医学界新聞

寄稿

2017.05.08



【FAQ】

患者や医療者のFAQ(Frequently Asked Questions;頻繁に尋ねられる質問)に,その領域のエキスパートが答えます。

今回のテーマ
小児食物アレルギーの発症予防――最近の知見から

【今回の回答者】夏目 統(浜松医科大学小児科 助教)


 以前は,食物アレルギーの原因として「未熟な腸」が感作の場になると考えられたため,食物アレルギーの発症予防として乳児期の食物除去が推奨された時代がありました。しかし近年になり,食物アレルギーの感作の中心的な場は「炎症のある皮膚」(アトピー性皮膚炎)であることが明らかにされ,経口摂取はむしろ免疫寛容をもたらすことがわかってきました1)

 さらに2015年以降,卵やピーナッツなどの食物アレルギーの頻度が高い食品を乳児期早期に摂取するほうが食物アレルギー発症が少ないとするランダム化比較試験(RCT)が発表され2~4),システマティックレビューでも同様の結果が報告されています5)


■FAQ1

食物アレルギーの発症予防には,「除去」と「乳児期早期からの摂取」のどちらが良いですか?

 2000年代前半までは,食物除去によって食物アレルギーの発症が予防できるかもしれないと考えられていました。しかし,近年になり真逆の結果が報告され,乳児期早期からの摂取開始が食物アレルギーの発症予防になることが明らかにされました5)。これらの中から,重要な3つの研究を紹介します。

❶LEAP study2):2015年に,世界で初めて早期摂取による発症予防効果を明らかにしたRCTです。この研究では,アトピー性皮膚炎,もしくは鶏卵アレルギーを持つ生後4~10か月の乳児640人を対象に,生後4~10か月からピーナッツ24粒相当/週を摂取する群(ピーナッツ摂取群)と,除去する群の2群に割り付け,5歳まで継続してピーナッツアレルギーの発症率を比較しています。その結果,5歳での発症率は,ピーナッツ摂取群で3.2%,ピーナッツ除去群で17.2%と有意差(p<0.001)を認めました。ただし,生後4~10か月の摂取開始時点でアレルギー症状を認めた児がおり,どのように摂取開始するかという課題が残りました。

❷EAT study3):アトピー性皮膚炎の有無に関係ない母集団を対象に,卵,牛乳,小麦,ゴマ,魚,ピーナッツを生後3か月から摂取開始する群と,生後6か月以降に自由開始する群にランダム割り付けした試験です。結果は,プロトコール通り摂取した児に限定すると,3か月から摂取開始する群で卵とピーナッツアレルギーは有意に発症率が低下しました。ただこの研究では,プロトコール通り生後3か月から摂取開始できたのは参加者の5割程度で,たくさん食べて予防するという方法は実行可能性が低いという問題が残されました。

❸PETIT study4):筆者らが本邦で行った卵アレルギーの発症予防研究で,アトピー性皮膚炎乳児を対象に,生後6か月から卵摂取を開始する群と生後12か月まで除去する群を比較したRCTです。結果は,生後6か月から卵を摂取した群の卵アレルギー発症率8%に対して,プラセボ(除去)群では38%と,早期摂取により発症が予防できました()。ここで重要な点は,予防のために摂取した卵たんぱく量は生後6~9か月は「ゆで卵換算で0.2 g/日」,生後9~12か月は1.1 g/日というごく少量,つまり「安全な量を摂取していれば予防できた」という点です。これまでの報告は,「たくさん食べて予防しよう」と考えられていましたが,それによって食べ始めにアレルギー症状が出現することや,現実には大量に食べられないなどの問題点がありました。ごく少量でも予防効果があることが本研究において明らかにされ,この方法を応用すれば,多くの食品で食物アレルギーが予防できる可能性が見いだされました。

 卵アレルギー発症予防研究(PETIT study)(文献4より改変)
生後6か月から卵たんぱく摂取を開始した群が,生後12か月まで除去した群に比べて卵アレルギーの発症率が有意(p=0.0001)に低い。

Answer…従来は「除去」が望ましいとされていましたが,現在は「乳幼児早期からの摂取」が食物アレルギー予防に効果的であることが明らかになっています。本邦で筆者らが行った研究においても,同様の知見が得られました。

■FAQ2

どんな乳児に,どのように,早期摂取すべきと伝えればいいですか?

 現在までの食物アレルギーの発症予防研究で発症予防効果が認められた研究2, 4)は,湿疹のある児を対象とした研究で,湿疹がない児を対象とした場合の早期摂取には有意な予防効果が明らかにされていません5)。そのため,2000年初頭のガイドラインで述べられた,アレルギー疾患のハイリスク児は食物除去をすべきとする内容とは真逆で,湿疹のある児こそ「早めに,少量ずつ食べる」必要があります。大量に早期摂取させる予防研究では,食べ始めに5~30%の有害事象が出現したと報告されています2, 5)。ゆで卵換算で0.2 g/日程度などごく少量から開始することが重要です。

 では,湿疹のない乳児は早期摂取すべきでしょうか。現在わかっている範囲では,早期摂取するメリットはあまりないかもしれません。ただ,早期摂取をして食物アレルギーが増加した報告はなく,摂取開始が予想以上に遅れて食物アレルギーとなるリスクを負うことを考えると,早期摂取しておくことが肝要と考えられます。

Answer…湿疹のある児こそ「早めに,少量ずつ食べる」必要があります。ゆで卵換算で0.2g/日程度を目安にしてください。湿疹のない乳児も,早期摂取を試みても良いかもしれません。

■FAQ3

早期摂取以外に,食物アレルギーの発症を予防する可能性がある方法はあるのですか?

 食物アレルギーの発症メカニズムの1つとして,湿疹にアレルゲンが付着することが考えられています。そのため,①湿疹を徹底的に治療すること,②(本人が食べないのであれば)家に持ち込まないことで,食物アレルギーを予防できる可能性があると考えられます。

 ①に関しては,乳児期の湿疹は食物アレルギーだけでなく,その後の喘息や鼻炎の発症とも関連しています。湿疹が感作の場であることから,これを早期に積極的に治療するとアレルギー疾患が予防できる可能性があると考えられ,現在国内でも多施設共同研究が始まっています。

 ②に関しては,湿疹のある児がいた場合,その周りの家族のピーナッツ摂取量が多くなればなるほど児のピーナッツアレルギーのリスクが高くなると報告されています6)。本邦の生活様式では,LEAP study2)のようなピーナッツの早期摂取はなじまないと考える家庭も多く認めます。この場合は,湿疹のある児が食べないのであれば,家族も食べずに湿疹を早期に治療すれば,感作の時点から予防できる可能性もあるかもしれません。これらについては今後の研究結果を待つ必要があります。

Answer…①湿疹を徹底的に治療すること,②(本人が食べないのであれば)家に持ち込まないことで,食物アレルギーを予防できる可能性があります。いずれも現在,研究が進んでいる段階です。

■もう一言

 乳児期早期(生後4~6か月)から,少量ずつ継続的に摂取することが食物アレルギーを予防します。その際,感作源であるアトピー性皮膚炎の治療もきちんと行うことが肝要と考えます。また,今回は食物アレルギーの発症予防について解説しました。すでに発症している場合は『食物アレルギー診療ガイドライン2016』(協和企画)をご参照ください。

参考文献
1)Lack G. Epidemiologic risks for food allergy. J Allergy Clin Immunol. 2008;121(6):1331-6.[PMID:18539191]
2)Du Toit G, et al. Randomized trial of peanut consumption in infants at risk for peanut allergy. N Engl J Med. 2015;372(9):803-13.[PMID:25705822]
3)Perkin MR, et al. Randomized trial of introduction of allergenic foods in breast-fed infants. N Engl J Med. 2016;374(18):1733-43.[PMID:26943128]
4)Natsume O, et al. Two-step egg introduction for prevention of egg allergy in high-risk infants with eczema(PETIT):a randomised, double-blind, placebo-controlled trial. Lancet. 2017;389(10066):276-86.[PMID:27939035]
5)Ierodiakonou D, et al. Timing of allergenic food introduction to the infant diet and risk of allergic or autoimmune disease:a systematic review and meta-analysis. JAMA. 2016;316(11):1181-92.[PMID:27654604]
6)Fox AT, et al. Household peanut consumption as a risk factor for the development of peanut allergy. J Allergy Clin Immunol. 2009;123(2):417-23.[PMID:19203660]


夏目 統
2006年浜松医大卒。同大病院にて初期研修を行い,13年から3年間,国立成育医療研究センターアレルギー科に所属。そこで鶏卵アレルギーの発症予防研究を担当(PETIT study)。その研究成果がLancet誌に発表された。16年より現職。

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