医学界新聞

対談・座談会

2017.10.09



【対談】

Point-of-Care超音波
何を診る? どう学ぶ?

谷口 信行氏(自治医科大学医学部臨床検査医学教授/
自治医科大学附属病院臨床検査部部長)
亀田 徹氏(安曇野赤十字病院第一救急部長)


 超音波装置の小型化,画質の向上,価格の低下が進み,近年「身体診察の延長」としてベッドサイドで行う超音波検査が,世界中で広く受け入れられるようになっている。

 簡便な手順で,初心者でも一定のトレーニングを受ければ日常診療にすぐ生かせるスキルとして,急性期診療やプライマリ・ケアのさまざまな場面で導入されているPoint-of-Care超音波(以下,POCUS)。本紙では,臨床でどのように活用すべきか,研修医として押さえておきたいポイントをPOCUS研究会の谷口氏と亀田氏にお話しいただいた。


谷口 超音波検査の歴史は長く,日本超音波医学会の前身である超音波医学研究会は1961年に発足しました。当時は基礎研究が主でしたが,約30年前から装置の精度が向上したことで臨床活用が広まりました。

亀田 超音波検査は長年,超音波専門医や超音波検査士といった専門家により系統的に行われてきました。しかし小型の超音波装置の普及により,将来的には1人1台の時代が来るとも言われています。こうした変化を受け,超音波を専門としない臨床医によるベッドサイドでの活用が注目されています。

 今回は,超音波を専門としない臨床医がどのように超音波を活用するかにテーマを絞って話したいと思います。

ベッドサイドで臨床医が行う超音波検査,POCUS

谷口 POCUSは,Point of Care Testing(臨床現場即時検査)のように,ベッドサイドや診察室,時として病院外など,患者さんのいらっしゃるその場で行う超音波検査を指します。

 診断のためには,検査室での精査ももちろん大事ですが,そのためには患者さんに移動してもらう労力と時間がかかります。その場で情報を得られれば診断を絞れ,適切な検査オーダーにも役立ちます。

亀田 私は救急医ですが,特に救急の現場ではバイタルサインが不安定で超音波検査室へ連れて行けないことがあります。病歴聴取や身体診察,場合によっては治療と並行してベッドサイドで実施できるPOCUSは,素早い臨床決断,患者ケアの向上につながっています。

谷口 CTなどの検査結果を待つよりも早く他科へのコンサルテーションの判断もでき,より早く次のステップに進めるのですね。もっと言うとCT検査の件数が減らせるかもしれません。

亀田 日本のCTスキャナ保有台数は世界一です。多くの病院では臨床医の判断でオーダーでき,アクセスは容易です。しかし医療被ばくの問題から,CT検査が繰り返し行われる疾患や,小児,若い女性には特に配慮が必要です。一方超音波検査は,患者さんへの配慮を怠らなければ非侵襲的でほぼ禁忌なく施行できます。短い間隔で繰り返し施行できるので,経過観察にも適しています。

谷口 患者さんとコミュニケーションを取りながら検査できることも利点ですね。

亀田 適宜プローブで圧迫しながら「ここ,痛いですか」と触診や対話をしながら進められます。POCUSにより患者さんの満足度が上がるという研究結果もあります1)

谷口 他の画像診断では別の場所で検査し,結果が返ってくるだけですので,このような経験はできません。

亀田 指導者が立ち会えば,一緒に画像を見ることでフィードバックが受けられます。今後,POCUSはますます身近になると感じています。

研修医はどこまで学ぶべきか,押さえておきたいポイント

谷口 研修医は何をどこまでできればよいのか。これにはまだ答えが出ていません。医学教育モデル・コア・カリキュラムでは,超音波機器の原理とそれによる診断と治療の基本を学ぶこと,心臓・腹部の超音波検査を実施できることが目標として示されていますが, 具体的な基準は定められていないからです。

亀田 現場の実情も,日本では医師によってさまざまで標準化されていません。しかし少なくとも,検査室で行われる超音波検査を全部ベッドサイドで行うのは現実的ではありません。

谷口 そうですね。検査室で行う超音波検査とは着目点と手法を変えて,より短時間で効率的にやるのがPOCUSです。

亀田 POCUSの歴史と実績が最もあるのは米国救急医学会です。米国でも,もともとは超音波検査は放射線科医の独壇場でした。しかし夜間は専門医がいないこともあり,1990年前後から救急医によるPOCUSが使われ始めました。一定のトレーニングをした上で精度を臨床研究で確かめ,その結果を教育に落とし込み,ガイドラインを作ってきたのです。

 例えば,心臓の評価項目は多数ありますが,即座の判断が求められる急性期にすべてを評価するのは現実的ではなく,心臓の専門家以外の医師は手が出せません。心臓のPOCUSでは,専門家でなくてもベッドサイドで迅速に評価できる最低限診るべき項目が絞られ,現在ではFocused cardiac ultrasound(FOCUS)として国際的にある程度合意が得られています(表1)。

表1 Focused cardiac ultrasound(心臓のPOCUS)で評価する4項目

谷口 腹部はいかがですか。

亀田 水腎症・尿路結石,胆石・胆嚢炎,腸閉塞,腹部大動脈瘤,腹腔内出血・腹水においてPOCUSによる評価の妥当性が臨床研究で示されています2)。特に全体像の描出が比較的容易な臓器はPOCUSに向いています。例えば水腎症は,腎内に特徴的な形状の無エコーが観察されるため,rule-in/rule-outが比較的容易で,POCUSが非常に有用な病態です。

谷口 これまで超音波検査室で対象とされていなかった疾患に対してもPOCUSが活用されてきていますよね。

亀田 最近,気胸や肺水腫がPOCUSで迅速に評価できることが示され,海外では積極的に使われるようになっています。日本でも急性期診療で普及してきています。

 救急では骨折の判断に使えます。X線画像を撮れない病院外や災害現場で特に有用です。

谷口 肋骨骨折など,動くと痛いような方が救...

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