医学界新聞

寄稿

2018.04.16



【Perspective】

診療報酬・介護報酬同時改定と2025年の在宅医療


 2018年度の診療報酬・介護報酬同時改定が行われた。同時改定は6年に一度実施され,次回は2024年度となる見込みだ。つまり,団塊の世代が75歳以上となる2025年に向けて医療・介護提供体制を整備する上で,18年度は実質上最後の同時改定となる。

 2025年の在宅医療を見据えて,今回の同時改定にはどのようなメッセージが示されているのか。在宅医療を推進する病院と診療所,双方の立場からご寄稿いただいた。


在宅医療における病院の役割が拡大

高山 義浩(沖縄県立中部病院 感染症内科・地域ケア科医長)


 地域医療は「病院完結型」から「地域完結型」へと変わってきており,自宅や施設で行われる医療の幅が広がっています。入院適応の閾値が上がり,搬送すべきか悩ましいケースについては,暮らしのなかで初療が試みられるようになってきました。あるいは,早期に退院して在宅で治療継続することも増えています。かかりつけ医の役割は深化し,かつ複雑化しています。

 こうしたなか,今回の診療報酬改定では,かかりつけ医以外による訪問診療の提供が認められるようになりました。これまで,1人の患者への訪問診療は1つの医療機関のみが認められてきました。これは,必要とはいえない在宅医療が1人の患者に集中することを防止するためでした。あるいは,ドクターショッピングが在宅医療で発生するとすれば悪夢です。

 とはいえ,在宅医が,不安定な認知症,難治性褥瘡のケアで悩んでいることも少なくありません。眼科や耳鼻科の疾患だと正直お手上げのことも多いでしょう。通院できる患者であれば,紹介状を書いて専門医を受診させることも可能ですが,在宅医療を受けているのは通院困難者(のはず)なので1人で解決しなければならないのです。

 というわけで,今回,かかりつけ医が専門医に対して,訪問診療を依頼することが可能になったのです。これで,病院にいる専門医も在宅医療のバックアップがしやすくなりました。私たち感染症内科としても,多剤耐性菌による感染症の治療,感染対策など実地で意見を交わすことができます。病院搬送となる前にコンサルトいただければ,病院への負荷も軽減できますし,抗菌薬の適正使用にもつながります。そして何より,患者さんたちに良い結果をもたらすことでしょう。

 複数の医療機関による訪問診療が認められたことには,もうひとつ注目すべき点があります。実は,中医協での議論では,支払側委員より「専門の異なる診療科に限定する必要がある」との意見が出ていたのですが,診療科が問われることにはなりませんでした。その理由は,24時間対応を含めた在宅医療体制を構築するため,ネットワーク型の訪問診療や往診を推進していこうとしているからです。

 1人の医師しかいない診療所で在宅医療を提供するとなると,どうしても計画通りに訪問できない,24時間対応を確実に実施できないものです。地域の医療機関が連携してサポートし合うネットワークを構築できれば,在宅患者に安心を提供し,不要な救急受診を抑制し,あるいは在宅での看取りを支援しやすくなるでしょう。

 私もいま,1人の施設入所者の副主治医をしています。急変のリスクがある高齢男性です。家族は延命医療や蘇生処置を望まれていないのですが,主治医は夜間には対応できないそうです。そこで,主治医と私,そして施設職員,家族と相談して,主治医が対応できないときは,私が代わりに行くことで合意しているのです。ただ,最近の状態を知らないままに判断したり宣告したりすることもできないので,3か月に1回のペースで施設訪問をして,様子を診させていただいています。これまでは訪問診療の費用を請求することはできなかったのでボランティアでしたが,今回の改定からは,制度的に認められた副主治医として訪問できるようになります。

 副主治医として診療所をサポートする仕組みは,特化型在支診の少ない地方において在宅医療を強化する上で不可欠です。在宅医療では,まさに「診療所完結型」から「地域完結型」へという流れが始まっているわけで,専門医や若手が集まっている病院もまた,地域での役割を積極的に見いだしていくことが求められています。

写真 副主治医として施設入所者の往診に対応する


同時改定が映し出す未来のイメージ

佐々木 淳(医療法人社団悠翔会 理事長・診療部長)


 今年1月26日,朝日新聞1面には「在宅医療 2025年に100万人」という大きな見出しが躍った。高齢化の進行,そして高齢者の中でも後期高齢者の割合が増加していく中で,在宅医療の絶対量の不足が課題となってきている。

 一方で,在宅医療はこのままでいいのかという議論もある。通院困難という言葉の定義の不明確さ,患者の重症度によらない月2回の訪問診療,提供される在宅医療の質のばらつき,そして在宅医療への参入を誘導するために設定された高めの診療報酬が「患者紹介ビジネス」の介入を生むなどの問題を引き起こしたこともあった。

 在宅医療はどうあるべきなのか。課題を整理しつつ,今回の同時改定について考えてみたい。

地域包括診療料が可能にする外来と在宅のフレキシビリティ

 これまでは通院困難になると,外来からいきなり重装備の在宅医療(月2回の訪問診療)に移行していた。しかし退院時などを除けば明確な「通院困難」の線引きは難しい。

 今回の改定では地域包括診療料の算定が容易になった。これは多疾患併存高齢者を対象に,基本的には月1回の通院で医学的管理に対応するとともに,必要があれば24時間対応で往診もできるという,いわば外来と在宅の中間の診療形態である。医学管理の必要性に応じて通常の外来通院から地域包括診療料による24時間対応体制へ,そして通院困難の程度に応じて地域包括診療料から在宅医療へ,そして在宅医療は患者の医療依存度に応じて月1回から月2回~最大週3回までと,シームレスかつフレキシブルに調整が可能となった。

かかりつけ医の役割

 地域包括診療料が算定可能なのは「かかりつけ医」に限られる。かかりつけ医であるためには,在宅医療を含む適切な高齢者医療が提供できるよう,必要な研修を継続的に受けながら,地域に対し一定の責任を果たし得る診療体制を維持しなければならない。決して低いハードルではないが,今回の改定では初診時の加算が設定されるなど,その機能を評価する方向が明確に示されている。

 地域の開業医は,「臓器別主治医」として各自のプロフェッションで生きるのか,あるいは「かかりつけ医」という超高齢社会における地域のジェネラリストとして生きるのか,あるいはその双方の機能を確保するのか,選択を迫られることになる。

・在宅医療専門クリニックの位置付け
 これまでは通院が困難になると在宅医療専門クリニックに主治医が切り替わることが多かった。しかし,今後は,かかりつけ医は外来診療の延長線上に在宅医療を提供していくことになる。

 在宅医療専門クリニックは,かかりつけ医が対応困難な重難度ケースのみ主治医を引き継ぎ,かかりつけ医が対応困難な時間帯の緊急対応を支援するなど,いわば地域のセーフティネットとしての役割が求められることになると思う。あるいは外来診療にも取り組み「かかりつけ医」になるという選択肢もある。いずれにしても,医師会など地域の枠組みに積極的に参加し,地域の一員としての意識が求められる。

・在宅医療の質の担保
 特に看取り援助については「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」の準拠が求められるようになった。ガイドラインなどなくても看取りはできている,という在宅医は多いだろう。しかし,残念ながら人生の最終段階の支援の在り方に納得・満足できていない患者・家族も少なくない。ガイドラインは看取り援助の標準を示したという意味で有意義だと評価している。

 特養での看取りに医療面の加算が認められたこと,多職種の情報共有がフレームワークに落とし込まれたことも同様の意義があるように思う。

・医師の生産性の向上
 在宅医療は,医師が患者の自宅を訪問するというプロセスに時間とコストがかかる。オンライン診療が一定の枠内で許可されたことは,特に山間部や離島,豪雪地などにおいて有意義である。許可された範囲は限定的だが,この2年間でオンライン診療の有用性が明確になれば,その適応範囲は徐々に拡大されていくだろう。1人当たりの医師が担当できる患者数を増やすことができれば,在宅医の確保に躍起になる必要はなくなるかもしれない。

 今回の改定には,2025年に向けての多くのメッセージが込められているように感じる。あるべき超高齢社会という未来をイメージしながら,診療体制づくりに取り組んでいきたい。

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