医学界新聞

2017.11.20



Medical Library 書評・新刊案内


認知症疾患診療ガイドライン2017

日本神経学会 監修
「認知症疾患診療ガイドライン」作成委員会 編

《評者》小野 賢二郎(昭和大教授・神経内科学)

日常診療に欠かせない一冊

 わが国では,高齢者人口が未曽有の速さで増加し,それに伴い認知症を有する高齢者が増え,大きな医療・社会問題となっている。全国の認知症高齢者数は,2012年時点で推計約462万人であったが,2025年には700万人を超えると見込まれている。これは,65歳以上の高齢者のうち,約5人に1人が認知症に罹患する計算となる(厚労省,2015年1月)。

 認知症の中でも最も頻度の高い疾患がAlzheimer型認知症である。わが国では治療薬としてドネペジル,ガランタミン,リバスチグミン,メマンチンが用いられているが,これらの薬剤は投与を続けても認知機能低下の速度を低下させることができない。そのため,認知機能低下の速度を低下させる薬剤,すなわち,早期投与によって進行そのものを修正できる疾患修飾薬(disease-modifying drug;DMD)の開発が活発に行われ,実際にわが国においてもDMDの臨床試験が増えてきている。

 本書は日本神経学会が監修し,中島健二先生を中心とする「認知症疾患診療ガイドライン」委員会がまとめたガイドラインの力作である。認知症疾患に関するガイドラインとしては,まず2002年に『痴呆性疾患治療ガイドライン2002』が公開され,2010年にclinical question(CQ)を用いた『認知症疾患治療ガイドライン2010』が作成された。その後,若干の新知見を加えて2012年に『認知症疾患治療ガイドライン2010 コンパクト版2012』が発刊され,そして,2014年にガイドラインの改訂が決まり,今回新たに『認知症疾患診療ガイドライン2017』として発刊されるに至った。

 本書は網羅的・系統的・実践的で,認知症の疫学・定義・用語に始まり,評価尺度,検査,治療,医療・介護制度や社会資源といった総論,そして各論では,Alzheimer型認知症やLewy小体型認知症(dementia with Lewy bodies;DLB),血管性認知症といった主要な認知症疾患から,進行性核上性麻痺や大脳皮質基底核変性症,Huntington病といった認知症症状を来し得る神経変性疾患などの章立てとなっている。また近年,疾患概念が明確になってきて鑑別疾患として知っておきたい,嗜銀顆粒性認知症,神経原線維変化型老年期認知症,プリオン病,さらにはtreatableな認知機能障害として見逃してはいけない疾患(ビタミン欠乏症,甲状腺機能低下症,肝性脳症,特発性正常圧水頭症など)まで網羅されている。

 大枠は前回のガイドラインを踏襲しているが,前回と同様に各章はコンパクトで読みやすく,冒頭に1~2行にまとめられた「CQ」が置かれている。このCQに答える形で簡潔な「推奨」が続き,さらに図表も交えた「解説・エビデンス...

この記事はログインすると全文を読むことができます。
医学書院IDをお持ちでない方は医学書院IDを取得(無料)ください。

開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook