医学界新聞

寄稿

2017.11.20



【寄稿】

ネットワーク構築で「住まい」の質を担保
福岡県大牟田市の空き家対策と居住支援の取り組みから

猿渡 進平(白川病院 医療連携室室長/医療ソーシャルワーカー)


人口半減,高齢化率35%

 大牟田市は福岡県の最南端に位置し,石炭産業で経済成長を遂げた自治体である。1959年に人口約21万人とピークを迎えたが,炭鉱閉山に伴い徐々に人口が減少し,2017年9月時点で11万7000人弱と約半数にまで減少した。近年も,年間1300~1400人のペースで減少している。高齢化率は35.1%と年間約1%ずつ増加。2004年には75歳高齢者の割合が65歳高齢者を超える状況であった。人口減少が進む一方,世帯数は5万7000世帯に増加し,高齢者のみの世帯は約25%,高齢者がいる世帯は約50%と高齢者が多く生活するまちとなっている。

 高齢者や障がい者等を支援する公的サービスには住まいを支援する「施設サービス」がある。あくまで保険制度の施策としてのサービス範囲であり,住まいそのものを保証してもらえるわけではない。介護保険制度を例に見ると,要介護認定を受けて施設に入所したものの,翌年の介護保険更新時に非該当となり,住まいを再度探さなくてはならない事例が大牟田市に限らず多くの自治体で起きている。また,施設,サービス付き高齢者向け住宅では身元保証人,連帯保証人が必ず必要になる。高齢者の多い大牟田市は,身寄りのない高齢者も徐々に増えている。

 高齢化による次なる課題が「空き家」問題だ。空き家率は16%程度と全国水準の13.5%(2013年)よりやや高めだ。空き家の放置は家屋の老朽化による事故や,近隣に物的被害を与えるなど多くの問題をはらむ。空き家の問題や身元保証人不在の問題は,これまで各セクター(福祉関係者,不動産関係者,行政等)がそれぞれのアプローチで考えていたが,連携と情報共有の必要性から2013年に大牟田市居住支援協議会(協議会)が設立された()。

 課題解決に向けて連携する大牟田市居住支援協議会の体制

医療・介護職以外との協働で空き家対策を実施

 協議会は空き家の実態把握,住宅確保要配慮者(要配慮者)への空き家と住まいのマッチングを行う。空き家の実態把握については,民生委員と協働で実施する。地域で長年活動を実施する民生委員は,活動範囲内の空き家を把握しているため,地図上で空き家かそうでないかを把握できる強みがある。判断がつかない物件のみ行政担当職員が現地に赴き調査すればよくなるため,時間的,コスト的な負担を軽減した調査が実施できた。結果,大牟田市には利活用できる空き家が約1000戸あることが判明した。

 協議会は,年々増加する空き家に対して,遠方の家屋管理者が相談しやすいよう,お盆時期に相談会を実施し,売却,利活用,解体についての相談を受け付け助言している。しかし,要配慮者への対応が十分とは言えない状況もあった。住まいと要配慮者のマッチングがスムーズにできたとしても,その家で生活する「住まい方」を担保しなければ住み続けることはできないからだ。住まいと生活支援サービスが一体的に提供されてこそ住み慣れた地域で要配慮者が生活し続けることができるのではないか。

 こうした課題を解決するため,2014年にNPO法人大牟田ライフサポートセンターが設立された。目的は「住み慣れた地域で誰もが安心して住み続ける大牟田」をめざすこと。構成メンバーは,弁護士,司法書士,税理士,不動産仲介業者,ファイナンシャルプランナー,社会保険労務士,一級建築士,社会福祉士,精神保健福祉士とさまざまな専門職が在籍する。具体的な活動は「身元保証」「連帯保証」に加え「生活相談」「啓発」を行っている。「住まい」と「住まい方」の一体的な提供で,安心して地域に住み続けることにつながると期待される。

地域のネットワークから退院後の生活を考える

 高齢化により,地域から求められる病院の役割も変化している。「治療」に重点を置いた患者とのかかわりから,退院した後の「生活」に目を向ける必要性が増している。

 私は,大牟田市の療養型医療機関である白川病院(218床)でMSWとして退院支援にかかわっている。入院患者の平均年齢は85歳以上と高いため,退院支援を考える上で多くの問題にぶつかり,スムーズな支援が展開できない状況もある。それでも,住民と協働し退院が可能になる事例が少しずつではあるが増加している。

 例えば,難病で長期入院していた80代女性の「自宅に帰りたい」との想いを実現するため,地域,介護事業所,医療機関が一体となって自宅退院ができた事例がある。家族は高齢独居で難病を抱える本人を遠方の施設に入所させるか,現状のまま長期の入院を希望していた。本人の「自宅に帰りたい」という希望を家族に伝え介護保険制度を説明しても,「24時間体制でなければ帰すことはできない」と在宅退院に後ろ向きだった。すると,近隣住民から「家に帰すことがなぜそんなに怖いのか? 一人の時間が多いならお茶を飲みに誘うこともできるし,ゴミ出しが大変であれば一緒に捨ててあげる」「私たちの手に負えないことがあればすぐに病院や施設に連絡を入れることもできるから」といった温かい後押しがあり,本人の想いを実現することができた。

 入院してくる患者がどのような生活環境の中で暮らしてきたかに重点を置いてかかわりを深めなければ,多様な課題を抱える患者の退院支援は円滑にはできない。この事例から,本人の日常生活圏域には多くの資源があり,それらの「点」を結び合わせることでさまざまなネットワークが構築され,その「面」の中での生活が可能になると手応えを得た。医療機関,介護保険制度では解決できないことでも,さまざまなセクターと課題を共有することで新しい形の支援が生まれると実感している。

 住民が地域で生活し続けることは,医療・福祉の世界だけで完結するものでは決してない。住民は,多種多様な要素を含んだ環境の中で生活しているため,医療・福祉に携わる者は自分たちの困りごとを他の分野の人に見てもらう働き掛けが大切になるだろう。

 分野別に困りごとを解決するにはどうしても限界があり,支援に行き詰まってしまうこともある。そこで,大牟田市のように,一つの課題を多くのセクターが共有し,「こんな資源や仕組みがあったらいいね」と課題に対する共通理解を図る場と機会が重要になる。

 一人の患者の退院支援を実施する場面で,多くの住民や機関等がつながり新たなネットワークが生まれることもある。そのようなつながりこそが,日常的な生活支援や見守りへと具現化されて,地域包括ケア時代の「住まいと住まい方」の質が担保されていくと考える。

(了)


さるわたり・しんぺい氏
認知症の祖母を家族で介護したのをきっかけに福祉の世界に興味を持ち進学する。2002年白川病院に就職。大牟田市役所中央地区地域包括支援センター,厚労省社会・援護局障害保健福祉部地域生活支援推進室への出向も経験し,16年より現職。高齢者が自宅で住み続けられる「地域力」の向上をめざし地域活動を実践中。大牟田市からは相談支援包括化推進員の委託を受ける。共著に『医療福祉総合ガイドブック 2017年度版』(医学書院)。

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