腎臓病療養指導士の役割とは(要伸也)
寄稿
2018.03.19
【寄稿】
チーム医療で慢性腎臓病の診療水準向上をめざす
腎臓病療養指導士の役割とは
要 伸也(杏林大学医学部第一内科学教授(腎臓・リウマチ膠原病内科))
慢性腎臓病(CKD)患者の診療には医師だけでなく多職種が関与し,チーム医療による包括的な療養指導が重要となる。新年度より,CKD診療水準のさらなる向上をめざし,医療スタッフ(コメディカル)のための資格「腎臓病療養指導士」制度がスタートする。本稿では,本資格の創設委員会委員長の立場から,本制度設立に至った背景と現状について解説する。
多職種からなるCKD診療のエキスパートを育成する
わが国のCKD患者の推定数は成人人口の8人に1人に上り,高齢化,生活習慣病の増加を背景に今後も増えることが見込まれる。CKDは,腎不全進行のみならず心血管疾患発症のハイリスクとなるため,早期からの集学的・全身的ケアが重要となる。しかし,多数のCKD患者を,限られた数の腎臓専門医や専門スタッフだけで診療することは不可能であり,CKD患者の早期発見およびCKDステージの軽度~中等度低下に当たる「G3a」までのCKD診療は,かかりつけ医に委ねられる面が大きい1)。腎臓専門医とかかりつけ医の適切な医療連携(紹介,併診)も不可欠である2)。
CKD診療はチーム医療で成り立っており,CKD診療の水準をより向上させるためには,医師だけでなく,看護師,管理栄養士,薬剤師をはじめとする多職種が互いに協力しながら,各領域の知識と経験を生かした療養指導を継続的に行っていくことが求められる(図)。
図 チーム医療で臨む慢性腎臓病(CKD)診療における,腎臓病療養指導士の位置付け |
以上のような背景から,日本腎臓学会ではCKDの療養指導を担うことのできるCKD診療のエキスパートを幅広く養成することが必須と考え,2012年より,医療スタッフを対象とした腎臓病療養指導士創設を模索。基本的スキームについて検討が進められてきた3)。本制度設立の趣旨に賛同いただいた日本腎不全看護学会,日本栄養士会,日本腎臓病薬物療法学会と合同で,2016年から「腎臓病療養指導士」制度創設の具体的取り組みが始まった。日本腎臓学会の重点事業としてその後も検討を重ね,2018年4月からいよいよスタートする運びとなった。
療養指導士に求められる職種横断的な知識と技能
腎臓病療養指導士の対象と要件,期待される役割は何か。腎臓病療養指導士は次のように定義される。「CKDとその療養指導全般に関する標準的かつ正しい知識を持ち,保存期CKD患者に対し,一人ひとりの生活の質および生命予後の向上を目的として,腎臓専門医や慢性腎臓病に関わる医療チームの他のスタッフと連携をとりながら,CKDの進行抑制と合併症予防を目指した包括的な療養生活と自己管理法の指導を行い,かつ,腎代替治療への円滑な橋渡しを行うことのできる医療従事者」。対象となる職種は,看護職(看護師,保健師),管理栄養士,薬剤師の3分野である。
標準的なCKD療養指導を全国各地に普及させることが目的のため,各領域の専門資格取得に必要とされるような高度な専門性は要求されない。そのかわり,CKD療養指導に必要な基本的,標準的な知識と技能については,自身の職種以外の領域に関する内容も求められ,これにより医師のもとでCKD患者の基本的な療養指導を一人で行うことが可能となる。
腎臓病療養指導士は,さまざまな医療施設の現場でCKD診療に当たっている医療従事者が広く取得可能な資格となっているのも特徴だ。所属施設を,①大学病院・基幹病院,②一般病院・クリニック,③それ以外(行政,薬局,栄養ケア・ステーションなど)に分けると,それぞれに期待される役割は若干異なる。①では,CKD療養指導チームの中心として一層の活躍が期待され,②ではこの他,非専門医やかかりつけ医をサポートし,腎臓専門医との連携における橋渡しとなることが期待される。特に,腎臓専門医不在の地域における役割が重要になるだろう。③には保健師,薬局薬剤師,栄養ケア・ステーションや行政に属するコメディカル有資格者などが含まれ,受診勧奨やCKD対策における後方支援などが期待される役割となる。
一方で,応募に際しては,自らの職種だけでなく他領域におけるCKD療養指導の実習・見学と所定数の症例報告の提出が求められる。そのため,取得の過程で職種横断的な知識が共有され,多職種間の連携が自然に身につく仕組みとなっている。
なお,本資格は,日本腎臓学会,日本腎不全看護学会,日本栄養士会,日本腎臓病薬物療法学会の合同認定となる。応募要件は,CKDの療養指導に関する実務経験,講習会受講,所定の研修およびこれを証明する症例要約の提出と認定試験からなる(詳細は日本腎臓学会ウェブサイトを参照)。
地域医療の一翼を担う職種をめざし進める継続育成
2017年に3回の講習会を開催したところ,合計1203人の受講があり,そのうち800人から本資格取得の希望があった。2018年1月29日に第1回の認定試験が行われ,最終的に734人が受験した。そして2018年4月,この中から初めての腎臓病療養指導士が誕生する見込みだ。
来年度に向けた課題として,研修プログラムの整備,資格更新に向けた更新要件の整備が挙げられる。本制度が発展していくためには,地域偏在を考慮した継続的な育成と,資格取得者がCKDのチーム医療の中核として活躍可能な環境作りが重要だと考えている。資格取得者間の情報交換の機会,セミナーの開催,好事例の共有などを図っていく。今後,他領域の療養指導士との連携や,さらに,制度発足後の検証なども進めて行く予定である。
以上,腎臓病療養指導士設立の経緯と概要,今後の課題を概説した。今回誕生する腎臓病療養指導士が,チーム医療・地域医療の一翼を担い,CKD診療水準の向上と予後改善のきっかけになることを心より期待している。
◆参考文献
1)日本腎臓学会編.CKD診療ガイド2012.東京医学社;2012.
2)菅野義彦,他.チーム医療と医療連携. CKDステージ G3b~5診療ガイドライン2017(2015追補版).日腎会誌.2017;59(8):1198-1203.
3)要伸也.腎臓病療養指導士制度とチーム医療.日腎会誌.2018;60:1-5.
かなめ・しんや氏
1983年東大医学部卒後,同大第四内科入局。公立昭和病院腎センター,東大第四内科助手,92~95年米国La Jolla癌研究財団研究所(現・Sanford-Burnham医学研究所)研究員。99年東大第四内科医局長,同大腎臓・内分泌内科助手,2004年同大腎疾患総合医療センター講座客員助教授を経て,07年2月杏林大医学部第一内科(腎臓・リウマチ膠原病内科)助教授,同年4月より同大准教授,腎・透析センター長を兼任。14年より現職。日本腎臓学会理事。同学会腎臓病療養指導士創設に関する合同委員会委員長を務める。
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