電子タバコ・加熱式タバコは禁煙に役立つのか(倉原優)
寄稿
2017.12.18
【Controversial】
コモンディジーズの診療において議論のあるトピックスを,Pros and Cons(賛否)にわけて解説し,実際の診療場面での考え方も提示します。
電子タバコ・加熱式タバコは禁煙に役立つのか
倉原 優(国立病院機構近畿中央胸部疾患センター内科)
近年,日本でも「電子タバコ」という名前を耳にすることが多くなった。もともと電子タバコとは,乾燥したタバコ葉や専用の液体を発熱させてエアロゾル化する装置を指す。この液体には,当然ニコチンが含まれることが一般的だが,日本では薬機法(旧薬事法)が障壁となりニコチン入りリキッドを販売することができない。そのため,日本と海外における電子タバコは実は少々定義が異なるのだ。
現在日本で従来のタバコの代替品・進化商品として使われている,いわゆる「電子タバコ」は,IQOS(アイコス),Ploom TECH(プルーム・テック),glo(グロー)の3つが代表的なものである(表)。これらは全て厳密には電子タバコではなく,「加熱式タバコ」である。そのため,ここでは国際的な電子タバコが禁煙に役立つかどうか,また日本における加熱式タバコが禁煙に役立つかどうかを分けて論じたいと思う。
表 加熱式たばこの種類 |
ちなみに,いずれもタバコと同じく煙(厳密には水蒸気)が出るため,公共での場では従来のタバコと同類に扱われる。そのため,私のような呼吸器専門医は吸うことはできない(吸えば呼吸器専門医の資格を剥奪される可能性がある)。
Pros
禁煙に役立つ
まず,電子タバコが禁煙に役立つことを支持している代表的な国は英国である。加熱式タバコではなく,液体式電子タバコの「VAPE」が支持されている。VAPEはプロピレングリコールと植物性グリセリンをベースに,ニコチンや香料を混ぜたリキッドを内部コイルで加熱して水蒸気を発生させたものである。
VAPEで,ニコチンの代わりにフレーバーを使うのもはやりである。ただ,個人的にはニコチン依存の状態にある喫煙者がいきなりニコチンを含まないVAPEにスイッチしたところで禁煙に失敗する可能性が高いのではと懸念しており,このProsではニコチン含有電子タバコについて記載させていただく。
コクランレビュー1)では,妥当な研究としてニコチン非含有プラセボ電子タバコ対照ランダム化比較試験を2つ挙げて検証している(電子タバコを用いた禁煙に関しては質の高い研究が少ない)。これによれば,低用量のニコチンを含む電子タバコは,少なくともプラセボ電子タバコと比べて6か月間の禁煙率が2倍以上高く(9% vs. 4%),ニコチンパッチと同等の禁煙率であることが示されている。また電子タバコ群において,プラセボだけでなくニコチンパッチと比較しても従来タバコの消費量が減った。
また,上記コクランレビュー後に報告された米国人16万人以上の喫煙調査(CPS-TUS)によれば,電子タバコ使用者のほうが非使用者よりも禁煙試行率(65.1% vs. 40.1%)と禁煙成功率(8.2% vs. 4.8%)が高かったと報告されている2)。ただし,これらのデータは自己申告によるものであり,リコールバイアスがあることには注意しなければならない。また,被験者に対する質問内容も「液体式電子タバコを主とした」と書かれているものの,本当に液体式電子タバコに限定されているのかどうか定かではない。
いずれにせよ現時点では,少なくともニコチンを含む液体式電子タバコについて,禁煙に対する効果がいくばくかあると考えて問題ないだろう。
Cons
禁煙に役立たない
電子タバコが禁煙に役立たないと考える研究者もまだまだ多い。その原因の1つ...
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