FAQ がん薬物療法中の口内炎にどう対処する?(藤堂真紀)
寄稿
2018.05.07
【FAQ】
患者や医療者のFAQ(Frequently Asked Questions;頻繁に尋ねられる質問)に,その領域のエキスパートが答えます。
今回のテーマ
がん薬物療法中の口内炎にどう対処する?
【今回の回答者】藤堂 真紀(埼玉医科大学国際医療センター 薬剤部主任)
分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の登場に伴い,がん薬物療法による副作用は従来の殺細胞性抗がん薬のみの場合より複雑化しています。そのため,副作用の評価・管理の重要性は増しています。
がん患者はがん以外の併存疾患を合併する場合が多く,その点にも注意を払わなければなりません。したがって副作用管理においても,「総合的に患者を診る力」の涵養が医療従事者には求められます。今回は,がん薬物療法による主な副作用である口内炎を取り上げ,その評価のポイントを解説します。
■FAQ1
がん薬物療法による副作用の口内炎を引き起こしやすい薬剤を教えてください。
抗がん薬治療中に口内炎を発症すると,食事摂取に支障を来すなどQOLに悪影響を及ぼすため,その管理は重要です。
口内炎の原因は抗がん薬による細胞毒性です。粘膜細胞内に活性酸素が発生し,細胞のDNAが損傷することで細胞死を引き起こすと同時に,活性酸素により炎症性サイトカインが放出され,組織損傷が増幅されて口内炎(粘膜炎)が増悪します1)。
口内炎の原因となる抗がん薬を理解しておくことは重要です。NCI-CTCAE分類Grade 1以上の副作用は,殺細胞性抗がん薬のレジメンでは,大腸がんのFOLFIRI(フルオロウラシル+レボホリナート+イリノテカン)で51%,乳がんのAC(ドキソルビシン+シクロホスファミド)で55%,TAC(ドセタキセル+ドキソルビシン+シクロホスファミド)で69.4%と頻度が高いです。従来の殺細胞性抗がん薬に加えて,分子標的薬による治療レジメンも出てきました。経口分子標的薬ではエベロリムスで56%,アファチニブで72.1%と頻度が高いです2)。放射線療法との併用でもリスクは高まります。
Answer…従来の殺細胞性抗がん薬のレジメン(FOLFIRI,AC,TAC)だけでなく,経口分子標的薬のエベロリムス,アファチニブでも高頻度です。
■FAQ2
がん薬物療法を施行中の患者さんに口内炎が発現したときは,抗がん薬が原因と判断してよいでしょうか?
抗がん薬を休薬し,症状が消失すれば原因は抗がん薬であると考えられます。その場合,改善には口腔ケアの実施,口腔ケアのアドヒアランスの確認が必要です。
しかし,休薬や適切なケアを行っても症状が消失・改善しない場合には,自覚症状などを確認しながら,義歯性口内炎などの外傷性潰瘍がないか,ウイルス性口内炎,口腔カンジダ症,その他の病態が隠れていないかなどをよく見極める必要があります(表1)。
表1 抗がん薬以外の原因を考慮すべき「口内炎」(文献2 p.54~55より特に注意を要する病態・疾患を抜粋)(クリックで拡大) |
また,口腔衛生状態の不良など患者側のリスク因子も理解し,把握する必要があります。よく遭遇する場面ですが,口内炎があると医療スタッフも患者も,抗がん薬だけが原因で口内炎が起きていると考えがちです。しかし,抗がん薬以外の原因がないかどうかを確認して適切に評価する必要があると考えています。口腔衛生状態が不良の場合,口腔粘膜の器械的損傷(義歯不適合,歯列不良等)がある場合,免疫機能の低下がある場合,高齢者や若年者の場合,口腔粘膜を変化させる薬剤(抗コリン作用のある薬剤・副腎皮質ステロイド薬)や治療(放射線療法・酸素療法)をしている場合,喫煙をしている場合などにリスクが増すと考えられます(表2)
表2 患者側リスク因子(文献2 p.51より)(クリックで拡大) |
Answer…抗がん薬による副作用の場合と,抗がん薬以外の原因がある場合があるため,よく見極める必要があります。患者側のリスク因子も理解しましょう。
■FAQ3
口内炎の予防と発症時の対策はどのようにすべきでしょうか?
口内炎の発症を完全に抑える予防法は存在しません。しかし,口腔内を清潔に保ち,口内炎の二次感染の予防や重症化を避けることが重要です。保清,保湿といった口腔ケアを行うことがMASCC/ISOOによるガイドライン3)で提言されています。また,がん薬物療法開始前の歯科受診および定期的な歯科診療が望まれます。
治療法は対症療法として,症状に応じて生理食塩水やアズレンスルホン酸ナトリウムなどの含嗽薬を使用します。その他,抗炎症・抗菌・組織修復作用がある半夏瀉心湯の含嗽4),外用薬ではデキサメタゾン口腔用軟膏やびらん面や潰瘍病変を物理的に保護するエピシル®口腔用液があります。
「口腔内を清潔に保つなどの口腔ケアを実施しなくても,対症療法の含嗽薬やデキサメタゾン口腔用軟膏を使用すれば改善する」と思い込む患者さんは多いです。まずは口腔ケアを第一にするよう患者さんに指導することはとても重要です。
Answer…口腔ケアに加えて含嗽薬やデキサメタゾン口腔用軟膏を適切に使用することが重要であり,医師・薬剤師からの適切な指導も必要です。
■もう一言
『がん薬物療法副作用管理マニュアル』では主な副作用に対して,評価のポイントや対策(解決への道標)が記載されています。それぞれの副作用について,実際の症例に基づく介入事例も記載されています。実臨床でがん薬物療法の副作用管理について困ったときには,ぜひお手元でご活用いただければ幸いです。
参考文献
1)Oral Oncol. 1998[PMID:9659518]
2)川上和宜,他編.がん薬物療法副作用管理マニュアル.医学書院;2018
3)Cancer. 2014[PMID:24615748]
4)Cancer Chemother Pharmacol. 2015[PMID:25983022]
とうどう・まき
2004年名城大薬学部卒。同年藤田保衛大坂文種報德會病院,07年より愛知医大病院。14年埼玉医大国際医療センターに移り,15年より現職。医学博士。18年3月に発行された『がん薬物療法副作用管理マニュアル』(医学書院)では口内炎の章を執筆担当。
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