医学界新聞

対談・座談会

2018.05.14



【座談会】

卒前教育で技能・態度をどう教え,
評価するか
伴 信太郎氏(愛知医科大学医学教育センター長)=司会
鈴木 康之氏(岐阜大学医学教育開発研究センター教授/日本医学教育学会理事長)
清水 貴子氏(聖隷福祉事業団顧問)
山口 育子氏(認定NPO法人ささえあい医療人権センターCOML理事長)


 近年,日本の医学教育は卒前教育から専門医制度まで改革が及んだ。その背景にはより質の高い医師の養成という社会の求めがあり,国際標準への対応も意識されている。卒前教育では転換がどのように進み,何が課題となっているか。現状を踏まえ,これからの卒前教育はどうあるべきか。

 本紙では,卒前教育に長年携わる日本医学教育学会前理事長の伴氏を司会に,同学会理事長を務める鈴木氏,臨床教育にかかわってきた清水氏,患者・市民の立場で発信を重ねる山口氏の4氏による座談会を企画。診療参加型臨床実習とPost-Clinical Clerkship(以下,Post-CC)OSCEを中心に,卒前教育の現状を整理した上で,その指導内容と評価方法について提言がなされた。


 医学教育は制度の変革が進みました。卒前教育では2000年代に入り,医学教育モデル・コア・カリキュラム(以下,コア・カリ)や共用試験(OSCE)が導入されました。近年では医学部に国際基準での認証評価を求めた2010年のECFMG(米国の外国人医師卒後教育委員会)宣言を発端に,臨床実習の在り方を含む議論が活発化しています。卒後教育でも臨床研修の必修化と見直しが進められ,2018年には新専門医制度が始まるという大きな動きがありました(表1)。

表1 近年の医学教育の主な動き(クリックで拡大)

 医学教育を担うセンターがほとんどの医学部に誕生するなど,大学は研究機関としてだけでなく,教育機関としての性格が強まっています。今後も,充実した教育を求める流れはますます進んでいくでしょう。本日は,医学生に何を指導し,どう評価すべきか,それぞれの立場から具体的に提言していただきたいと思います。

臨床実習は量ではなく質,医師としての基礎的能力の涵養を

 卒前教育を規定するコア・カリは2016年度に改訂され,「臨床実習は診療参加型を基本形態とする」と明記されました。今後はどの大学も臨床実習にさらに力を入れることになります。

鈴木 診療参加型臨床実習の必要性が訴えられ始めたのは,医学生が実施できる医行為を定めた旧厚生省の前川レポート(1991年)の頃です。ついにコア・カリに全面的に取り入れられることとなりました。

山口 患者の立場からは,early exposureの教育効果に期待します。見学型実習では得られない経験が医学生としての自覚を促し,倫理的成長にもつながるでしょう。

 一方で,臨床実習に関する議論には懸念もあります。ECFMG宣言の影響を受け,あらゆる大学が臨床実習期間の延長に躍起になっていることです。「臨床実習は72週以上にすればよい」などという,内容ではなく期間に主眼を置いた議論にすり替わってはいないでしょうか。

鈴木 確かに,臨床実習の準備に関する議論では,期間を延ばすための外形的なカリキュラム改革に重きが置かれている印象を受けます。

 72週とはよく耳にしますが,ECFMG代表の言葉によれば,重要なのは期間ではなく,診療参加型臨床実習として十分な内容かどうかです。求められるのは「量ではなく質」とあらためて強調したいと思います。

 しかしながら,診療参加型臨床実習で,医学生に何を提供するかは悩ましいですよね。

鈴木 「診療参加」という言葉から,指導者も医学生も,採血や縫合といった検査・手技をたくさん体験するという意味にとらえがちです。しかし,そうではありません。医療チームの一員として患者や他職種の話を聞き,的確な診察に基づく診療録を作成し,診断とケアプランを自分で考え,指導医とディスカッションすることが,「診療参加」として重要と私は考えています。

清水 同感です。当事業団は大学から選択実習として1~2週間の臨床実習を受け入れますが,基本的にはコミュニケーションを重視して進めます。この実習では初期研修医と同様に,患者さんからの病歴聴取と,その後の検査・治療計画の立案までを行います。基本的な医療面接と身体診察から必要情報を得る重要性を卒前に実感してほしいとの思いからです。

 診療参加は手技に傾倒するのではなく,医師―患者間コミュニケーション能力などを身につけてほしいと私も思います。

鈴木 診断・治療技術は卒後の集中的な訓練で習得できますから,医学生にチームの一員としての役割と意識を持たせることを臨床実習では目標にしてほしいですね。

山口 提案ですが,医学生が到達するべき最終目標と,そこに至る目標を段階的に医学生に示せば,コミュニケーション能力の系統的な養成につながりませんか。医学教育の現状では,コミュニケーション教育は「行き当たりばったり」感が否めないので,このような方法があるとよいと感じます。

鈴木 医学教育は「何を教えるか」から「どういった医師を育てるか」というアウトカム基盤型教育(Outcome-Based Education)に変わってきたので,最終目標とそこまでのステップを記した文書は各大学に存在するはずです。それを臨床実習の内容と対応させ,実習目標に落とし込んでいくことで,臨床実習でのコミュニケーション教育をより系統的にできるのではないでしょうか。

Post-CC OSCEだけに頼らない,学生の評価方法が求められる

 臨床実習前,4年次に行われるOSCEは,医学生が臨床実習を行える水準にあることの担保を目的に行われます。臨床実習後に行うPost-CC OSCEは,臨床実習の成果を測り,医学部を卒業させてよいかを判断する試験の一部に位置付けられようとしています。Post-CC OSCEは技能・態度を評価する試験として,2020年度から全大学での導入に向け,現在は一部の大学で試行されています。

 OSCEとPost-CC OSCEの位置付けについて,率直な考えをお聞かせください。OSCE導入時から実施にかかわり,現在は医療系大学間共用試験実施評価機構理事でもある山口さん,いかがでしょうか。

山口 OSCEは臨床実習前の「仮免許」として一定水準にあるとはいえ,臨床との隔たりが大きい点は課題です。特にコミュニケーションでは「マニュアル通り」過ぎる点が,OSCEの医療面接の改善点だと考えています。

 2017年度から試行が始まったPost-CC OSCEの医療面接の内容はOSCE未満にとどまっているのではないでしょうか。OSCEの医療面接は10分間の課題であるのに対し,Post-CC OSCEでは単独項目ではなく,医療面接+身体診察を12分間,そして指導医に報告するまでを合計16分間で行う課題です。それだけに,医療面接の内容が薄くなってしまっています。

鈴木 Post-CC OSCEでは臨床推論が重視されています。その関係で,コミュニケーションの優先順位が相対的に下がっているように感じられます。

山口 ですので,医療面接でのコミュニケーションをPost-CC OSCEでしっかり評価すべきです。独立項目として,臨床に近いレベルのコミュニケーション能力を測る試験を行う必要性を感じます。医師国家試験は知識のみを評価する試験です。技能・態度はPost-CC OSCEでしか評価できないことを考慮しなければなりません。

清水 Post-CC OSCEは,自大学の医学生が医師として患者さんの前に出てよいかどうか,大学側が判定することを目的に導入されます。いわば,育てた医学生が医師として国民の前に立つことができるか,各大学が責任を持って判断するという関門です。

 臨床研修に十分な技能・態度を医学生が持ち合わせているかどうか,大学に判断させるPost-CC OSCEが導入される以上,大学のオートノミーに高い水準が求められていると感じます。

 その中で,Post-CC OSCEは,あくまでも実技評価の一部を担うという位置付けにすることが大切です。卒業判定材料として導入されるとはいえ,その結果だけが技能・態度の評価として卒業の可否に影響を及ぼし過ぎてしまうと,医学生はPost-CC OSCE対策ばかりに追い込まれるでしょう。すると医学生は,臨床実習で医療面接の技能を鍛え,ベッドサイドで患者の話を聞く態度を養うという本来めざすべき方向ではなく,付け焼き刃のスキル習得へと走る事態に陥る可能性もあります。

 Post-CC OSCEという標準化された試験も必要ですが,臨床実習中の技能・態度の適切な評価がより重要であるという認識を忘れてはいけません。日々の臨床実習での技能・態度こそが評価されるべき対象なのです。大学は臨床実習評価を中心にPost-CC OSCEも組み入れた総合的な評価法を設計し,卒業の合否を判断すべきでしょう。

「責任ある主観」のもとで,mini-CEXの活用を検討すべき

 臨床実習中に用いる評価法としては,mini-CEX(簡易版臨床能力評価法)を用いるのがよいと考えています。Mini-CEXは,臨床実習中の医学生と患者さんの実際のやり取りを教員などが評価し,フィードバックするものです(表2)。

表2 Mini-CEX評価票の項目(主なもの)(クリックで拡大)

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