専門性高まる米国救急医療の現状(中嶋優子)
寄稿
2018.04.02
【寄稿】
Emergency Medical Services専門医から見た
専門性高まる米国救急医療の現状
中嶋 優子(Assistant Professor of Emergency Medicine / Emory University School of Medicine Department of Emergency Medicine / Section of Prehospital and Disaster Medicine)
米国における救急医療の需要は1960年代から高まり,救急専門医のトレーニングや専門医資格,生涯教育を管轄する機関として1967年にABEM(American Board of Emergency Medicine)が設立された。救急専門医は1979年に米国23番目の専門科として公認されている(米国の専門科は現在43科)。
救急専門医として臨床に携わるには,救急レジデンシーを修了後,筆記と口頭試験からなる専門医試験に合格し,ABEMのBoard Certificationを取得する必要がある。その救急専門医には現在,ABEM公認のサブスペシャリティとして,EMS(Emergency Medical Services),麻酔/集中治療,終末期/ホスピス,集中治療,中毒学,ペイン,小児救急,スポーツ医学,潜水/高圧酸素治療学の9つがある。米国救急専門医資格を有する私は2017年に,そのうちの一つ,「EMS専門医」を日本人で初めて取得した。本稿では,EMS専門医の役割を中心に,米国救急医療の現状について紹介する。
救急医療現場を指揮する新しいサブスペシャリティ
EMSとは,病院に到着するまでのプレホスピタル分野における,患者の治療・安定化,救急車やヘリによる搬送,災害医療に特化した分野で,ABEMの6番目のサブスペシャリティとして2010年に認定された。2013年に初めてのEMS専門医試験が行われ,現在までに3回施行されている。受験資格は,ACGME(米国卒後医学教育認可評議会)認定のレジデンシープログラムを修了し,さらにACGME認定のEMS フェローシップを修了,もしくは修了見込みの者であることとされる。
全米でのEMS専門医取得者は2018年3月現在で合計655人。2年に1回行われる試験のこれまでの合格率は,2013年の第1回が57%,2015年の第2回は67%,2017年の第3回は63%だった。1回の受験料は合計約2000ドルかかり,私は1回目の受験が不合格だったので当時フェローだった私の財布には大打撃であった。
EMS専門医制度設立の目的は主に,EMS専門医のトレーニングや能力の標準化,プレホスピタル医療の質向上,患者安全を確保し搬送先での治療継続をより改善することにある。
EMS専門医認定試験では,EMSメディカルディレクターとして必要な知識が問われる。受験者は既に専門医なので,医学的な知識よりEMSや災害医療のリーダーシップに必要な知識に特化した内容となる。EMSや災害医療に関する法律,品質管理/医療の質(QA/QI),研究,倫理,救急救命士(EMT)教育,プロトコル,ディスパッチ,院外心肺停止,消防法の他,銃撃戦やテロに対処するTactical Medicine,航空医療など米国ならではの内容まで多岐にわたる。
EMS専門医が歩むキャリアは
EMSフェローシップを修了したEMS専門医に期待される役割はズバリ,Medical Directorshipである。米国ではEMSメディカルディレクターというポジションがあり,活躍の舞台は公的機関や民間組織,小規模/大規模救急車会社,さらにカバーするエリアも都市単位から州全体に及ぶものまで幅広い。EMSメディカルディレクターの役割は管轄するEMS組織を監督することである。個々の組織でプレホスピタル分野のシステムが機能しているか,プレホスピタル要員が適切なケアを提供できているかを管理する責任がある。
従来,このポジションには救急専門医が就けばよく,時には救急医療とは関係のない専門科の医師が就く場合もあった。ただ,EMSの分野には特殊な専門知識や経験が要求される。たとえ救急専門医であっても,プレホスピタル分野の事情や状況を詳しく知らない医師も多い。EMS分野を専門とする医師は以前から非公式に存在していたものの,質の高いメディカルディレクターの需要の拡大,プレホスピタル分野の重要性の再認識などを背景に,必要...
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