医学界新聞

2017.10.30



第1回日本臨床疫学会開催


康永秀生大会長
 昨年12月に発足した日本臨床疫学会の第1回大会が9月30日~10月1日,「日本の臨床疫学――天地開闢」をテーマに東大(東京都文京区)にて開催された(大会長=東大大学院・康永秀生氏)。本紙では,大規模データベースの研究利用に向けた課題が議論されたシンポジウム「ビッグデータを用いた臨床疫学研究」(座長=慶大・宮田裕章氏)の模様を報告する。

データ収集基盤が整備された今,次は何が必要か

 データベースの整備が進み,臨床疫学研究は新時代を迎えつつある。日々蓄積される膨大なリアルワールド・データを活用した臨床疫学研究による,医療の質改善への期待が高まっている。

 レセプト情報・特定健診等データベース(NDB)の利用手法開発を進める今村知明氏(奈良県立医大)は,「1患者1データ化」を課題に挙げた。NDBでは,各データに保険者番号や氏名に基づくIDが振られている。しかし,保険者番号の変更や氏名の誤記などに伴うIDの重複や,個人情報保護のための匿名化処理により,データが複雑化しているという。氏が開発した,患者単位でデータを抽出する「名寄せ」手法を用いて集計したところ,NDBには,国民の9割超をカバーする1億1000万人以上のデータが存在するとわかった(2013年度)。氏は,人材育成や分析手法の開発・改善が必要と指摘しつつも,「NDBは超巨大コホート研究を生み出す宝の山」と述べた。

 続いて,伏見清秀氏(東医歯大大学院)が厚労科研DPC研究班の活動を報告。DPC研究班では約1200病院から収集した入院患者データを用いて,医療政策研究や臨床研究を行っている。DPCデータには,薬剤の使用量や診療行為回数など,非常に詳細な診療情報が含まれる一方,医療機関間共通IDがないなどの課題もある。氏は,DPCデータの優位性や課題を踏まえて,研究デザインを工夫すべきとの考えを示した。

 最後に登壇した中山健夫氏(京大大学院)は,厚労科研戦略型研究「健康医療分野における大規模データの分析及び基盤整備に関する研究」に携わった。厚労科研戦略型研究は従来,RCTが中心だったが,2004年ごろからデータベース活用も重視されるようになったという。氏は,大規模データベース活用にはさまざまな分野にまたがる知識や技術が必要とされるため,共同研究体制や公的支援環境を整備すべきと訴えた。また,日本臨床疫学会の設ける「臨床疫学専門家制度」などを通じた人材レベルの底上げに期待を寄せた。

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