医学界新聞

寄稿

2017.11.27



【寄稿】

安全で質の高い看護を急性期病院で提供するために
「抑制しない看護」を今こそ実現しよう

嶋森 好子(岩手医科大学看護学部学部長・共通基盤看護学講座教授)


 急性期病院では,侵襲性の高い処置やケアが行われ,生命にかかわるライン類が装着されていることから,「患者の安全確保」を理由に患者を抑制することがある。しかし,入院して手術を受けた高齢患者が,回復後も「抑制されたトラウマ」から抜け出せず,せん妄状態が続くことがある。

 筆者と野村陽子氏(岩手医大地域包括ケア講座教授)は座長として,第35回日本看護科学学会学術集会(2015年12月5~6日)の交流集会「急性期病院における認知症高齢者看護の支援体制を考える」を,続いて翌年の第36回同学術集会(2016年12月10~11日)の交流集会「急性期病院における認知症高齢者看護の新たな対策を考える」をそれぞれ開催した。

 この2回では,急性期治療の場で認知症高齢者に抑制を行わないために,どのような支援を行っているかを紹介した。例えば,急性期病院で認知症カフェを立ち上げた事例や,病院で問題行動を起こす認知症患者も早期の退院によって自宅で問題なく生活できるといった訪問看護ステーション管理者からの報告などである。これを受け私は,抑制を行わなくても安全なケアを提供できるとの確信を得た。

抑制廃止の鍵を握る看護管理者

 交流集会の経験から,急性期病院で抑制しないケアを提供するには,看護管理者が決断しなければ解決できないと考えた。そこで,第21回日本看護管理学会学術集会(2017年8月19~20日)では,「急性期医療現場で,認知症状を呈する患者に『抑制しない看護』を実現する――看護管理者の取り組みとシステム化」をテーマに指定インフォメーション・エクスチェンジを開催した。

 引き続き筆者と野村氏が座長を務め,4人の演者が発表した。初めに老人看護専門看護師の日向園惠さん(石巻赤十字病院)が自身の調査結果1)から,看護職位によって抑制に関する認識に違いがあることを紹介した。看護部長と現場の看護スタッフの抑制廃止に関する認識が同様に「どちらともいえない」との傾向に対し,看護師長は抑制が必要と考える割合が高いとの結果が示唆された。日向さんは「分析は今後行う予定だが,抑制廃止の鍵を握るのは看護師長」との認識を示した。

 次に,吉村浩美さん(聖隷三方原病院総看護部長)から,自身が評議員を務める日本老年看護学会が公表した「急性期病院において認知症高齢者を擁護する」立場表明2)の内容と意義が紹介された。この表明は,「認知症ケアの原則に基づき,急性期病院で働く看護師(看護職者)に対して看護の方向性を示すとともに,医療・ケアチームの連携協働を図り,かつ急性期医療を受ける認知症高齢者とその家族の安心と安寧を保証する看護を推進すること」を目的に発表された。

 抑制の弊害は,身体的に「関節拘縮,筋力低下,褥瘡,(中略)食欲低下や便秘,失禁などさまざまな症状を引き起こす」ことにある。また,「怒り,屈辱,あきらめ,不安といった精神的な弊害がおこり,せん妄やBPSDの要因となる」とされ,「向精神薬を使用する場合には誤嚥や転倒といった影響」が心配される。さらに「ケア提供者のケア意欲を低下させる」と記され,患者の心身のみでなく,看護職自身にも影響を与えると指摘した。

病院内の共通認識が必要に

 続いて,2人の看護管理者が抑制廃止の取り組みを報告した。初めに,桑原安江さん(京都市立病院副院長・看護部長)が「抑制に依存しない看護への道」と題して発表を行った。現在,同院全体で「抑制低減」に取り組んでいる。転倒・転落の数は多少増えたが,損傷レベルに変化がないことを紹介し,抑制しなくても重大事故には至っていないと報告した。

 桑原さんはかつて京大病院で,筆者と同じ時期に専任医療安全管理者として働いていた経験を持つ。患者の安全確保に関心があり,抑制廃止が患...

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