Patient Experience(PX)を用いたプライマリ・ケアの質評価・改善(青木拓也)
寄稿
2017.08.07
【寄稿】
Patient Experience(PX)を用いたプライマリ・ケアの質評価・改善
青木 拓也(京都大学大学院医学研究科 社会健康医学系専攻 医療疫学分野)
近年,国際的に「患者中心性(Patient-centeredness)」の重要性が再認識され,医療の質における大目標の一つに掲げられるようになった。わが国でも地域包括ケアの文脈から,患者中心性の向上をめざした医療提供体制の構築が求められている。
本稿では,患者中心性のQuality Indicator(以下,QI)であるPatient Experience(以下,PX)の概念や,プライマリ・ケアにおける我々の研究活動について紹介したい。
医療の質における「患者中心性」と「PX」
「質(Quality)」は,もともと一般産業から医療に輸入された概念であり,その本来の定義は「顧客要求への適合」である。ただし,医療の場合は高度化・専門分化に伴い,患者・医療者間の情報の非対称性が拡大した結果,EBMに基づく臨床プロセスなどの客観的指標が重視される一方で,患者の視点は医療の質評価において軽視されてきた。しかし近年,疾病構造の変化や医療の地域移行の影響により,「患者中心性(患者のニーズや価値に応じたケアの提供)」の重要性が改めて見直され,医療の質における大目標の一つに掲げられるようになった1)。
患者中心性を定量的に評価するQIとして,患者満足度は以前から用いられている手法であるが,客観性・弁別性などの点において限界があり,施設間比較や継時的変化の検出,質改善課題の特定が困難であった。そこで近年,欧米を中心に,患者満足度に替わる新たな患者中心性のQIとして,PXが注目されている。
中でも英国や米国では,既にPX調査が全国的かつ継時的に実施され,各医療機関での継続的質改善のみならず,医療機関の認証や専門医認定・更新といった医療提供側の質の保証,診療報酬制度(Pay for performance)などにも利用されている。なお米国IHI(Institute for Healthcare Improvement)は,Population Health,Per Capita Costに加え,PXを主要3課題(Triple Aim)の一つに掲げている。
「経験」を測定するPXが国際的に注目される背景
PXは,「患者がケア・プロセスの中で経験する事象」と定義され,その評価には計量心理学的特性が検証された尺度を用いるのが一般的である。患者満足度が「満足」を測定するのに対し,PX尺度が測定する概念は「経験」である。前者の項目例は「あなたは,医師の態度にどの程度満足していますか?」,後者の例は「医師は,あなたが問題について話す時間を十分にとっていますか?」であり,PXのほうが患者属性による影響が小さく,弁別能が高いことがわかっている。またPX尺度は,複数の項目を合わせて一つの構成概念を測定するため,妥当性や信頼性が高いことも特徴である。
PXが国際的に注目されるようになった背景として,患者中心性そのものが医療の質における重要な目標であることに加え,これまでの多くの研究により,PXが,臨床プロセス,患者のアドヒアランス,予防医療行動などを通して,健康アウトカムに影響を及ぼし,さらに患者安全とも関連するといった知見が徐々に明らかになってきたことが挙げられる2)。
日本版PX尺度「JPCAT」の開発と研究から得られた知見
わが国では,これまでPXに関する研究活動や活用事例は非常に乏しく,特にプライマリ・ケアや地域包括ケアにおいて重要な目標である患者中心性の評価・改善に必要な体制は......
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