医学界新聞

2018.05.14



さらなる患者中心の薬剤師業務へ


マチュー・チュング氏
 東大薬学系研究科ファーマコビジネス・イノベーション教室主催の講演会「ITを活用した,オランダの病院薬剤師業務の現状と今後」(コーディネーター=感染症コンサルタント・青木眞氏)が4月11日,東大(東京都文京区)にて行われた。

 高度化する薬物療法の有効性と安全性の確保を背景に,近年,薬剤の適正使用や管理といった対物業務に加えて,患者との面談や他職種への情報提供といった対人業務の充実が薬剤師に求められている。対物業務に時間と人手がかかる中で,いかにして対人業務を拡充していくか。オランダ病院薬剤師会前会長のマチュー・チュング氏が,ITを活用した患者中心の薬剤師業務が進むオランダの取り組みを,森玄氏(練馬光が丘病院薬剤師)が日本の病院薬剤師の現状を踏まえた展望を講演した。

 チュング氏はオランダの取り組みとして,①調剤・薬剤管理の効率化,②ITの活用による医療機関の壁を超えた患者情報の共有,③薬剤師としての専門性の追求を紹介した。①はオーダリングシステムと薬の管理システムの一元化や,自動調剤機の導入により,薬の管理にかかる時間を減らすもの。②は公的な情報共有プラットフォームの整備により,患者の既往歴や服薬歴を院内だけでなく,他の病院や薬局と共有できるシステムである。施設をまたいで情報を入手できるため,患者との面談の質を高めることができるようになったという。③については薬剤師がチーム医療の中で薬の専門家として力を発揮し,遺伝子多型による薬物動態の違いを踏まえた助言をするなどで薬剤の選択にかかわる例を示した。

 森氏は,オランダのような病院薬剤師業務をめざす必要性を述べながらも,日本でオランダの取り組みをすぐに行うのは難しいことを指摘。現時点で日本の病院薬剤師が行える工夫として,薬剤選択への助言やレジメン安全管理において他職種へのメモの作成などに積極的にかかわっていくことを提案した。