医学界新聞

2017.12.11



Medical Library 書評・新刊案内


看護のための人間発達学 第5版

舟島 なをみ,望月 美知代 著

《評者》田副 真美(ルーテル学院大教授・臨床心理学)

生物・心理・社会モデルから生涯発達をとらえる

 心理学の基礎分野の発達心理学では,乳幼児期から青年期までの発達過程に重きが置かれていた時代があったが,現在は胎児期,成人期,老年期についても取り上げられるようになり,人の一生を連続的にとらえ,生涯を通して発達し続けているという生涯発達として認識されるようになった。また,私の専門分野の臨床心理学では,心理アセスメントや心理的援助において,個人の発達や心身の健康に影響を与える要因を生物・心理・社会モデルという3つの側面でとらえる枠組みがある。現在,医療・教育・福祉などにおける臨床では,生物・心理・社会モデルをもとに,さまざまな要因の相互作用を総合的に把握し,問題解決や治療に必要な専門領域と協働することが求められている。

 本書は,人間発達について生物・心理・社会モデルの視点で記述しており,看護の分野だけではなく,医療・心理・教育・福祉分野で対人援助の仕事をめざす者やすでに職に就いている者にとっても大変有用な一冊である。

 本書は,第I部「人間発達学の概説」,第II部「人間のライフサイクルと発達」の2部構成になっている。第I部では,なぜ人間発達学が人間理解に必要なのかということについて述べている。そして,発達の定義を心理学,医学,教育など多くの学問領域からとらえ統合し,本書としての定義を「発達とは,身体・心理・社会的側面の統合体としての人間が変化する過程であり,その変化の過程には高度の分化や複雑さ,機能の効率を獲得していくことに加え,構造と機能の減退を含む」と定めている(p.7)。発達理論の歴史と現代の理論については,簡潔にわかりやすく,それぞれの特徴を説明している。用語の説明,人間発達の共通性や発達に影響を及ぼす因子に関する記述により,第II部の各ライフステージをスムーズに理解できるよう工夫されている。

 第II部の各ライフステージでは,心と身体の特徴,形態・機能的側面の発達,心理・社会的側面の発達,発達の評価,発達にかかわる健康上の問題,発達に必要な支援について記述されている。胎児期,乳幼児期では,発達の評価項目を設けている。各ライフステージで重要とされる内容は,表やチェックリスト等で提示され理解しやすい。例えば,乳幼児期,学童期の心理・社会的側面では,エリクソン(心理・社会的),ピアジェ(認知的),ボウルビィ(愛着)の理論を一つの表にまとめ(p.102),老年期の発達評価では生活機能評価における「基本チェックリスト」を載せている(p.265)。各章では,現在の社会環境の変化や社会情勢に関する最新のデータを取り入れ,各ライフステージの特徴と関連付けている。新たに学童期では子どもの貧困,成人期ではワーク・ライフ・バランス,定年退職が加筆された。

 本書はわかりやすい文章構成で組み立てられ,見やすい図表が多く,初学者に理解しやすい。また,図表のデータは,最新の情報を取り入れているため,教育者の指導書としても活用できる。

B5・頁312 定価:本体3,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02875-2


看護学生スタートブック

藤井 徹也 著

《評者》寺島 みえ(名鉄看護専門学校副学校長)

看護学生にとって学修の指南書となる一冊

 初めて本書を手にした時,“このような本が必要になった現実”をあらためて実感しました。近年,医療の高度化・医療体制の複雑化などから看護基礎教育の学修内容は年々増加しています。本書のような,限られた時間で効果的に学修する手順書は,看護学生にとって大変魅力的な本となるでしょう。

 毎年,6万5000人近くの看護学生が看護職をめざして新生活をスタートしています。その多くの学生が,入学当初,授業内容から学び方まで高校時代とは大きく異なることに不安や戸惑いを感じているのではないでしょうか。

 専門性の高い学校に入学すると,錯覚に陥ることがあります。特に看護分野においては,自分の将来像を具体的にイメージしやすいため,「学校に行っていれば,きっと看護師になれる」と錯覚してしまいます。しかし,看護教育のカリキュラムは,一つひとつの科目が関連し,積み重ねながら学びを深めていきます。だからこそ,錯覚したまま時間だけが過ぎていくと,気付いた時には,膨大な量の学修内容をどこから手を付けてよいかわからないという現実が待っています。本書は,そのような看護学生が,路頭に迷わないための指南書となるでしょう。

 著者は冒頭で「学生生活の限られた時間の中で,効果的に学修や準備をする基礎的な技法を,本書では紹介しています」と記しています(「はじめに」より)。この「効果的に学修する基礎的な技法」を身につけることは,より主体的な学修活動を生み出すことにつながると思います。本書は,その技法の具体例を交えて図や表などを多数使用し,とにかく読みやすく作成されています。

 具体的な内容としては,シラバスや単位の考え方から学生生活全般,卒後の進路や就職に至るまでを,根拠をもって伝えています。特に講義の受け方やノートづくりのコツ,資料の集め方・読み方,レポート作成などは,本書の中心となっており,大変丁寧に解説されています。

 近年,主体的な学修活動が身についていないまま看護学生としてスタートする学生もいます。そのような学生が,より効果的なノートづくりができるように,「授業ノート」と「試験用のまとめノート」の具体例として,解剖生理学を例に,見出し・余白の取り方・解剖図のイラストの入れ方・色分けの方法までわかりやすく紹介されています。

 さらに終章には,理想とする看護師像に近付くための目標の立て方のコツなども書かれています。看護学生としてスタートした時点から卒後の進路を決めていくまでに必要な“学修のための技法”が満載です。

 本書は,長年看護教育に携わってこられた著者の“看護職をめざす学生”への愛情にあふれています。さらに,看護教員の方々が,学生生活全般を指導する上での参考書としても活用できる一冊です。

A5・頁112 定価:本体1,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03011-3


《がん看護実践ガイド》
サバイバーを支える
看護師が行うがんリハビリテーション

一般社団法人 日本がん看護学会 監修
矢ヶ崎 香 編

《評者》広瀬 眞奈美(キャンサーフィットネス代表理事)

がんサバイバーへの見落とされがちなケアがわかる

 がんサバイバーシップに関心が向けられ始めた今,本書は,まさにがんサバイバーの治療に伴う苦痛と支援を理解・実践する上で必読である。患者の症状や精神的な状態を詳細に解説しており,すぐに活用できる実用的な一冊にまとめられている。

 第1章では,がんリハビリテーションの重要性や,がんサバイバーシップの考え方の理解を深めることができる。編者の矢ヶ崎香先生が看護師の役割について述べている項目では,「そうか,こんなふうにがんと向き合っていけばよいのか」と新たな視点を発見でき,まるで,がんサバイバーである自分への応援メッセージのように感じ,元気をもらえた。ぜひ,p.14の「がんサバイバーとともに『新たな普通を探す』」を読んでほしい。

 手術療法,がん薬物療法に伴う症状を取り上げている第2,3章では,後遺症や副作用に対する対処法,セルフケア,セルフリハビリテーションについて大変詳しく書かれている。入院中よりも退院後こそ,患者は現実に戻り日常生活に直面し悩む。退院後の具体的な対処法やセルフケアに関する指導こそ,患者の社会復帰のために積極的に取り入れていただきたい。

 また,各項目にある評価,アセスメントの解説は簡潔でわかりやすい。「患者のスクリーニングや患者自身が症状を多面的に評価すること,医療者が介入したことの評価などにおいて,信頼性・妥当性のある共通の評価を多くの医療者が利用することは,患者への介入の根拠や,継時的な観察・評価を行ううえで重要である」(p.44)とある。看護師の評価・アセスメントの積極的なアプローチと知識は患者の早期回復にかかわるため重要であるし,患者にとっても自立への支援となり,非常にありがたい。

 リンパ浮腫については,患者が医療者に理解してほしい心身の症状が,大変よく説明されている。医療者の理解不足のために適切な指導を受けられず困る患者も多く,看護師のリンパ浮腫の知識や評価は,患者にとって大きな援助になるだろう。

 第4章では,がんリハビリテーションの多職種チーム医療の重要性や今後への提案も述べられている。さまざまな課題を解決していくために看護師だけでなく,がんにかかわる全ての医療者やがん患者にも本書を読んでいただきたい。

 私はがんサバイバーの一人として,また,がんサバイバーへの運動指導を行ってきた経験から,“がんサバイバーが身体的,情緒的機能の改善に向けて努力することで,人生の質をよくすることができる”と信じているが,本書によりそれを確信した。がんリハビリテーションが,がんと共存する時代の新しい医療へと前進することを心から願い,本書に心から感謝したい。

B5・頁184 定価:本体3,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02487-7

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