MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2018.03.12
Medical Library 書評・新刊案内
坂井 建雄 著
《評 者》佐藤 達夫(東医歯大名誉教授・臨床解剖学)
解剖学の立ち位置を定める一冊
医学教育の教科書としての「標準」シリーズは揺るぎない地歩を築いてきた。しかし,その第一冊を占めるべき解剖学が欠けているのは異様でもあるし,不思議に思っていた。解剖学を専門とする者として残念に思っていたところであり,本書の刊行を見て安堵している。
前世紀末の頃,解剖学の立ち位置は定まっていなかった。系統解剖学が部位別に編成替えされ,機能および臨床要素が重視され,写真ならびにカラー印刷技術の発達の影響を受けて,解剖学書は衣替えし,多様化が進んだ。しかし,何となく落ち着きが悪い。多彩であっても主軸が欠けている感が強い。そうした状況の中で妥当な着地点を見いだしたのが,本書のように思われるのである。
この20~30年間における解剖学書の見た目上の大きな変化は,著名な系統解剖学書がいったん解体されて,部位別記述に変換されたことである。これは使いやすさという点では前進と言えるが,再編しただけで本質的な変化ではない。わずかに臨床的意義が調味料として加えられているにすぎない。要するに部位別内系統解剖学書にすぎないのである。本書も部位別構成である。しかし,各部位の中での系統間の連関によく意を用いており,各章の始めに構成マップが示されており,見通しがよい。
教育内容の膨大化に対応して,しばしば解剖学の減量化が俎上(そじょう)に載せられるが,解剖学者も努力してこなかったわけではない。著名な浦良治著『実習人体解剖図譜』(初版,南江堂,1941年)からして,最少の時間で最大の効果を得ることを目的として制作されたものである。2001年に公表された医学教育モデル・コア・カリキュラムに準拠して,本書でも掲載事項の精選が進められているが,現今の臨床サイドの要請も斟酌(しんしゃく)されて,量的にも妥当なところに収まっている。
本書の最大の特徴は,単独執筆というところにある。複数執筆者による書籍に比べて粗密が小さく,しかも統合性を保った著作となっているが,それは,著者が若い頃に培った比較解剖学の素養がベースにあるからであろう。イラストを担当した阿久津裕彦氏とも,おそらく解剖所見と見比べながら1点ずつディスカッションを繰り返しながら作成を進めてきたと思われる。こうした協同作業の積み重ねにより,イラストの正確性と統一性が保証され,さらに職人芸を超えた芸術性がかもし出され,本書に品格を与えている。解剖学者と画家の見事なコラボレーションの例として,将来も語り継がれることになろう。
本書は,長年人体解剖学の研究と教育に携わってきた碩学(せきがく)が,満を持して練り上げた秀作である。このような標準書が母艦として控えているならば,われわれも安心して教育に,研究に専念することができるというものである。著者の類いまれな力量と尋常ならざる努力,そして解剖学に対する愛情の深さに心から敬意を表したい。
B5・頁662 定価:本体9,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02473-04


Justin B. Dimick,Gilbert R. Upchurch Jr.,Christpher J. Sonnenday 編
安達 洋祐 訳
《評 者》武冨 紹信(北大大学院教授・消化器外科学)
「臨床の物語」を体感できる実践的な教科書
若手外科医にとって「正しくわかりやすい」をモットーに次々と教科書を著している安達洋祐氏(久留米大医学教育研究センター教授)の手による翻訳書が医学書院から出版されました!
原書は『Clinical Scenarios in Surgery:Decision Making and Operative Technique』であり,臨床現場で遭遇する基本的疾患を具体的症例を提示しながら,鑑別診断・治療方針・手術手技・周術期管理を学べるように編集された教科書です。画像やイラストも充実しており,手術手順も箇条書きにされています。各章の最後には「症例の結末」と「重要事項」がまとめられており,病棟で上級専門医が“患者を診ながら”研修医に教えているような現場感覚が体感できる構成になっています。原書のコンセプトである診療現場を想定した実践的な構成と具体的な記載に注目した安達氏が,原書の123章から55章を厳選し,日本版だけの「いいとこどり」の本書を作成してくれました。
さらに,この日本語訳版には原書にはない「訳注」「補足」「参照」がところどころに挿入されています。「訳注」や「補足」では,わが国のガイドラインや臨床の実情を考慮した記載やわかりやすい解説がきめ細かく加えられています。また,「参照」ではさらに詳しい解説を望む読者のために安達氏が厳選した参照教科書(それもページ数まで!)が紹介されています。また,参考文献の欄では「論文紹介」として内容を簡潔にわかりやすく解説してあるため,時間があまりないときの知識の吸収に役立ちます。
本書は1ページ目から読む必要はありません。自身が経験した,あるいはまさに今経験している症例の章を開き,「臨床の物語(clinical narratives)」をぜひ体感してください。各章15分程度読むだけでその疾患の全容をつかむことができますし,さらに深く学習したくなること必定です。本書が全国の若手医師にとって,外科診療を体系的に学ぶためのきっかけになることを祈っています。
B5・頁352 定価:本体8,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03058-8


小林 弘明 著
《評 者》亀井 三博(亀井内科・呼吸器科院長)
宝探しの旅に出かけよう
胸部単純X線写真に含まれる情報は,極めて多い。単純とは名ばかりである。一見,平たんなだけに見える海も,その水面下に,魚,鯨のような哺乳類,貝,クラゲ,海藻など,あらゆる生物が潜んでいる。同じように,plain filmともいわれる単純X線写真には,その奥に,骨,軟骨,筋肉,さらに気管支,肺,心臓,そしてそれらに紛れて結節影が潜んでいる。単純X線写真を見るとき私たちは,主訴に関連した所見だけでなく,癌に代表される結節を見落としがないように無意識のうちに探している。
ある日突然現れたかに見える癌を疑う結節が,いつから存在していたか。過去を振り返ると,既に数年前のX線写真にその萌芽が認められていたとき,冷たい汗が脇を伝う。これは年月を重ねても,あるいは年月を重ねた油断から,陥りやすいわなである。さらに,近年のデジタル化の波は,豊かな情報に満ちていたフィルム写真に替わり,情報をそぎ落とした液晶画面に投影される画像を見ることを私たちに強いている。深海に眠る宝ともいえる結節陰影を的確に見つけるためには,宝探しには地図が必要なように,このデジタル化時代であるからこそ私たちを導いてくれる地図が必要である。
数年前,著者の小林弘明先生は,私の主催する「亀井道場」という学生・研修医,そして万年研修医を自認する医師たちのための勉強会に,はるばる福井から大量のレントゲンフィルムを抱えておいでになり,私たちに胸部単純X線写真の見かた・考えかたを伝授してくださった。大量のレントゲンフィルムはまさに宝の山であった。伝授していただいた方法はまさに,“結節(宝)を見つけるための地図”であった。それが本になったらと願っていたら,このたび医学書院から発刊された。トレジャーハンターが地図を見つけたような喜びと驚きを感じた。
ここには,外科医として多くの結節の実際の姿を目にしてきたからこそ展開できる,徹底的な所見の解析に裏打ちされた見かた,そして論理の展開がある。ただ地図を見るだけでは宝に到達しないように,胸部画像は,ただ漫然と見るだけでは何も「見えて」こない。「考える」ことで初めて真の姿が見えてきて,宝に到達できることを伝えてくれている。
内科医である私には,到底到達し得ない境地である。この本では,それが惜しげもなく私たちに公開されている。熟練のトレジャーハンターが,その技を伝授してくれているのである。これを手にしない法はない。
さあ早速入手して,一緒に宝探しの旅に出かけよう。
B5・頁266 定価:本体5,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03008-3


後藤 浩 著
《評 者》溝田 淳(帝京大主任教授・眼科学)
外来に置いて診療に役立ててほしい一冊
今回後藤浩先生の『眼瞼・結膜腫瘍アトラス』を読ませていただいて,「やっと出たか」というのが素直な感想です。このような眼瞼・結膜の腫瘍や鑑別が必要な疾患に関する良い教科書が...
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