医学界新聞

寄稿

2018.06.18



【寄稿】

精神科急性期の医師配置水準と治療成績の関連

奥村 泰之(東京都医学総合研究所 精神行動医学研究分野 心の健康プロジェクト主席研究員)
杉山 直也(沼津中央病院院長)


 適正な医療を実施するために,病院が確保すべき医師・看護師等の人数は法律によって定められている。一般病床では入院患者16人に対して医師1人が必要である。一方で,大部分の精神病床では,一般病床の3分の1の配置に相当する入院患者48人に対して医師1人が標準とされる。

 フランスやイギリスに比べると,日本では精神科医1人当たりの病床数は約6倍であり,医療提供体制に大きな違いがある1)。こうした「特例」と言える状況は,精神科に対する「差別」としてしばしば批判されてきた。

16対1と48対1が混在する精神科急性期医療の医師配置

 精神疾患の急性期では,精神機能が著しく混乱して,例えば自他の区別がわからなくなり,睡眠や排泄などごく基本的な生活機能にも支障がみられるような患者に対して,さまざまな治療戦術 (療養環境の調整,薬物療法,精神療法など) を駆使して改善を図る2)。ここでの最終目標は,「入院中に,できるだけ早く在宅ケアの条件を整えること」である。

 2013年の時点で,約33万床ある精神病床のうち,救急・急性期医療を担うことを期待される病床は約3万床(約10%)を占めていた(3)。うち約1万床における医師配置基準は,法律と診療報酬制度によって一般病床と同水準になっている一方で,残りの約2万床は精神科特有の医師配置を許容するものであった。

 2013年時点における精神病床(約33万床)の内訳3)(クリックで拡大)

 2014年度診療報酬改定において,精神科救急・急性期医療を担う病床の50% (約1万5000床) を占める「精神科急性期治療病棟入院料1」(30日以内の期間は1日につき1984点) に,「精神科急性期医師配置加算」(1日につき500点) が新設された。この加算は,密度の高い医療を提供し,在院日数の短縮を図る観点から,入院患者16人に対して医師1人以上を配置した場合に算定できるものである。つまり,「精神科急性期治療病棟入院料1」には,医師配置が手厚い(高配置)病棟と,そうでない(低配置)病棟が混在している状況が生じることになったのである。

医師高配置は入院期間,再入院,受診行動に好影響

 私たちは,診療報酬による医師配置基準の相違がもたらすアウトカムに着目した研究を行い,成果を2018年3月に発表した4)。厚労省が構築しているレセプト情報・特定健診等情報データベースを活用し,2014年10月から2015年9月の間に精神科急性期治療病棟に入院した2万4678人を追跡した。アウトカムとして,①90日超の長期入院,②退院90日以内の精神病床への再入院,③退院90日以内の精神科外来への受診回数を評価した。

 入院形態など患者背景を調整した分析の結果,高水準の医師配置は,①長期入院の抑制,②再入院の抑制,③退院後の受診行動の増加と関連することが明らかになった (図1)。データの解釈には慎重に考慮すべき部分が残るものの,これらの関連が得られた背景として,医師高配置の病棟では,患者一人ひと...

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