医学界新聞

2017.10.30



Medical Library 書評・新刊案内


臨床検査技師のための血算の診かた

岡田 定 著

《評者》池本 敏行(阪医大病院中央検査部技師長)

「出合って良かった」と思える一冊

 本書の書評を書くに当たり,評者は『臨床検査技師のための血算の診かた』というタイトルに興味を抱きました。なぜかというと,臨床検査技師(以下,検査技師とします)であれば,誰もが口にすることをためらってしまう,“診断”の“診”という文字が使われていたからです。まず,タイトルに惹かれて読み進めました。読み終えた今,期待以上の本であったと感じています。

 この本は,著者が医師向けに書かれた『誰も教えてくれなかった血算の読み方・考え方』(医学書院,2011年)の姉妹本ですが,血算データを病態診断につなげていくというスタイルは同じです。症例数は医師向けの本よりは少ない35症例ですが,血液検査に携わる検査技師が遭遇するだろう血液疾患はほぼ網羅されています。血算データから病態診断までがQ & A方式で導かれており,血液検査に携わる技師の指導書として,また自己学習書としてぴったりな本です。検査技師は1日に数百という検体を扱うので,血算の時系列を全て確認することは困難ですが,この本では「血算を時系列で診る」という医師の視点を学ぶことができます。評者が検査技師になった頃は紙カルテだったので,患者さんの状態や投薬情報などを得ることは大変なことで,同じ検査室で測定している他の検査結果さえすぐに知ることは難しい時代でした。今は電子化されているので,検査技師でも,患者情報や血算の時系列を簡単に見ることができます。そういう意味からも,この本は時代にマッチしています。

 “診断”を付けられるのは医師だけなので,検査技師は血算やその他の検査から病名を推測できても病名をはっきりと口にすることはしません。しかしこの本では,検査結果から考えられる病名を積極的に医師へ伝えることの大切さやその病名を推測するに至った根拠,医師への伝え方までもが書かれています。そして医師や検査技師が重要な所見を見落とすとどうなるかも説明されています。全体を通して,検査技師が患者のために積極的に診療にかかわることの必要性を説き,チーム医療に積極的に参加するよう背中を押してくださっています。これは長年,著者が血液内科医として検査技師と接してこられ,検査技師の気質や技師が何をできるかをよく理解されているからに他なりません。

 また,この本は検査技師にとって大変ありがたい内容となっています。血液検査に携わる検査技師は患者との接点が少なく,血算データの向こうにいる患者さんの姿が見え難いものです。この本には診断後の治療経過や著者の臨床経験がコラムに書かれており,コラムを読むと著者と患者さんとのやりとりが目に浮かび,いつの間にか診療の現場にいるような気になります。

 書評を書くまでの間に,若手の検査技師が何度か血液検査結果の質問に来ましたが,この本にならって答えてみました。とても読みやすく,血液検査に携わる検査技師が出合って良かったと思える一冊です。

B5・頁184 定価:本体3,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02879-0


死を前にした人にあなたは何ができますか?

小澤 竹俊 著

《評者》柏木 哲夫(淀川キリスト教病院理事長)

患者の「わかってほしい」気持ちに焦点を当てる

 本書の著者,小澤竹俊先生が「お願いしたいことがある」とのことで,淀川キリスト教病院に来られたのは,現在先生が理事をしておられる「エンドオブライフ・ケア協会」設立(2015年)の少し前のことであった。高齢化時代,多死時代において,人生の最終段階に対応できる人材の育成を目的とした「エンドオブライフ・ケア協会」を立ち上げるに際し,「顧問」になってほしいとの熱心なご依頼であった。小澤先生とは「日本死の臨床研究会」や「日本ホスピス緩和ケア協会」でご一緒することもあり,先生のお人柄やお仕事の内容もよく存じ上げていたので「私で良ければ」ということで,お引き受けした。

 その後協会は順調に発展し,メディアも好意的に働きを報道してくれていることはご同慶の至りである。このたび,小澤先生が本書を出版されたことは,協会の発展にさらに大きく寄与することであろうと思う。本書の特徴を一言でまとめると「難しくなりがちな内容を,具体的にやさしく述べている」ということであろう。数多くの経験なしには具体性とやさしさは出てこない。

 私はホスピスという場で,約2500人の患者さんを看取ったが,本書を通読して,小澤先生の経験と共通することが多かったのに気付いた。その一つは先生が第1章「援助的コミュニケーション」のところで書いておられることである。ミルトン・メイヤロフが『ケアの本質』(ゆみる出版,1987年)で書いている「配慮的人間関係」(Caring Relationship)と一脈通じるところがある。この関係の特徴は「相互的成長」である。Caring Relationshipにおいてはケアを提供する側も受ける側も,共に成長するということである。その意味では,ケアは双方向性なのである。

 本書では聴き方の技法として,反復,沈黙,問いかけの3つが挙げられているが,私の言葉で言えば,反復は理解的態度であり,問いかけは「受け身の踏み込み」と言えるであろう。理解的態度とは相手の言葉を自分の言葉に変えて,相手に返すことである。例えば「もうダメなのではないでしょうか」との患者さんの言葉に対して,「もう治らないのではないか……とそんな気がするのですね」と返すことである。「受け身の踏み込み」とは,しっかり受け身で聴いて信頼感を作り,その上で,踏み込んで質問をすることである。

 末期患者の共通の願いは「苦痛の緩和」と「気持ちをわかってほしい」である。前者に関しては多くの書物が世に出ている。残念ながら,後者に関する好著が少ない。本書は「患者の気持ち」に焦点を当てているという点でユニークである。ケアの提供者のみならず,一般の方々にも読んでいただきたい好書である。

A5・頁168 定価:本体2,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03208-7


内分泌代謝疾患レジデントマニュアル
第4版

吉岡 成人,和田 典男,永井 聡 著

《評者》小谷野 肇(順大浦安病院糖尿病・内分泌内科科長補佐)

海図のない海へ乗り出すための羅針盤

 臓器別の疾患分類に慣れた目から見ると,システムとして多臓器に影響を及ぼす内分泌代謝疾患はとらえどころがない,とっつきにくいと感じる医師は少なくないと思います。内分泌代謝疾患の勉強を始めた...

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