MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2018.03.26
Medical Library 書評・新刊案内
吉武 久美子 著
《評 者》勝山 貴美子(横市大大学院教授・看護管理学)
空間・時間・マネジメントの視点で倫理的事例をとらえる
臨床実践の現場において,日々さまざまな倫理的問題が生じ,その事例にどのように取り組むべきか悩んでいる人は多いのではないかと思う。看護師は,専門職の要件である倫理綱領や医療倫理などの考えに基づき,それらの倫理的な事例に向き合い対応することが求められるが,どのように考え行動すべきか悩む人は多い。また看護管理者は,日本医療機能評価機構やJCI(Joint Commission International)などの病院評価基準や医療安全教育の義務化の中で,倫理的問題について話し合う体制を整えることが求められ,このような事例に対する看護師らの倫理的感受性を高め,さまざまな事例の中で倫理的問題を取り上げ,議論し,対応を考えることができるよう組織としての倫理的対応能力を高める必要がある。しかし,倫理に関する教育をどのように行うべきか,教育する体制をどのように整えるべきかを悩む人も多いだろう。本書はそんな方々に,倫理に関する事例を「合意形成」という中心的課題を基盤に検討し,倫理的感受性を高め,倫理的問題に向き合いかかわっていくその方法論を教えてくれる。
著者が,「合意形成」を話し合いでの妥協,説得,多数決による決定などネガティブなイメージではなく,「関係者の間で最善策を探し続けるプロセス」と定義し,事例には空間(Space)・時間(Time)・マネジメント(Management)の3方向で構成される多様性があることを示している点が興味深い。倫理的な問題が潜む事例を検討する際に,その時に何をすべきか,どのような決断をすべきか,時間・場に限定して議論をしがちであるが,これらの事例は,空間・時間・マネジメントの3方向でとらえることで広がりをもって理解することができる。倫理的事例は,病院内だけでなく退院後の自宅での生活など,場や時間をプロセスの中でとらえることが必要である。倫理的事例における合意形成は,患者や家族が今まで生きてきたプロセスの中で培ってきた価値や文化をも含み,合意形成にかかわる看護師や他の医療職も同様に今までの経験の中で培われた価値を持ち,これらの価値を持つ関係者間で最善を探すプロセスである。事例を検討する際のマネジメントの視点は興味深い。合意形成の話し合いの場を持つ際,誰に参加してもらうのか,どのような場で議論を繰り返すかをマネジメントする視点を持つことができ...
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