めた手技の習得」をめざした本書を生み出した大村先生ならではの歴史である。本書の,特に大村先生自身が執筆された章には,大学病院で週6日の診療を受け持ちながら,年に一度は自費でアジアの国を訪ね,国際協力活動に取り組む一人の医師としての,単なる知識や技術を超えた優しさや矜持が溢れている。

 一部を紹介すると,

I-6「小児の診察のしかた(p.32)」
 基本的に小児の診察(耳鼻科領域)は抑えずに行えますし(中略)この診察の根底に流れる原則というのは,子どもの自主性,自律性を重んじて,診察を理解してもらうことです。(中略)扉から一番離れた場所(机がある位置よりもさらに遠方)に椅子を置き,(中略)これは,子どもが嫌だと思ったときに逃げることができる場所で,私のことをまず認識してもらうということを大切にしています。ここまで本文。

 この章の「挨拶」「スキンシップ」「約束」などの説明や写真が大村先生の診療姿勢を示しており好ましい。

II-2「頭頸部:口腔内(p.49)」
 反射を起こさないで診察をするということ(評者はわざと反射を起こして喉の奥を見ていました)(中略)では,どうすれば反射を起こさないのか? ①患者との呼吸を合わせる,②舌圧子の使いかた,および診察の順番,③最初は優しく,刺激を少なく,④評価するポイントをしっかりと決める(中略)実はほとんどの患者で舌圧子は必要ありません。ここまで本文。

 この他にも,III-1「血液型判定・交差適合試験(p.132~5)」(順大練馬病院・小松孝行先生),IV-1「末梢静脈路の確保(p.156~63)」(慈恵医大血管外科・宿澤孝太先生),IV-4「グラム染色(p.178~81)」(東京ベイ・浦安市川医療センター感染症内科・織田錬太郎先生,関東労災病院感染症内科・本郷偉元先生)などをはじめとするわかりやすいセクションが多い。

 通読するのは骨が折れると思われる方は,その都度今日行わなければならない手技の予習として関係のセクションを勉強するのでもよいと思う。「技を持っている専門家が集まり,研修医が必要とする身体診察法や手技を,書き合う教科書を作りたい!!」という意図をもって作られた本書が,多くの研修医や彼らの指導医の眼に留まることを期待している。

B5・頁304 定価:本体5,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03026-7


《標準理学療法学・作業療法学・言語聴覚障害学 別巻》
脳画像

前田 眞治 執筆

《評 者》渡邉 修(慈恵医大第三病院リハビリテーション科/教授)

脳画像を読み解くための,リハ専門職,必携の一冊

 このたび,医学書院より,『標準理学療法学・作業療法学・言語聴覚障害学 別巻』の一冊として,前田眞治先生ご執筆の『脳画像』が出版されました。前田先生は,多職種で構成するチームとしてのリハビリテーション(リハ)医療を重視されており,脳画像の解読法をリハチームの誰もが理解できるように,イラストや画像を多用し,多忙な臨床の中でも気軽に目を通すことができるように簡潔にまとめておられます。

 第1章では,画像を読影する上で必須な脳回,脳溝の解剖と,高次脳機能障害を理解する上で役立つブロードマンの脳地図について丁寧に記述されています。第2章では,CT, MRIの原理について,ともすると専門書では,これらの理解だけで投げ出してしまいそうな難解な内容を,私たちにもわかりやすく説明されています。第3章はいよいよ画像解剖の説明です。CTとMRIの各種画像を並列させ,各画像形態の特徴を,ミッキーマウスやクリオネといった親しみやすい比喩を交えながら,しかも詳細な解剖所見を外すことなくきれいなイラストで明示して説明されています。また,脳卒中を理解する上で必須な脳血管灌流領域の画像上の分布や前頭葉,側頭葉,後頭葉,頭頂葉の判別を,画像上に30度,90度,60度の仮想線を引くことで,見事にわかりやすく説明しておられます。本章に目を通すことで,きっと読者の皆さんは,今後,画像を見ることが楽しくなると思います。無味乾燥な白黒の画像が,とたんに症状を説明する「意味」を持っていることがわかるからです。

 第4章は,第3章で解説した解剖構造が,どのような機能を担っているかの説明です。高次脳機能障害のリハにおいても,他の障害と同様に,どの部位がどのような範囲で損傷を受けているかを把握することが重要となります。回復への道筋を予想できるからです。さらに,損傷範囲を同定することで,他のリハアプローチも選択することができます。本章は,リハを施行する上で根幹となる症状を理解し,治療方法を考える上で有力な情報を提供しています。

 第5章以降は,リハ医療の対象となる疾患について,各々,要点を絞って記述されています。各疾患の特徴的所見と見落としてはならない画像上のポイントを確認することで,リハの際のリスク管理(血管攣縮や水頭症の可能性,脳卒中の再発の可能性,転倒)に役立てることができます。

 本書には,二次元で構成された脳画像を,生き生きと機能する三次元の脳として読み解くためのエッセンスが,著者の長年の臨床経験と教育歴に基づいて凝縮されています。エッセンスでありながら,リハ医療で重要な点が,丁寧に詳述されており,多職種で展開されるリハカンファレンスに臨む際にも,大きな威力を発揮する書です。著者が述べておられているように,「すぐに役立つ生きた教科書」(「序」より)です。本書が,リハ専門職の必携の書となり,障害に悩む患者さんやそのご家族の一助につながればと思います。

B5・頁176 定価:本体3,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03250-6


画像診断を学ぼう 第2版
単純X線からCT・MRI・超音波まで

江原 茂 監訳
菅原 俊祐 訳

《評 者》隈丸 加奈子(順大准教授・放射線診断学)

初学者の「最初の教科書」に

 本書は,医学生および研修医にぜひ「通読」していただきたい一冊である。原書はWilliam Herring先生の『Learning Radiology:Recognizing the Basics,3rd Edition』であり,1st editionからロングランの人気書籍,海外でも医学生や研修医の教育に用いられている。改訂に伴ってMRIや超音波などの診断法の記述が強化され,さらに小児の章などが追加されている。江原茂先生が監訳のわかりやすい翻訳に加え,個人的に挙げる本書の特徴は下記の3つである。

初学者が「通読したい!」と思える内容と分量
 クイズから始まり,ふんだんな写真とわかりやすい解説,解剖学や生理学のおさらいを適度に含み,検査モダリティの小難しい解説が数ページ続くわけでもなく,興味が長続きする構成となっている。途中で挫折する可能性が低い良書となっており,初学者の「最初の教科書」として活躍するであろう。

各検査における正常像を重視
 本書は単純X線を基本としながらも超音波,CT,MRIまで広く画像検査モダリティをカバーしている。急速に進歩・複雑化する画像診断技術・所見を全て理解することは極めて難しく,狭く深い領域の画像診断は各専門家に任せるべきであろう。しかしながら,画像診断の非専門家であっても,頻用されている検査モダリティの基本的な特徴,各モダリティにおける臓器の正常所見,そして最低限の異常所見を拾い上げて次の検査・治療に適切につなげるための知識は必要である。本書は,各モダリティにおける正常臓器の所見に重点を置いており,医学生や研修医などの放射線科医をめざし得る若手のみならず,画像診断の非専門家にも読んでほしい内容となっている。

明日から使える実践的内容
 本書では,各検査方法に加え,検査依頼時に考えること,患者安全,被ばく線量の低減,放射線防護にも触れられており,初学者や画像診断の非専門家が学ぶべき事項の「抜け」が少ない内容となっている。また,例えばCHAPTER 11のタイトルは「カテーテルとチューブの適切な位置と,起こりうる合併症を知ろう」となっている。この章では気管内チューブ,気管カニューレ,中心静脈カテーテル,PICC,Swan-Ganzカテーテル,マルチルーメンカテーテル,胸腔ドレーン,心臓ペースメーカー,自動除細動器,バルーンパンピング,胃管が取り上げられ,使用目的や適切な挿入位置,単純X線での描出のされ方が解説されており,研修医にはうってつけの内容である。

 このように,本書は医学生,研修医,画像診断の専門家にお薦めしたい一冊である。

A4変型・頁360 定価:本体6,800円+税 MEDSi
http://www.medsi.co.jp/