MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2018.05.28
Medical Library 書評・新刊案内
看護教育のためのパフォーマンス評価
ルーブリック作成からカリキュラム設計へ
糸賀 暢子,元田 貴子,西岡 加名恵 著
《評 者》森田 敏子(徳島文理大大学院教授・看護教育学)
看護本来の心を育む学生の学びを導くガイドブック
2017年現在,パフォーマンス評価は看護教員の大きな関心事である。教育の場で学習者のパフォーマンスを測る能力が求められている。昨夏上梓された本書『看護教育のためのパフォーマンス評価――ルーブリック作成からカリキュラム設計へ』は,その分野のバイブルの一冊になる可能性を秘めている。
ある昔のこと,岐阜県には「名もなき池」があった。いつしか,その「名もなき池」に地域の人々が高賀山から湧き出る清水をため,色とりどりの鯉が放たれるようになった。そのことで,今ではモネの絵画のように美しい名勝地として知られる存在になっている。本書の表紙は,その池の写真で飾られている。まさに,名もなき池=教育機関から,湧き出る清水=看護学生の無垢な学びの心によって,色とりどりの鯉=「逆向き設計」によって生み出されたパフォーマンス評価を経て,看護本来の心を育み巣立っていった卒業生たちを象徴している。
本書には,パフォーマンス評価の重要性を教えてくれる象徴的な仕掛けがもう一つある。それは,各章の扉にさりげなく紹介されている学生たちの実際の記録である。その記録は,学生が臨地実習で経験したからこそ学び得たことであり,教訓とも言えるものである。だからこそ,おのずと説得力が増してくる。本書の「はじめに」では,「教員を励まし,駆り立ててくれた」と記されている。他にも例えば,「良い実習をできるか,というのは後からついてくるものであり,それを目的としているのではないことに気づいたときから,より患者さんのことをしっかり考え,関わるようになった」(第2章),「人は,誰かに関心を持たれているときに自分を認識できる。自己決定ができるようになる。自分の力を最大限に発揮できる。看護師が患者さんに関心を持つことは,どの健康段階においても最も重要である」(第4章),「患者さんに『できますか?』と聞くのではなく,ケアしている中で自ら見つけることが大切になると気づいた」(第6章)というように,学生の本心が表現されている。教員が,このような学生の学びを見逃さず,価値あるものとして受け止めてきたからこそのレガシーである。
上に述べた2つの象徴的表現から,本書の意図がおのずと読者に伝わってくる。本書は,「逆向き設計」の思考がその根底を貫いている。だからこそ,パフォーマンス評価って何? そもそも「逆向き設計」って何なの? と教員の興味をそそる。
本書を手に取った読者は,自分の興味・関心のある章から読み進められるとよいだろう。読む順番は気にしなくて構わない。どの章から読み進めても,結局,他の章も読みたくなり,パフォーマンス評価って何? そもそも「逆向き設計」って何? という疑問が氷解されるようになっている。本書を読んだ教員がすぐにでも行ってみたくなることは,自教育機関における「逆向き設計」を根底に据えたパフォーマンス評価であり,本書を片手にそれに挑戦する教員の姿が目に浮かぶ。
B5・頁200 定価:本体2,700円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03199-8


あなたの患者さん,認知症かもしれません
急性期・一般病院におけるアセスメントからBPSD・せん妄の予防,意思決定・退院支援まで
小川 朝生 著
《評 者》渡邉 眞理(横市大教授・がん看護学/がん看護専門看護師)
患者・家族の苦痛を軽減するヒントが詰まった一冊
日本は超高齢社会を迎えており,医療の現場では既にその波が押し寄せ,高齢患者が急増しています。医療の現場では平均在院日数が短縮する中,時間に追われながら入院患者の対応をしているのが現状です。そのような状況で本書の『あなたの患者さん,認知症かもしれません』というタイトルは,とても気になりました。
一般病院に入院中の2~6割の患者に認知症が疑われます(本書p.9より)。患者の入院生活を通じて「なにか変?」という違和感を抱きながらも高齢者だから……と認知症を見過ごすことも多くあると思います。
本書は急性期・一般病院での認知症のアセスメント,BPSD(行動心理症状)・せん妄の予防,意思決定・退院指導まで丁寧にわかりやすく紹介されています。例の一つに認知症を知るための3つの段階が記載されています。この3つの中でも複数の認知機能障害を理解することで認知症(かもしれない)の患者が体験している症状を理解することができます。あわせて認知症(かもしれない)患者にかかわる際のポイントなど多くの示唆を得ることができ,患者・家族の苦痛を軽減できるヒントがたくさん詰まっています。
本書を通じて,一人ひとりの患者の権利を尊重し,個別的なケアをするという基本について考える機会となりました。それは特に意思決定支援や認知症の告知の方法について記されている章でした(11章,14章)。また,タイトルと同様に語り掛けるような文章であること,ポイントが要所に記されており,とても読みやすくわかりやすいのも本書の特徴です。
今後さらに増加する認知症患者に適切な医療が提供できるように,急性期・一般病院に勤務する医療関係者のみならず,多くの医療機関の,看護職や医療スタッフに活用していただきたい一冊です。
A5・頁192 定価:本体3,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02852-3


看護管理者のための組織変革の航海術
個人と組織の成長をうながすポジティブなリーダーシップ
市瀬 博基 著
《評 者》村田 由香(日本赤十字広島看護大教授・学部長)
組織変革という荒波の「かじ取り」の方法をひもとく
重要なのは前向きな態度と心構え
看護管理者が組織変革を起こすために,今ある従来の方法を否定せずにそれ以上の成果を求めてチャレンジするには,柔軟な思考と時間,エネルギーが必要です。だからこそ,管理者の前向きな態度と心構えが重要になります。一方で変革を起こすことは組織内のメンバーにとっては負担になり,抵抗勢力もあるなど,葛藤が起こることも否めません。
組織変革には,これらを乗り越えるために管理者がどのようにかじ取りをしていくのかという課題がつきものです。本書は,組織変革をどのように進めていけばよいのかを,読者に柔らかく語り掛けるようにわかりやす...
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