医学界新聞

2017.08.28



Medical Library 書評・新刊案内


組織で生きる
管理と倫理のはざまで

勝原 裕美子 著

《評者》 松村 啓史(テルモ株式会社顧問)

一人の人間として,いかに倫理的に振る舞うか

 本書は,社会に生きる人間として守るべき「倫理」という秩序を,組織の「管理」の中でいかに貫くかを看護師,医療者,そして人間と,立場を変えた視点から深く掘り下げています。また,従前,あまり光が当たってこなかった現場での倫理的問題を現実に即して追究しています。取り上げられた数々の事例が頭と心に突き刺さり,的確な課題対応について考えさせてくれます。

 実際に倫理的問題に遭遇しても,安易に判断したり,周囲の空気や過去の事例にとらわれてしまったりして,もともと自分が持っている人間としての倫理観で考えられることが損なわれてしまうことが少なくありません。本書は,看護管理者たちへのインタビューを通して,さまざまな事例を引き出し,医療従事者のそれぞれの立場における倫理的価値観について考察を加えたかたちで構成されており,提示された「Question」などに答えながら読み進むうちに,自然と引き込まれている自分に気が付きます。図表も多く,内容が整理されて読みやすく,読者は読みながら考え,悩み,自己の倫理観を見直す機会とすることができます。

 著者は,看護管理者向けに「管理者の倫理的意思決定」という講義を長く続けてこられた研究者であり,実践者です。本書によって,病院という生死を扱う現場では,いかに適正な倫理を貫く姿勢を保つか,それを個人と組織双方の観点から学ぶことができます。また,職場風土によっては,個人の正義や良心,倫理観といったものにふたをされていく可能性があることを懸念し,“感受性の封印”があってはならないとして警告を発しています。

 さらに,看護管理者のアイデンティティを“個人”“看護師”“組織人”“管理者”の4つに分け,法律や権利,経営,患者ニーズなどの17項目の道徳的要求を持つ局面を解説しつつ,「管理と倫理のはざま」で起こる倫理的問題をどう整理していくかを読者と共に考えます。

 今日,倫理的問題は,病院組織だけでなく,一般企業でも大きな問題となっていますが,なかなか明るみに出ないことのほうが多いのが実情です。発生した小さな事例にふたをしてしまうことで,後々大問題に発展することは少なくありません。著者はインタビューで得た「隠してしまったことのほうが,してしまったことよりも罪が重い」(p.54)という言葉に光を当てています。これは至言であり,命にかかわる仕事に限ったことではありません。

 また,「職業的な専門知識や技術をもつことと,その人の倫理的判断が妥当であるかどうかは関係ない」(p.195)というクーゼの言葉を示し,組織図上の権限と,職種による権限の,二重権限構造という病院ならではの指示命令系統が生まれている実情を浮き彫りにしています。このような医師と他の職種の間で,しばしば起こる...

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