MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2017.08.21
Medical Library 書評・新刊案内
金城 光代,金城 紀与史,岸田 直樹 編
《評 者》上野 文昭(米国内科学会(ACP)日本支部・支部長)
いったん学べば一生の財産に
医学書籍を選ぶとき,私はまずタイトルに興味を引かれるかを優先する。当然である。次に,著者が信頼できる医師と周知されていれば,既にこの時点で評価は高い。本書は,近年ますます重要さを増しているジェネラリスト内科医のためのマニュアルであり,優れたリウマチ内科医であると同時に日本のジェネラリスト内科医のリーダーとして敬愛している金城光代氏(沖縄県立中部病院総合内科/リウマチ・膠原病・内分泌科)とそのグループが編集・執筆された書籍となれば,もう期待感は最高潮である。
医師の財産となるような記載
前半は初診外来での症候ごとに,考えておくべき疾患がCommon/Criticalの別にリストされ,医師の臨床能力を駆使した診断アプローチが手際よく展開されている。検査や治療に関する記載は,最小限にとどめられている。序文にもあるように,検査や治療と異なり,症候学のアプローチは時代遅れになることがほとんどないため,本書の記載の大部分は,いったん学べばこれからの医師の一生の財産となることは間違いない。
後半は診断がついた後の継続外来の進め方や,健診への対処の仕方などであり,内科日常診療の90%以上が網羅されている。わが国では,健診異常者はスペシャリストに紹介されることが多い。その場合でも何を目的に紹介し,どのようなことが行われるかを理解する上で役立つ内容が記載されている。
これからの時代に読んでおくべき一冊
今,世界ではValue-Based Medicineの波が押し寄せている。近い将来のパラダイムシフトにより,ジェネラリスト内科医が医療の主役となると確信している。供給過剰気味のスペシャリストは,超専門診療への特化またはプライマリ・ケアも同時に行う専門医へと二極化していくと思われる。ジェネラリストはもちろんのこと,プライマリ・ケアを担うスペシャリストにこそ,本書を熟読されることをお勧めしたい。
A5変型・頁736 定価:本体5,400円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02806-6
坂井 建雄 著
《評 者》松村 譲兒(杏林大教授・解剖学)
簡明にして深い《標準》
今春,医学書院の《標準》シリーズの一環として,満を持して『標準解剖学』が上梓された。さかのぼること40年,藤田尚男・藤田恒夫両先生の筆になる『標準組織学 総論・各論』が発刊され,《標準》構想がスタートし,現在では,定番教科書として30科目を超える《標準》が医学生の机上に開かれている。日本で最も知られたシリーズであることに異議を唱える方はいないであろう。にもかかわらず,なぜか解剖学の姿だけがなく,あたかも「永久欠番」の様相を呈していた。
「なぜ?」と問われれば,まず《標準》という言葉の重さが理由に挙がるだろう。《標準》シリーズの評価が定着するにつれ,何をもって解剖学の《標準》とするかが課題になった。全国の先生が「誰がこの大仕事に手を染めるのか?」と見つめるうちに歳月を経たというのが正直なところかもしれない。
今回,その大仕事に立ち向かわれたのが坂井建雄教授(順大大学院)である。しかも,おそらく日本中の解剖学教員が抱いていた「標準=詳細で分厚い」という予想を覆し,坂井流の,簡明にして深い《標準》を創り上げられた。重さ1260 g,本文569ページと小ぶりなので,『標準組織学』や『標準生理学』を見慣れた方は「これだけで大丈夫?」と心配されるかもしれない。しかし,ひとたびひもとけば,それが杞憂であることがわかるであろう。
従来の解剖学書が「系統解剖学」に基づくのに対し,本書は「局所解剖学」が中心に据えられている。最初の約50ページで各器官系に触れた後は,胸部・腹部・骨盤部・背部・上肢・下肢・頭部・頸部・中枢神経の順にバランスよく解説されている。どこに何を記載するかは難しいところだが,本書には一点のよどみもない。章の冒頭には構成マップが設けられ,各項の関連が一目で把握できる。また,随所に組み込まれた「Developmental scope」「Functional scope」「Clinical scope」は,発生学,生理学,臨床医学との関連を理解する大きな助けとなっている。
坂井教授が本書に取り掛かられたのは随分と前のことである。ほぼ脱稿まで進んだ原稿を破棄されたり,図案を何度も検討されているとの話も耳にした。本書は,推敲を重ねた結果たどりついた「坂井流哲学」の具現であり,単なる教科書ではない。このように斬新な「本格的解剖学書」を目にすることができ,単純にうれしい。
最後に,というよりも,むしろ最初に述べるべきだったと思うが,本書の図は全て阿久津裕彦氏(東京藝大)の手になる「描き下ろし」であり,本書の価値を格段に高めている。かつて『グレイ解剖学』が2人のヘンリーによって上梓されたことを彷彿とさせる。本書『標準解剖学』が出版されたことで《標準》シリーズというチームにようやく「先頭打者」が現れた気がする。ぜひご一読を願うものである。
B5・頁662 定価:本体9,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02473-04
藤田 尚男,藤田 恒夫 原著
岩永 敏彦,石村 和敬 改訂
《評 者》藤本 豊士(名大大学院教授・分子細胞学)
ナラティブな組織学の魅力
「藤田・藤田の組織学」という名で親しまれてきた名著『標準組織学 各論』の第5版が,装いも新たにして出版された。原著者であるお二人の藤田先生の薫陶を受けられた岩永敏彦先生(北大教授)と,石村和敬先生(徳島大名誉教授)の手になる労作である。
組織学は人体を構成する臓器や組織の構造を知るために,主に光学顕微鏡を使って,さまざまな細胞がどのように配置されているかを調べ,臓器や組織の生理機能を支える構造を学ぶ学問である。当然のことながら,組織学がカバーする範囲は人体の隅々にまで及び,含まれる情報量は膨大...
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