医学界新聞

2018.06.18



Medical Library 書評・新刊案内


造血幹細胞移植ポケットマニュアル

国立がん研究センター中央病院 造血幹細胞移植科 編
福田 隆浩 執筆

《評 者》豊嶋 崇徳(北大教授・血液内科学)

造血幹細胞移植医療の全てがまとまった一冊

 本書は,わが国の造血幹細胞移植医療をリードする国立がん研究センター中央病院の福田隆浩科長が,移植チームメンバーの協力を得て執筆した実践的なポケット版マニュアルです。造血幹細胞移植医療は他の医療と比べ患者の個別性が高く,また準備から外来フォローまで長期間にわたり,その間さまざまな職種がかかわる,極めて複雑で高度な医療です。そのため,一つの問題を解決するために,さまざまなウェブサイトや成書に当たる必要があります。移植の合併症が全身的であり,かつ多岐にわたるのがその理由の一つです。

 本書の特徴は,造血幹細胞移植医療の全てがこの一冊に盛り込まれている点にあります。例えば,移植後の高血圧に対して推奨される降圧薬が具体的に用量まで記載されています。つまり,エビデンスがあっても実際にはどう対応すればいいのか迷う点にまで踏み込んで記載されています。また編成も移植の準備から,入院,外来フォローと経時的な流れになっており,移植にかかわるさまざまな職種の方が各職種の関与する項目の箇所を調べやすいように工夫されています。また,移植を依頼する立場の血液内科医にとっても移植適応,患者さんへの説明,また移植後のフォローと,座右にあって役立つ書となっています。このように対象とする読者が移植医のみならず,さまざまな医療スタッフ,コメディカル,一般血液内科医と多岐にわたるのも本書の特徴です。

 造血幹細胞移植は複雑であるが故にエビデンスが少なく,ガイドラインも少ない分野が多くあり,各施設でプラクティスが異なる場合もあります。その点においても本書は標準的な記載がされており,各施設で参考になるものと思います。本書はポケットサイズのコンパクトな書籍なため携行に便利で,一見簡潔でありながら,実際は相当深みのある内容となっています。本書は臨床現場にあって,移植医療の向上に資するものと確信いたします。

B6変型・頁500 定価:本体4,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03160-8


神経救急・集中治療ハンドブック 第2版
Critical Care Neurology

篠原 幸人 監修
永山 正雄,濱田 潤一,三宅 康史 編

《評 者》西山 和利(北里大主任教授・神経内科学)

神経系救急・集中治療の全てがここにある

 私の尊敬する篠原幸人先生の監修による本書の初版が上梓されたのが2006年であった。当時の私といえば,日本人としてはやや長めの米国留学から帰国し,とある大学病院で脳卒中の急性期治療に携わっていた時期であったが,当然ながら早速本書を手にした。米国のCleveland ClinicやHarvard Medical Schoolで垣間見ることができた神経救急・集中治療の質と量を期待して帰国した私にとって,当時の本邦の状況は物足りないものであった。神経学の臨床能力に優れた神経内科医の絶対数が多くなかった上に,彼らの中で救急医療に取り組もうという者は極めて少なかった。そのような発展途上にあった本邦でも,ようやくこのような神経救急や集中治療に関する本格的な教科書が上梓された,と感銘を受けたものである。実に,本書が本邦における神経救急の初めてと言ってよい専門書であった。

 本書の初版から10年以上が経過したが,残念ながら本邦のこの分野はまだまだ改善の余地があると言わざるを得ない。近年の画像診断の進歩や新規の治療法の出現は,神経疾患の診断と治療を大いに発展させ,それは飛躍的とさえ言えるかもしれない。しかし,非常に多岐にわたる神経救急や神経集中治療に対して,全てを高い専門性をもって遂行できる医師は数少ない。大部分の施設では,神経内科医,脳神経外科医,一般内科医,救命救急医などが,彼らの本来業務との兼務でこの分野の質の維持に奔走しているのが現状である。その観点からも,本書が全面的な改訂を経て第2版を上梓することは,神経系の救急医療に携わる者にとってこの上ない朗報であろう。本書は各領域の多くの専門家の努力によって完成したと聞く。執筆者数は実に73人にも及び,本邦のこの分野の総力を結集したといっても過言ではない。

 今版は永山正雄先生,濱田潤一先生,三宅康史先生の3人が編集された。いずれもがこの分野の第一人者であるので,仕上がった本書の出来栄えは大いに期待して間違いない。神経救急・集中治療の患者さんに日々直面する施設で働く神経内科医はもとより,脳神経外科医,一般内科医,救命救急医,集中治療医,総合診療医,さらにはコメディカルの方々や医学生まで,幅広い読者にとって必携の書である。

 最後に,本書の編集作業の完成を見ることなく志半ばで2015年に急逝された濱田先生について一言述べさせていただく。濱田先生と私とは北里大で同じ釜の飯を食った仲間であった。本書は濱田先生が最後に手掛けられたお仕事の一つであり,その本の書評を担当する機会をいただけたことは私にとっても感慨深かった。濱田先生のご冥福をお祈りしつつ,本書評を閉じたい。

A5・頁672 定価:本体6,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01754-1


臨床薬理学 第4版

一般社団法人 日本臨床薬理学会 編
小林 真一,長谷川 純一,藤村 昭夫,渡邉 裕司 責任編集

《評 者》楠岡 英雄(国立病院機構理事長)

臨床家にも使いやすい実用的な構成の参考書

 本書『臨床薬理学 第4版』は,日本臨床薬理学会が総力を挙げて編集・執筆した書籍である。臨床薬理学は,医薬品の開発とそれにかかわる規制科学,薬物の特性決定やそれを用いての治療に必要な薬物動態学,疾患・個人における医薬品を用いた治療学,さらには,薬理遺伝学や集団における医薬品に関するリスク・ベネフィット評価までも含む,極めて広範な領域を対象とする科学分野である。本書はこの広範な対象を,内容を欠くことなくコンパクトにまとめており,臨床薬理学を学ぼうとする方々に必須の教科書であるだけでなく,医師・薬剤師のみならず他の医療職が臨床薬理学的事項を必要に応じ参照する際に有益な参考書でもある。

 これまで創薬は主に製薬企業で行われてきたが,生活習慣病などを対象とするブロックバスター...

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