医学界新聞

寄稿

2018.04.23



【FAQ】

患者や医療者のFAQ(Frequently Asked Questions;頻繁に尋ねられる質問)に,その領域のエキスパートが答えます。

今回のテーマ
多変量解析,“統計ソフト任せ”で大丈夫?

【今回の回答者】中山 和弘(聖路加国際大学大学院看護学研究科 看護情報学分野教授)


 修士・博士の論文指導・審査にかかわって30年ほどになります。その間によく出くわした問題は,研究目的が曖昧でも,何となく関連のありそうな質問項目を集めて調査し,市販のマニュアル本の通りに変数を入れれば,統計ソフトが関連のある変数を何とか見つけてくれて論文が書けるという“甘い考え”でした。

 今やほとんどの量的研究で使われる多変量解析は,3つ以上の変数の関連を同時に見る方法ですが,事前に分析の枠組みが明確でないと,選ぶ変数の組み合わせによって結果がその都度変化するという堂々巡りに陥ります。それを予防するためには,多変量解析が一体何をしているのか,そのしくみを知る必要があります。


■FAQ1

収集したデータ(変数)を基に統計ソフトで多変量分析を行いました。結果からどのように新しい知見を読み取ればよいでしょうか。

 多変量解析の基本である重回帰分析のしくみを見てみましょう。例えば,「訪問看護師の持つ専門的能力」を目的変数(因果関係を明らかにする場合に,原因と結果のうち,結果を表す変数)として,「経験年数」と「研修の受講経験」を説明変数(因果関係で原因を表す変数)とします。図1は,専門的能力の高低が経験年数と研修経験でどれくらい説明できるのかを,円の重なりで表したベン図と呼ばれるものです。

図1 変数の関連を表すベン図

 各説明変数独自の関連の大きさを示す回帰係数は,各説明変数が独自に重なっている部分(図1の網掛け)の面積の大きさに比例します。どちらの回帰係数も有意な場合は,単に両方関連があったと報告される場合が多いように思いますが,この結果から見て,もし今後,研修機会があったとき,経験年数の長い看護師は参加すべきか否かという疑問にも答えられないでしょうか。

 図1の「専門的能力」の円の中を見ると,これまでの研修経験は,経験年数と重なっている部分を取り除いても(コントロールしても)独自に重なっている部分があります(図1の①)。研修には,経験年数だけでは身につかない内容があったということで,ベテランでも研修に行くべきだとわかります。

 また,「専門的能力」の円の中では,研修経験と重なっている部分を取り除いても経験年数と独自に重なっている部分があります(図1の②)。これは,これまでの研修では,経験年数を経ないと培えないものが抜け落ちていたという意味で,研修の改善にはベテランの技を発見して取り入れる工夫が必要なことを示しています。

Answer…多変量解析は,単に説明変数の関連の大きさを競争させるものではありません。他の説明変数との関連を取り除いてもなお,独自の関連を持っているかに着目して知見を読み取りましょう。

■FAQ2

たくさんの種類の解析手法があって,どれを選べばよいかわかりません。

 多変量解析を用いる目的は大きく2つあります。1つは,目的変数を精度よく予測できる2つ以上の説明変数の組み合わせを示すことです。そのとき,目的変数と説明変数がそれぞれ量的データ(数字で表す意味がある,例:体重,血圧)なのか質的データ(数字で表す意味がない,例:性別,疾患名)なのか,さらに日数などの時間のデータがあるかどうかで手法が変わります()。

 予測をする多変量解析の種類(『看護学のための多変量解析入門』(医学書院)より改変)(クリックで拡大)

 多変量解析を用いるもう1つの目的は,目的変数や説明変数の測定に用いる尺度の信頼性(偶然の誤差が少ないこと)と妥当性(測りたい概念が測れていること)を高める測定項目の組み合わせを示すことです。そのときは,測定項目の背景にある共通の因子を明らかにする因子分析が使われます。さらに,因子分析と重回帰分析を同時に行...

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