医学界新聞

2017.05.08



Medical Library 書評・新刊案内


《眼科臨床エキスパート》
眼形成手術
眼瞼から涙器まで

吉村 長久,後藤 浩,谷原 秀信 シリーズ編集
高比良 雅之,後藤 浩 編

《評 者》三村 治(兵庫医大特任教授・神経眼科治療学)

眼形成をサブスペシャリティにする上で必読の書

 手術関係の学会に行くと今や「眼科医総白内障surgeon時代」または「眼科医総硝子体surgeon時代」が到来したかの印象がある。確かに手術器械や手術手技が劇的に進化し,これまでよりはるかに低侵襲で,短時間で確実に手術が終了する時代になっている。しかし,内眼手術はあくまで眼科手術の一部であり,いくら白内障手術や硝子体手術が短時間で終了できてもそれが全てではない。これからの眼科専門医は白内障手術や硝子体手術以外の分野で,もう一つのサブスペシャリティを持つ必要がある。その中で眼科医にとって大きな割合を占めるものは緑内障や眼表面疾患,メディカルレチナの分野であるが,患者側からのニーズの割にサブスペシャリティとして選ばれていないのが眼形成の分野である。高齢者になると加齢性眼瞼下垂や上眼瞼皮膚弛緩症は必発と言ってよいほど高率にみられる。また,涙器の異常や眼窩の異常は年齢を問わず出現してくる。しかもこれらの患者は眼科専門医なら当然診療ができるはずとの認識で,まず眼科医を受診する。これらの患者に対応するためにも,眼形成手術の対象,基本的な手術手技,専門医へ送る基準などを知っておくことは極めて重要である。

 本書は眼形成手術のそれぞれの分野のエキスパートが,豊富な臨床経験に基づいてさまざまな手術手技の解説を行うものであるが,まず総説と総論とで約140ページを費やし「解剖」や「初診時にどう診てどう考えるか」「診断・治療に必要な検査」「形成手術概説」を「眼瞼」「眼窩」「涙道」それぞれについて解説している。もちろん対象患者が受診した際に,本書の「各論」を疾患ごとに読むのも一つの読み方であるが,ぜひ時間があるときには「総論」をお読みいただきたい。これを読むだけでも十分本書を購入する価値がある。

 このシリーズの中でも本書の最大の特徴は「各論」の項目の中で,特に患者数が多く,手術手技が多く施行されている眼瞼疾患や眼窩疾患では,複数の執筆者が自身で熟達している手技ごとに解説していることがある。特に一般眼科医が最も身近に感じる退行性眼瞼下垂ではうれしいことに3人のエキスパートがそれぞれ「挙筋群短縮術」「Müller Tuck法」「挙筋短縮術」を執筆しておられる。多くの眼科医は複数の手技があっても実際には得意な1つの手技しか使っていないことも多いはずであり,本書はその欠点をカバーしてくれる。さらに各項の最後にはこのシリーズの定番となった「一般眼科医へのアドバイス」で各執筆者からの診療の注意やコツが記載されている。

 繰り返しになるが,加齢性眼瞼下垂などは眼科医であれば必ず毎日のように診察しているはずである。適切な検査を行い,患者のQOLを改善するためにも眼形成の知識・手技を修得する必要がある。本書は眼形成をサブスペシャリティにする上でまさに必読の書である。

B5・頁480 定価:本体18,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02811-0


ネルソン小児感染症治療ガイド
第2版

齋藤 昭彦 監訳
新潟大学小児科学教室 翻訳

《評 者》大曲 貴夫(国立国際医療研究センター病院副院長・総合感染症科長・国際感染症センター長・国際診療部長)

経験豊かな指導医による回診時の小講義を思い出す

 評者自身は成人の感染症を専門としているが,修練の過程で,そして感染症医となってからも3~4歳以上の小児の感染症診療にはコンサルテーションを通じて時折かかわってきた。しかし評者は小児感染症の全体像を学んでいるわけではなく,本物の小児感染症医の先生方とは知識も経験も比較しようもない。本来この書籍はポケットに入れて日常診療の中で日々役立てるものだが,このような評者の背景もあるため,評者自身は本書を「小児感染症を知るための手引き」として読ませていただいた。

 本書全体に一貫しているのは,現在わかっているエビデンスと,エビデンスのない領域を徹底して意識し,それを指針にきちんと反映している点である。特に参考となるエビデンスのない事項に関しては,それを明確にコメントとして示している。例えばマイコプラズマによる下気道感染の項目では「小児における前向きのよくコントロールされたマイコプラズマ肺炎の治療のデータには限りがある」との記載がある(p.83)。マイコプラズマ肺炎の治療薬を丸暗記することは誰でもできるが,このような記載に,編集された先生方の臨床医としての良心的な姿勢を感じる。また多くの感染症の治療期間は慣習的に定まってきたものでエビデンスに欠けるが,これもきちんと書いてある。治療期間の設定についてのマニュアルの書きぶりがあまりに断定的であれば,教条的になってしまう。読者がその記載に盲目的に従ってしまえば診療に悪影響を及ぼす。「定まっていない」ことが明確に書かれていれば,最終的にはやはり全体像を踏まえての医師の判断が必要であることを意識できる。

 また本書では,疾患の自然経過についても各所に示してある。診断と経過観察を行う上で自然経過を知っておくことは大前提と言えるが,それを学べるテキストやマニュアルは少ない。

 また患者の管理上,さまざまな判断が必要となる場合は,いわゆるコツが必要となる場合もある。それがコメントとして随所に記載されているのも本マニュアルの特徴である。...

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