MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2018.03.05
Medical Library 書評・新刊案内
上條 吉人 著
《評 者》保坂 隆(日本総合病院精神医学会理事長/保坂サイコオンコロジー・クリニック院長)
救急科と精神科を熟知した著者による名著が10年ぶりに改訂
本書は理学部で化学を学び,医学部を卒業し医師になってからは,精神医学と救命救急医学を極め,現在は埼玉医大教授となった上條吉人氏の,「渾身の力」を振り絞って改訂された力作である。
精神障害を有した患者さんは,普通では考えられないような病態を呈することがある。例えば,超低体温になって運ばれたり,悪性症候群では超高熱を呈したり,飲水過多のために超低ナトリウム血症になったりなどである。救命救急センターで働く医師にとっても,特異な病態であることは確かである。精神障害者に身体的な急変が起こったとき,救急搬送されるのは「身体的」救命救急センターである。その際,救急医の中に精神障害への不知や誤解があると,適切な治療に結び付かないことがある。本書はこのような場を数多く見てきた著者が,救急医のために書いたマニュアルの改訂版である。
精神障害者が呈する身体症状とそれへの対応が本書の根幹であるが,加えて,第4章では,「精神病症状により他害のおそれが切迫している患者への対応」や,「精神病症状により殺人や放火等の重大事件を犯した患者への対応」が,事例や法律の紹介とともに説明されている。本書にしかない内容であり,救急科と精神科の両方に熟知した著者ならではの部分である。ここには,警察官職務執行法や医療観察制度なども条文とともに説明されており,これは精神科医にも十分に有益な内容であった。
最終章の「救急医療スタッフへの7つのメッセージ」を私なりにまとめて紹介する。著者によれば,救急医療スタッフも精神障害を学んで,患者に対する差別的・偏見的な言動は絶対に慎まなければならない。また,精神障害者は訴えが曖昧で正確に伝えられないことや,向精神薬には致死性の副作用があることを覚えておく必要がある。一方で,自殺リスクの高い患者に致死的な量の薬剤を処方したり,高齢者にせん妄や転倒を起こす薬を処方したりするなど,精神科医療側にも問題がある場合があるので,時に“精神科医療に物申すことも必要”である。
さて,精神科医の研修途上の著者に,身体救急の場での研修を勧め,日本には他に例のない精神・身体の両方の治療に精通したプロフェッショナルに育てた故・守屋裕文先生のことは,総合病院精神医学会を通して存じ上げている。また,当時病気療養中の著者の奥様にも,臨床の場を通してお会いしたことがある。著者が本書冒頭に,本書がお二人にささげた本であることを明記しているが,著者が感じているように,この改訂版のもつある種の「重さ」には,お二人から著者への後押しのようなものを感ぜざるを得ない。上梓された今も,お二人からのエールを本書の背後に感じてしまった。だから,本書が「名著」になっていくことは疑う余地がないのだと思う。
B6変型・頁304 定価:本体3,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03205-6
三村 治 著
《評 者》後藤 浩(東医大主任教授・眼科学)
神経眼科学を学びたい人のバイブルになる一冊
わが国の神経眼科学の第一人者である三村治先生の単独執筆による『神経眼科学を学ぶ人のために 第2版』を拝読させていただきました。実は神経眼科関連の本は強迫観念もあってか,新刊が出版されるたびに中身を吟味することもなく購入する癖があります。これは取りも直さず,神経眼科学が苦手ゆえのせめてもの償い,あるいは抵抗の表れでしょう。本書は,そういった神経眼科学を学ぶ気持ちは持ち合わせている,少なくとも学ばないといけないと思っている眼科医や視能訓練士にはうってつけの書籍です。
まず,第1章の「解剖と生理」は必読のパートです。ここを読破しただけでも神経眼科学のスタートラインに立てた気分になれます。しかも一般に敬遠されがちなこの解剖と生理に関する解説を,たった18ページに凝縮してくれています! でもやはり,この18ページを理解するのがつらいのも
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