医学界新聞

連載

2018.03.12



身体所見×画像×エビデンスで迫る
呼吸器診療

肺病変は多種多彩。呼吸器診療では,「身体所見×画像×エビデンス」を駆使する能力が試されます。CASEをもとに,名医の思考回路から“思考の型”を追ってみましょう。

[第9回]先天性肺疾患を考える

皿谷 健(杏林大学呼吸器内科 講師)


前回からつづく

CASE 基礎疾患のない生来健康な62歳女性。健診で胸部異常陰影を指摘され,肺癌の疑いで紹介受診。Vital signsや身体所見は問題なし。喫煙歴なし。悪性疾患を疑わせる体重減少や食欲低下のエピソードなし。胸部X線では心陰影の背側に腫瘤性病変を認め(図1A),側面像では下行大動脈の領域に3~4 cmの腫瘤が確認できる(図1B)。胸部CTでは下行大動脈に接する長径4 cm大の腫瘤性病変を認め(図1C),少し高さをずらすと腫瘤性病変は枝分かれしているように見える(図1D)。また,この腫瘤性病変と正常気管支との連続性は確認できない。

図1 胸部X線画像(A,B),CT画像(C,D)(クリックで拡大)


肺腫瘤影は必ずしも癌ではない

 造影CTでは下行大動脈から出る動脈を認めましたが(図2A),通常は血管が分岐する部位ではありません。矢状断でも同様の所見です(図2B)。どうやら,分岐した動脈が腫瘤様に見えた可能性があります。

 肺腫瘤影の鑑別に肺分画症が考えられます。肺分画症は体循環からの動脈の供給があるため,3DCTを撮影したところ,腫瘤性病変は下行大動脈から分岐した血管そのもので,肺組織は伴っていませんでした(図2C)。血管を追跡すると肺静脈へ還流していました。診断は「肺葉内肺分画症」で,肺組織を伴っていないことから正確には「肺底動脈大動脈起始症」です。

図2 造影CT画像(A,B),3DCT(C)(クリックで拡大)

 さて,先天性肺疾患の患者はある日突然やってきます。例えば肺分画症の場合,無症状で健診発見の肺異常陰影の場合もあれば,血痰や喀血,咳嗽,胸痛などの症状を伴って救急外来を受診する場合もあります。図3は先天性肺疾患の好発部位の模式図です。肺分画症(S:pulmonary sequestration),先天性肺気道奇形(Ccongenital pulmonary airway malformation;CPAM),気管支閉鎖症(A:bronchial atresia)の3つをまずは押さえましょう。肺分画症は左肺底部縦隔側(S10領域)に多いため,同部位にSと記載しています。CPAMはどこにでも起きるので,肺を囲むように点線のCを大きく書いています。気管支閉鎖症の好発部位は両側上葉ですが,特に左側優位なため,図ではAの大小で示しました。ただし,気管支閉鎖症は下葉に多いとする本邦からの報告もあります1)

図3 先天性肺疾患の好発部位

肺分画症の鑑別

 肺分画症は全先天性肺疾患の0.15~6.4%,肺切除例の1.1~1.8%に認める比較的まれな疾患で2),①正常肺・気管支と交通を持たない肺組織,②体循環から生じる異常血管の2点の存在を証明することが必須です。本症例では,腫瘤性病変と正常気管支との連続性がなく,下行大動脈からの血流が確認可能で肺静脈へ還流していました。肺分画症は,1946年にPryceが提唱し,体循環から還流する異常動脈に着目して次の3型に分類したのが始まりです3)

・I型:異常動脈が正常肺の一部を還流しており,分画肺を欠く。
・II型:異常動脈が正常肺と隣接する分画肺を還流。
・III型:異常動脈が分画肺のみを還流。

 本症例はPryce I型に当たりますが,現在ではこのI型は分画肺を持たないことから肺底動脈大動脈起始症と呼ばれ,肺分画症とは独立した疾患としてとらえられています。しかし臨床現場では,依然として肺葉内肺分画症と呼ばれることが多いようです。

 なお,肺分画症と病態としては異なるものの画像上は似ることがある疾患に,肺動静脈瘻(肺動静脈奇形とも呼ばれる)があります。肺動脈が毛細血管を介さず直接肺静脈につながる病態で,常染色体優性遺伝性疾患であるオスラー病(Rendu-Osler-Weber病)の他,後天性の肺内慢性炎症の結果生じる場合があります。鑑別疾患として頭に入れておきましょう。

 肺葉内肺分画症(Pryce II,III型)で注意すべきは,正常気管支との交通がなくても,側副換気孔からのair trappingや感染などで正常気管支との交通が出現した場合は,反復感染する症例が多いことです4)。肺葉外肺分画症は主に新生児疾患ですので成人で遭遇する機会は極めてまれと考えられますが,正常気管支との交通がなく独立した胸膜で分離されているため,10%は無症状で成長し成人発見されます()。肺分画症は肺葉内でも肺葉外でも左S10領域に生じやすいことを念頭に置き,疑いがあれば3DCTや血管造影検査で体循環からの血流や分画肺の存在を確認する必要があります。肺葉内肺分画症やCPAM(後述)は生涯を通じて無症状である症例はまれであり,感染を繰り返すと正常肺にまで炎症が及び切除範囲が広くなるため,外科との連携が重要です。

 肺葉内肺分画症と肺葉外肺分画症の比較(クリックで拡大)

CPAMと気管支閉鎖症

 その他の比較的遭遇頻度の高い先天性肺疾患にCPAMと気管支閉鎖症があります。CPAMは以前CCAM(congenital cystic adenomatoid malformation)と呼ばれていました5, 6)。胎生8~10週の時期に分化過程が停止し,胎児肺の細気管支が成熟しないまま,無秩序に増生するために発生します。病理所見では終末細気管支上皮の腺腫様の増生が確認できます。正常気管支との交通は明確ではなく,病変は肺動脈から供血されます。体循環からの異常血管はなく,気管支拡張や嚢胞形成が画像診断に重要です(図4A,B)。

図4 CT画像(A,B:CPAM,C:気管支閉鎖症)(クリックで拡大)

 気管支閉鎖症は明確な病因は不明ですが,胎生期に一時的な気管支動脈の血流障害から気管支が虚血状態となり,その領域の気管支は消失吸収され気管支閉鎖が生じるとされています7)。気管支(90%が区域または亜区域気管支)が限局的に閉鎖しますが,閉鎖部より末梢の気管支は粘液が貯留し,側副換気交通を介して隣接する正常肺から空気が流入するため,check valve機構からair trappingが生じて気腫性変化を生じます。気管支の途絶,粘液貯留,気腫性変化(透過性亢進部位:図4C)は画像で疑うポイントです。

POINT

●成人発見の先天性肺疾患に要注意。
●肺分画症,CPAM,気管支閉鎖症の好発部位と特徴を押さえよう。

つづく

参考文献
1)益田公彦,他.先天性気管支閉鎖症成人例の臨床病理学的検討.日気嚢疾会誌.2007;7:17-25.
2)杉本恒明,他.内科学第6版.朝倉書店;1995.
3)J Pathol Bacteriol. 1946[PMID:20283082]
4)岡部友吾,他.肺分画症の管理.呼吸器内科.2017;31(5):420-4.
5)Arch Pathol(Chic). 1949[PMID:18137795]
6)Hum Pathol. 1977[PMID:856714]
7)J Thorac Surg. 1953[PMID:13062350]

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