包括的な支持療法が示すQOL改善効果(岡本浩一)
寄稿
2018.01.29
【寄稿】
包括的な支持療法が示すQOL改善効果
食道がん化学療法での有害事象とサルコペニアを防ぐ
岡本 浩一(金沢大学医薬保健研究域医学系 消化器・腫瘍・再生外科)
食道がんは進行すると通過障害に伴う低栄養・筋量減少を来す。また化学療法や放射線療法,手術などの治療に関連した有害事象のために,十分な治療が行えなくなることがしばしば経験される。
本稿では,食道がん化学療法によって起こり得る口腔粘膜炎や骨髄抑制とそれに伴う発熱性好中球減少症などの有害事象の発生や,サルコペニアの進行などを食い止め,食道がん患者のQOLを維持しながらより安全で有効な化学療法を行うために当科で行っている3つの予防的対策(バンドル療法)について紹介したい。
①Oral cryotherapyの施行
氷の使用で口腔粘膜炎を軽減できる
食道がん化学療法に用いられるフルオロウラシル(5-FU)やドセタキセルは高率に口腔粘膜炎を発症し,口腔内の痛みや食事摂取困難,二次性感染症の原因となり得る。当科では,口腔粘膜への抗がん薬の局所分布を妨げることによる口腔粘膜炎の抑制効果を期待して,口腔粘膜への局所冷あん療法である「Oral cryotherapy」を行っている1, 2)。方法は非常に簡便であり,当科では角の取れた氷塊をドセタキセル投与開始10分前から投与終了後まで口に含ませ続けることで口腔内の冷却を図るという方法で行っている。
口腔粘膜炎を高頻度に発症し得るDCF療法(5-FU,シスプラチン,ドセタキセルの3剤併用化学療法)において,cryotherapy施行群の中等症(CT CAE分類Grade 2)以上の口腔粘膜炎発生率は17%で,cryotherapy未施行群(62%)よりも低率に抑えられた。副次的効果として中等度以上の食欲不振を呈した患者も低率であった(施行群22% vs. 未施行群54%)。
②G-CSF製剤の予防投与
副作用予防で化学療法の効果を最大化
食道がんに対するDCF療法では,白血球減少や好中球減少,血小板減少などの骨髄抑制を高率に来し,化学療法の減量や中止を余儀なくされるケースが多い。予防的対策をとらずに施行した際には,60%程度の患者に重症の白血球減少や好中球減少を生じ,それに高率で続発する発熱性好中球減少症が化学療法の継続を妨げる深刻な問題となっていた3)。
当科では持続型顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)製剤であるペグフィルグラスチムをDCF療法の抗がん薬投与終了24時間後,予防的に皮下注射することで,重症(CTCAE分類Grade 3以上)の白血球減少,好中球減少の発症率は20%以下となり,発熱性好中球減少症の発症率も20%から9%に減った。また2コース目以降の化学療法の減量や中止の頻度は72%から22%に減少し,安全性を保ちつつ,より十分な量の抗がん薬投与が可能となったことで,内視鏡的効果判定による奏効率は44%から77%へ向上し,化学療法後の切除例においては病理組織学的効果判定による奏効率(Grade 2;かなり有効以上,施行群46% vs. 未施行群31%)も高い傾向にあった(図1)。
図1 ペグフィルグラスチムの予防投与による効果 |
内視鏡的効果判定;CR=完全奏効,PR=部分奏効,SD=安定,PD=進行。病理組織学的効果判定;Gr 3=完全奏効,Gr 2=かなり有効,Gr 1=少し有効(a=軽度,b=中等度),Gr 0=無効。 |
③グルタミンを含む栄養支持
治療関連サルコペニアを防ぐ
筋量や筋力の低下をもって定義される「サルコペニア」は,本来加齢に伴うものを指す言葉であるが,近年炎症性疾患や悪性腫瘍,臓器不全などの疾患に関連した二次性サルコペニアに注目が高まっている。われわれは消化器がんに対する手術や化学療法の施行患者に全身消耗に伴った骨格筋量の減少を認めることに注目した。
化学療法はがん細胞のみならず,正常組織においても障害が生じ得る。小腸粘膜の障害や萎縮に伴って生じる下痢や腹痛は単独でも時にQOLを著しく障害することがある。また,菲薄化した腸管粘膜を介した血液中やリンパ管内への腸内細菌の侵入(バクテリアル・トランスロケーション)に伴って,発熱性好中球減少症や敗血症の発症・重症化によって全身消耗が進行し,食道がんに対する化学療法の継続がさらに難しくなることが懸念される。
障害された腸管粘膜の修復には主にグルタミンが利用されることが知られている4)が,療養中の食事のみでは粘膜修復に必要な十分量のグルタミンを含むアミノ酸の摂取は困難であるため,骨格筋の分解を...
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